第46話 聖女と訃報
魔王といずれは戦うことになる聖女。次代の聖女たちを育成している大神殿に、衝撃の知らせがやって来た。
雪の舞う中大神殿にやって来た使者から告げられた内容に、大司教たちは声を出さずにはいられない。
「なんだと!? それは本当なのですか」
「はい、最西国の聖女様がお亡くなりになられました」
前回の聖女育成を乗り越えて聖女となった人物が、また一人亡くなったのだ。
フォトニアとは近しい年齢であるので、それなりに衰えていることは分かる。分かってはいるものの、やはり亡くなったと聞くと驚かざるを得ない。
大きな神聖力を持っていたとしても、人間である以上は衰えや寿命から逃れることはできないのだ。この知らせは、そのつらい現実をまざまざと突きつけてくる。
砂郷国や軍事国家のような厳しい環境下の国の聖女が早々に亡くなった時も痛ましいとは思っていたが、この知らせは特にフォトニアの心をひどく傷つけている。
自分の力が及ばなかったことで聖女とはなれなかったわけだし、その助けをすることだってできなかった。
次代の聖女を育成している最中とはいえ、フォトニアは自分の無力を嘆いている。
このまま、残りの聖女も亡くなってしまえば、対魔族に仕掛けた結界が崩れてしまう。そうなると、今まで以上に魔族たちの侵攻が激しくなってくることだろう。
聖女が亡くなったからといって、すぐに結界が失われるわけではないものの、やはり半数がすでに亡くなっている状況では、一人一人の負担がそれだけ増えてしまっているということなのだ。残りの聖女も、いつまでもつか分からない。
だが、聖女候補が聖女となるには、三年間の厳しい修行を乗り切らなければならない。なんとも歯がゆい感じになる大司教たちなのである。
「我々で身代わりになることができればいいのですが、そうもいかないのが聖女という立場であり、役割なのです。マーシエス様のところへと旅立たれた聖女の冥福を、お祈りいたしましょう」
「はい、大司教様」
雪の降りしきる大神殿の中では、役目を全うした聖女を弔うための祈りが捧げられる。
そのため、この日の修行はお休みとなり、聖女候補たちも同じように祈りを捧げている。
ほとんどの聖女候補は、今回亡くなった聖女について、顔も名前も知らない。これはアメリアやクレアにとってもだった。そのくらい、今回亡くなった聖女がその任に就いていた場所が遠いのである。
とはいえ、フォトニアほどの年齢だということを聞かされて、アメリアたちは聖女という立場が、いかに厳しい環境に身を置くものかということを思い知らされる。
普通ならば、そんな厳しい環境の仕事など放り投げてしまいたいものだ。
しかし、聖女候補として集められた少女たちの中に、そんな軟弱な精神の持ち主は誰一人としていない。
聖女候補として選ばれた以上は、少女たちはみなその責務を全うしようという気持ちでいっぱいなのである。なぜなら、自分たちがやり遂げなければ、魔族たちに支配されたり、戦いの巻き起こる戦乱の世となってしまうのだから。
そう、誰しもが世界の平和のためにその身を捧げるつもりでいるのだ。それが、慈悲の女神であるマーシエスの望んだものだと信じて。
この中では唯一、その慈悲の女神であるマーシエスとの接点のあるアメリアも、マーシエスの望んだものとは考えていなくても、前世の影響からか、世界平和を望んでいる。だからこそ、アメリアもみんなと同じ気持ちだ。
それに加え、自分と同じように異世界へとやって来た恋人がいると聞けば、その目的のために聖女にならなければならない。
なにせマーシエスが言うには、その前世の恋人との出会うきっかけとして、アメリアの聖女としての覚醒が必要なのだから。
(私は、必ずやり遂げてみせますとも。世界平和の維持と、前世の恋人を見つけるという二つの目的を!)
亡くなった聖女の弔いのために修行はお休みとはいえど、アメリアは心は激しく燃えている。
意気込みの衰えることのないアメリアは、グイードを探し出して、祈祷室の利用を申請する。さすがに本来は修行の真っただ中の時間なので、自室に戻るわけにはいかないのだ。
あまりにも敬虔な姿に、話しを受けたグイードは仕方なしにアメリアの申請を了承する。
許可が出たことで、アメリアは大神殿にある小さな祈祷室へと向かう。
この小さな祈祷室は、あくまでも個人の懺悔に用いられるような部屋だ。
ところが、最近降り続く雪のために、大神殿に訪れる人はほぼいない。だからこそ、こんなに簡単に申請が下りたともいえる。
部屋の中へと入ったアメリアは、早速マーシエスと話をしようと祈りを捧げる。
次の瞬間だった。
祈りを始めたアメリアの感覚が次第に不鮮明になり始めたのだ。
現実のような、夢のような、どちらともつかないふわついた感覚である。
あまりにも不思議な感覚になったアメリアは、次第に意識が怪しくなってくる。
その意識が完全に消え去った時、アメリアの体は祈りの姿勢を保ったまま、がくりと大きく首を垂れたのだった。




