第30話 王都散策
馬車を降りたアメリアは王太子と一緒に王都の散策を行う。
二人は最初に服飾店へとやって来た。いろんな事情から、最初に済ませるのが好ましいからだ。
ところが、アメリアはあんまりいい反応をしない。
それというのも、聖女候補だからだ。お城に滞在しているのは呪具の状態の確認のため。
その期間が過ぎれば、アメリアはまた大神殿に戻らなければならない。服を買っても着ることはまずないと考えられるからだ。
(それに、クレアたちが頑張って修行をしているというのに、一人だけこんな恵まれた生活をしているわけにはいかないんです。試着だけで、なんとか済ませておきませんとね)
アメリアは無意味なことをしたくないと、とにかく固く心に誓い、店の中へと入っていく。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか」
護衛の一人とアメリアにつけた侍女モネを伴い、アメリアは王太子とともに店内に踏み入れる。
それと同時に店員に声をかけられる。
「婦人、この子に服を見繕ってもらえないだろうか」
「まあ、可愛い子ですね。それでしたら、申し訳ございませんけれど、採寸からさせていただいてよろしいでしょうか」
王太子が注文を出すと、店員は採寸をさせてもらいたいと返してきた。体のサイズが分からないと似合う服を見立てられないからだ。
王太子が了承をすると、モネがアメリアについて、店員と一緒に奥の部屋へと移動していく。
採寸の間、王太子は椅子に腰かけて待つことにした。
採寸を行う部屋にやって来たアメリアは、朝に着付けてもらったドレスを脱いでいる。これもありあわせのドレスなので、アメリアには微妙にサイズが合っていない。
「あら、このドレスはこの子のものではないですね」
店員が気が付いたことを口にすると、モネは静かに立てた人差し指を唇に当てている。黙りなさいということだ。
この動作に気が付いた店員は、ごくりと息をのんで黙り込む。詮索をすればどのような目に遭わされるだろうか、その恐怖がよぎったからである。
肌着だけになったアメリアは、店員にてきぱきと採寸をされていく。
その最中、店員はあるものに気が付いた。
(あらっ? 髪の毛に隠れてよく見えなかったけれど、首筋に傷があるわね。うっすらとしているから、これだとよく見ないと気が付けないものだわ)
店員が首周りの採寸をしていた時に、髪の毛の生え際からちょこっとだけのぞく傷痕を発見したのだ。
だが、あまり目立たない傷なので、店員は伝えるかどうかをためらった。
「あの、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。採寸を続けます」
アメリアが気にかけたので、店員は慌ててごまかしている。そして、採寸を再開させていた。
きちんと採寸が終わると、店員が服を持ってくる。
「お嬢様の体格ですと、このような服がお似合いになりますね。採寸をしましたので、ご希望があればオーダーメイドも承ります」
「それは、坊ちゃまのお意見をお聞きしてからの方がよろしいですね」
店員がオーダーメイドの話を出すと、モネがすかさず口を挟んだ。こういう時のフォローの早さはさすがである。
「承知致しました。それでしたら、既製品をいくつかご試着いただきましょう」
そんなわけで、しばらくの間、アメリアは着せ替え人形となってしまった。
その結果はどうなったか。
「全部買いましょう」
全部お買い上げとなったのだった。
「ちょっと、お……お兄様、さすがに買いすぎです!」
「わ、私はあまり外に出かけませんから、そんなに要りませんってば!」
さすがに王太子の暴走に、アメリアは焦ったようである。
数を絞るように伝えると、渋々王太子は服の数を10着まで減らしていた。それでも多いと思うアメリアである。
こうして、どうにか服飾店からできてたアメリアたち。服を買ってきただけだというのに、アメリアは精神的に疲れ切ってしまっている。
「アメリア、どうしてそこまで疲れているのですかね」
「どうしたもこうしたもありませんよ、お兄様。私の事情は分かっていらっしゃるのでしょう? どうしてそんなに服を買いこもうとなさるのです」
「どうしてといわれてもね」
そもそも一か月という期限つきで城に滞在している。すでに七日間が経過しているので、せいぜいあと二十日程度だ。そんな中で10着も購入されても全部着れるわけがないと、アメリアは考えているようなのだ。
聖女候補として質素倹約生活をしているアメリアと、王太子としてぜいたくな暮らしをしているマリオとの間の、完全な意識の違いである。
「とりあえず、次に参りましょうか」
「そうですね」
もう返事に期待できないと感じたアメリアは、王太子に次の場所を案内してもらうことに決めた。
そうして、歩き出したアメリアたちだったが、思わぬ事態に見舞われる。
「大変だ! 馬車が、馬車が暴走しているぞ!」
騒がしい声が聞こえてくると同時に、男性が大きな声で呼びかける声が響き渡る。
馬車の暴走。
白昼の王都で、まさかの事態がアメリアたちに襲い掛かってきたのだった。




