第42話 まいマイきりきり舞い
収穫祭。
慈悲の女神マーシエスと魔王を打ち倒した聖女の功績を称えて行われる、秋の一大イベントである。
アメリアたちが滞在する大神殿では、その収穫祭で舞を披露するというのが、長らくの伝統となっている。
今年の収穫祭では、アメリアたち聖女候補の代表五名が舞を披露することとなった。そこで、経験者であるフォトニアと、舞を見たことのあるクレアの二人で、アメリアたちに舞を教えることとなったのだ。
まずはひと通り、フォトニアが踊ってみせる。
その舞は高齢となった神官でも舞えるゆったりとした踊りのようだ。
そのゆったりとした中にも、しっかりとした信仰が込められた動きとなっており、まさに聖女候補たちが踊るに相応しいものとなっている。
「いかがでしょうか。今のが収穫祭で舞う踊りとなります。クレアさんの記憶のものとはどうでしたでしょうか」
「はい、覚えている通りでした」
「そうですか。それでは、二人で二名ずつ見ることとしましょう」
「承知いたしました」
クレアの記憶通りの舞だったので、どうやらフォトニアの負担は半分で済みそうである。
こうして、収穫祭の舞の特訓が始まる。
アメリアは学生時代に盆踊りを踊った経験があるものの、その経験が活きるのかはまったく想像がつかない。とりあえず、踊りを見せてもらったので、それをきちんと覚えて踊るだけである。
反則的なのは神聖力だけなのか、どうやらアメリアの踊りに関しての技量は比較的普通のようである。
ゆったりではあるものの、方向転換や大振りの動作もあり、そういう時にアメリアはふらついてしまっていた。普段が普段なだけに、クレアたちはなんとも意外な印象を受けている。
「アメリアさんって、体幹はぶれてしまっているのですわね」
「どうやらそのようですね……」
本人も予想外だった。
(まさかの運動音痴とは思いませんでしたね。前世は得意だったはずなんですけれど……)
思いもよらぬことに面食らいながらも、アメリアはどうにか収穫祭で披露する舞の特訓を頑張っている。それこそ、寝る間を惜しむような感じだ。
フォトニアやクレアの指導と、本人の頑張りもあり、三日もすればほどほどいい感じになっていっている。アメリアはやればできる子だった。
「悔しいですわ。あれだけ下手だと思っておりましたのに、こんなに簡単に上達するだなんて」
「やはり、アメリアさんはずいぶんと普通の方とは違いますね」
舞の練習では、こんな言葉を投げかけられてしまうほどだった。
下手だと思わせておいての上級者入りとは恐れ入る話だ。さすが、もう聖女でいいといわれただけのことはある。
収穫祭の予定日二日前には、舞を披露する五人そろって舞を合わせてみることになった。
やはり神様への奉納というわけなので、そろっている方がよりよいためだからだ。
ところがどっこい。やはりいざ合わせてみようとすると、みんな動きがバラバラになってしまう。
同じ動きをしているはずなのだが、どうしてかタイミングがずれてしまうのだ。
音楽でもあればそろえられそうなものなのだが、大神殿には音楽のようなものが存在していない。そういうこともあり、タイミングをうまく測れないようなのである。
こういうことを思うと、今までの踊り手たちはどうやってタイミングを合わせていたのだろうか。アメリアたちは不思議に思ってしまう。
そうして考え抜いてみた結果、最初のタイミングだけを、どうにかそろえてみようということになった。しかし、全員がロングスカートを穿いている状況では、足を動かしてタイミングを計るということはできない。なんともこのタイミングをそろえるということだけで、なんとも悩ましい状況になってしまっていた。
なんということだろうか。結局このタイミングを合わせることは最後まで叶わず、動きだけはマスターできた状態で、収穫祭当日を迎えることになってしまった。このまいというのは、収穫祭の目玉でもある。だというのに、なんとも不安しかないというものだ。
幸いなことに、聖女候補たちによる舞の奉納は、収穫祭のトリともいえるというタイミングでの披露となる。そう、まだなんかとするだけの時間があるのだ。
「ああ、どうしましょうか。わたくしたちの息がそろわないというのに、段々と出番が近付いていますわ」
クレアがおろおろと慌ててしまっている。
アメリアたちの中でも、踊りの上手なクレアがこんな状態では、他の面々も不安になってきてしまう。これはなんとも由々しき事態なのである。
そこでなんとかしようと考えたのが、アメリアだった。
「仕方ありません。目立ってしまうかもしれませんが、これを使ってみましょう」
「何をしますのよ」
クレアが疑問を呈する中、アメリアは自分たちの眼前に光の玉をいくつか浮かべている。そして、それを順番に弾けさせていったのだ。
「こうやって三つ数えますので、その最後の光が弾けた時に、私たちの舞を始めるとしましょう。ちょっと目立ちますが、そうするしかありません」
意外にも、この方法についてみんなはあっさりと了承をしてくれた。
ギリギリの、本当のギリギリで、どうにか方法を思いついたアメリアたち。
そして、いよいよ舞を披露する時間を迎えることになったのだった。




