第40話 言い出せない疑念
一ヶ月の経過を待って、アメリアは大神殿へと戻って来た。だというのに、アメリアは随分と長く城に滞在していた気持ちになっている。だいたいは王太子のせいだった。
大神殿へと到着すると、グイードやクレアがアメリアを出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。わがままを言いまして、本当に申し訳ございませんでした」
「いえ、このくらいなんてことはありませんよ。とにかく無事に戻って来れたことを喜びましょう」
グイードは、アメリアが無事に戻ってきた事実を素直に喜んでいる。
「クレアさんも、お出迎えありがとうございます」
「別に寂しくなんかなかったわよ。友人として当然というだけですわ」
アメリアがお礼をいうと、クレアはなんともツンデレな反応を示していた。
クレアの態度には、アメリアはついつい笑みを浮かべてしまうくらいだった。
「も、もう。何を笑っているんですか」
「いいえ。またよろしくお願いしますね」
「と、当然ですわよ」
出迎えが終わると、アメリアはみんなのところへと戻っていく。
ところが、アメリアはみんなのところにすぐ戻れるというわけではなかった。
今すぐにでも聖女になれるとはいっても、教育の場では特別扱いはできない。この一か月の間、フォトニアの教育を受けなかったことがどう影響するのか分からないので、しばらくの間、一人だけ特別授業が課されることとなった。
普通はそれだけ修行が厳しくなるということなのに、アメリアはむしろどんと来いという感じで、どっしりと構えている。
さすが今すぐにでも聖女になれると言われた人物だ。心構えが他の聖女候補とはまったく違っているようだ。あまりにも余裕の感じられる態度に、フォトニアも少しばかり恐ろしさを感じてしまった。
そして、アメリアに対する特別授業は、その日の内から始まった。
ところが、座学ならまだしも、実技系の授業は、でたらめながらもアメリアの方がしっかりとこなせているように見える。
そのこともあってか、一か月の遅れなぞ、一週間もしないうちに取り戻すことができたようである。
いくらなんでも規格外すぎじゃないかと、フォトニアたちは心の中でツッコミを入れるほどだった。
それとは別に、アメリアからはお城での生活のあれこれを聞き出していた。
その中でも特に注目されていたのが、グイードからも報告のあった、急性魔力欠乏症だった。
アメリアの持っている神聖力はけた違いに多いことが分かっている。
そんな化け物じみた神聖力の持ち主が欠乏症で生死の境をさまよったのだ。どんな大それた力を使ったのだと、誰しもが興味を抱くものである。
グイードからの証言もあるし、アメリアからはどのようなことが聞けるのか。特に大司教であるマカエルは、寝不足になりかけるほどのことである。
アメリアからの証言では、王都を散策中に、暴走する馬車に出くわしたということだった。
その時に一緒に事故に巻き込まれそうになっていたのが、ポーラリア王国の王太子であるマリオだった。
彼に何かあってはいけないということで、アメリアは助けようとして力を使ったわけなのだが、どういうわけかその力が暴走したような感じになって、急性魔力欠乏症を発動するに至ったと証言していた。
「なるほどですね。王太子に何かがあってはいけないということで、とっさに力を遣ったら暴走してしまった。そういうことでよろしいですか?」
厳密には違うのだが、アメリアは詳細に説明するのも面倒になって、その理解でいいですと言い切ってしまった。
だが、ただの魔力暴走であるのならいろいろと説教を行われるところだった。人を助けるために力を使い、結果暴走したのであるのなら、ひとまず咎めないという結論に至ったのだ。
聖女という存在の根本的な意義は、自己犠牲である。それゆえに、助けようとした結果での暴走ならば、被害も小さかったことでお咎めなしとなったのだ。
ただし、毎回魔力暴走をされては困るということで、その点においてもっと制御できるようにと口酸っぱく言い渡されてしまった。
結果としては同じなので、アメリアはその言葉をしっかりと受け入れていた。
ところが、このアメリアの証言には、疑いの目を向けるものがいた。
それは誰かと聞かれたら、現場にはいなかったものの、一番近しいところにいたグイードである。
その理由は、王太子や同行していた騎士と侍女からの聞き取りも行っていたからだ。王太子はしょうがないとしても、客観的な判断の行える二人からの証言はグイードに疑念を抱かせるには十分なのだ。
(やはり、アメリアさんの証言では、いろいろと無理があるように思えますね。一帯あの時、アメリアさんはどんな奇跡を起こしていたのでしょうか)
グイードはアメリアの力に、疑いと興味を抱いている。
だが、自分は一介の神官に過ぎない。疑念を抱いたとはいえど、それを深く追及するだけの立場にはないのだ。
それだけ難しい立場のグイードは、黙ってアメリアの様子を見守ることにした。いずれはその話をすることになると信じて。




