第47話 意地悪な女神
アメリアが気が付いた時、いつものマーシエスと会う時の、あの不思議な空間にいた。
「アメリア、来たのですね」
「マーシエス様」
どうやら、きちんとアメリアが望んだとおりに、マーシエスと出会うことができたようだった。
「マーシエス様、あの……」
「ええ、分かっております。また一人、聖女が亡くなられたようですね。あの西に遣わされた聖女も、それは敬虔な方でいました」
どうやらマーシエスも、亡くなった聖女のことについてはよく知っているようで、その死を惜しんでいるようである。
だが、同時に女神としてはなんともやりきれない気持ちになっているようだ。
「私は、そのような話を聞くたびに、なんとも情けない気持ちになってきます。慈悲の女神と崇められておりながら、自分の使徒たる聖女に対して、過酷な運命を背負わせてしまうことに……」
そう、自分の持つ肩書に対する矛盾のような現実だった。
慈悲の女神として崇められているというのに、聖女の苦しみに対して何もしてあげられないという現実は、容赦なくマーシエスの心をえぐっている。
転生者であるアメリアには、このくらい干渉を繰り返しているというのに、他の聖女に対してはまったく同じことができない。そのことが、ますますマーシエスの苦悩を大きくしている。
アメリアもかなりの回数マーシエスと顔を合わせているがために、それなりにマーシエスの考えというのも理解できるようにはなっていた。
神という立場であるがゆえに、それほど干渉を許されないことだって分かっている。
だったら、自分にはなぜこんな風に何度も顔を合わせてくれるのだろうか。その苦悩を理解していくと、自分の特殊性というものにいろいろと考えさせられてしまう。
「アメリア、こわは私のわがままのようなものなのです。あなたがそんな風に思い悩むことはありませんよ」
そうしたら、まるで気持ちを読み取ったかのように、マーシエスが声をかけてきた。この反応には、思わずぎょっとしてしまうほどである。
「私も時々思うのですけれど、やはり、異世界からの転生者というのは、それだけ特殊な存在だと思えるのです。世界線を越えるということは、それだけ大それたことなのですからね」
「なるほど……。それでしたら、理解できなくはありません。自分に近しいところがあるからこそ、マーシエス様の過干渉が許されるのでしょうね」
アメリアはあごに手を当てながら、何度となく頷いている。
その様子を見て、マーシエスはアメリアに言葉を投げかける。
「そうでした。どうでしたか、ポーラリアの城は。一か月の滞在で何か見えましたか?」
思い出したかのように、あの時に投げかけた言葉の回答を聞き出そうとしている。
「そうですね。ポーラリアの王太子殿下は、やたらと私に対して好意をお持ちであることはよく分かりました。ですけれど、彼は私の前世の恋人ではないでしょうね」
「あら、そのように感じられましたか。その根拠はなんでしょうか」
質問に答えるアメリアだが、さらにマーシエスは詳しく聞こうとしている。
アメリアとは強いつながりがあると感じているマーシエスなので、おおよその考えていることは理解している。だが、それでもあえて本人から聞き出そうとしている。
「そうですね。一つは私に好意を向けすぎでしょうか」
アメリアは王太子が恋人ではないという根拠をひとつ挙げている。
卒業旅行の段階ではラブラブになっていたアメリアと恋人だが、最初の頃はそういう感じではなかった。むしろ疎遠というか仲が悪いというか、互いにどうでもいい存在だったところがある。それでいながら、どこか気になるというような関係だったのだ。
そのことを思えば、最初から好意的な王太子は、恋人の条件から外れてしまうというわけだ。
「二つ目としては、私がまったく何も感じないところでしょうね。気持ち的なところもですけれど、魅力も何もないといったところです」
「ずいぶんと辛辣ですね」
「恋人には妥協はしてませんからね」
アメリアの感想を聞いたマーシエスは、だいぶ驚いた表情をしている。
こうやって聞く限りは、アメリアは前世の恋人との間では、かなりの信頼関係があったのだろうと思われる。そのイメージがあるからこそ、好意的に寄ってくる王太子がどうも受け付けないということなのだろう。
「それよりも、無くなってしまったスマートフォンの方が気になりますね。あのスマートフォンは、一度電源を入れてみましたけれど、恋人が生前に持っていたものでした。待ち受け画面は文化祭の時に一緒に撮ったものでしたね。よーく覚えていますよ。高校二年生の時の出し物で一緒になった時のものです」
アメリアの記憶力にドン引きをするマーシエスである。
「あのスマートフォンは、知らない間に誰かによって持ち去られてしまいました。となれば、持ち去った犯人が私の恋人の可能性が高いと思います」
マーシエスを目の前にして、両手を腰に当てて、胸を張って言い切るアメリア。どこから来るんだというくらいの自信たっぷりな姿である。
「分かりました。あなたの恋人への想いは本物のようですね」
「当然です。大学を卒業して少し稼いだら結婚しようとまで決めていたんですからね。あんな形で離れ離れになってしまったんです。そこには未練しかありませんよ」
ぷくーっと頬を膨らませるアメリアである。
「分かりました。確認は取れましたので、今日はこのくらいにしておきましょう」
マーシエスは話は終わりといわんばかりに手をくるりと振っている。
その瞬間、アメリアの視界が真っ白に染まり始めた。
「あっ、逃げないで下さい、マーシエス様」
「必要以上の干渉をするわけにはいきません。アメリアには一刻も早く、大聖女になっていただきませんとね」
マーシエスのその言葉と同時に、アメリアの意識はあっという間に光に飲まれていく。
結局、具体的なところは全部はぐらかされたような感じである。
あがこうとするアメリアだったが、髪の力前にはすべてが無駄だったようで、あっという間に意識は現実へと引き戻されていったのだった。




