第43話 収穫祭の舞
収穫祭の舞。
アメリアたちは一段高くなった舞台の上へと出ていく。それはまるで、前世でいうところのステージのような場所である。
さらには舞台の周りには近くの街や農村の人たちも集まっているとあって、気分はさながらアイドルのようである。
(今の私は聖女候補。前世のような気持ちを引きずっていてはいけません。それに、私には役目があります)
舞台の中央に立っているアメリアは、深呼吸をしている。
舞を始めるタイミングは、自分の合図だ。とにかく落ち着いていなければならない。
しかし、思った以上に集まってしまっている人々を見ていると、その視線に思わずのまれてしまいそうになる。
別に前世であがり症だったとかそういうことはないのだが、おそらくは今の体の精神状態に引っ張られているのだろう。やけにドキドキと鼓動が速くなっている。
(本当に落ち着くのです、私。あのような作戦を立ててしまった以上、私が崩れれば、みなさんがそのまま引きずられてしまいます。すー、はー……)
さすがに胸に手を当てて落ち着かせようというのは、多くの人の前ではできる行動ではない。とにかく平然とした表情をしながら、心の中で落ち着くための行動をとっている。
「アメリアさん、私たちもいます。正面ですので目立つでしょうが、私たちを信じて気楽に構えていて下さいませ」
すぐ斜め後ろにいるクレアからも声をかけられる。
どうやら、緊張していることが伝わってしまったらしい。
クレアは足の筋肉痛のことがあってからというもの、かなりアメリアのことを慕っている。だからこそ、逆の立ち位置になった時には自分が支えようという気持ちになっているのだ。
クレアからの言葉は、ずいぶんとアメリアの気持ちを楽にしてくれる。
さっきまでの緊張が嘘のように、すっかり気持ちが落ち着いてきてしまった。
しばらくすると、大神殿の神官たちが出てきて、聖女候補たちによる女神と聖女への感謝の舞を奉納するという宣言がなされる。
この舞には音楽が伴っているわけではないので、踊りのペースというのは踊り手に一任されてしまっている。
アメリアは覚悟を決めると、踊り始めの合図となる光の玉をよっつ浮かべている。
舞の練習をしていた時に、どうも基本的な動きが四拍子っぽかったためだ。
クレアたちに視線で合図を送ると、アメリアは目の前に浮かべた光をひとつずつ順番に弾けさせていく。
よっつすべての光が弾けると、アメリアたちは収穫祭の舞を踊り始める。
アメリアたちは実にゆったりとした動きで、舞を披露していく。
この収穫祭で奉納する舞には、実は物語があるのだという。
かつての聖女が力を授かり、勇者と呼ばれることになる王子と出会い、ともに魔王を打ち倒し、帰還してくるまでのストーリーなんだとか。
ただ、それをそのままに踊るとなにかと不都合もあるらしく、大神殿なりの宗教的な舞に仕立て上げられている。
そう、大振りの動きというのは、魔王を打ち倒す時の勇者の動きだ。攻撃を躱し、剣を振りかざすという動きが、この中でも随一の激しい動きとなっているのである。
アメリアたちはその舞を見事に踊り切る。
そうすると、会場中に集まった人たちからは様々な反応が見られた。
見事な舞であることから拍手だったり、両手を合わせて泣きながら拝んだりと、人によって反応がまったく違っている。
一方のアメリアたちは、無事に舞を舞いきれたことに安どの表情を浮かべている。
手を組んで、祈りを捧げるような仕草をすると、順番に舞台の上から降りていった。
(うん? 何か視線が……)
アメリアが舞台から降りようとして裾の階段に足をかけようとした時だった。
ふと視線を感じて、くるりと振り返ってしまう。
急に立ち止まってしまったアメリアに気が付いて、クレアも足を止めてくるりと振り返る。
「アメリアさん、早く降りて下さいませ」
「え、ええ」
クレアに声をかけられたアメリアは、気のせいだったのかなと思い、そのまま舞台から降りていった。
アメリアたちはその足で、大神殿の中へと戻っていった。
こうして、無事に収穫祭は終わりを告げた。
この日の夜の食事は、いつもの食事に比べてかなり豪華である。それでも、ポーラリアの国王たちが来ていた時に比べれば貧相である。
それでも、大地の恵みをいただけることに感謝をしながら、アメリアたち聖女候補たちは、少し豪華な食事をしっかりと味わう。
その食事を終えて自分の部屋へと戻ったアメリアは、これといってやることもないので、今日の精神的な疲労からか、すぐにベッドに横になってしまう。
ただ、すぐに眠れたかというと、そうでもなかった。
収穫祭の舞台から降りる時に感じた視線が気になっているからだ。
しかし、あれが一体何だったのかといくら考えようとも、答えが出るわけでもない。翌朝寝過ごしてしまうわけにもいかず、アメリアはそっと目を閉じたのだった。
こうして、恵の季節である秋は終わり、ポーラリア王国には寒い冬がやって来たのであった。




