第26話 浮かび上がる謎
改めて手に取ってみる。
(うん、これはどう見てもスマートフォンですね。ああ、すごく慣れ親しんだ感じがします)
アメリアはその感触をひたすら確かめている。
液晶画面と思われる場所を触れてもうんともすんともしない。電池が切れているのか、電源が切れているのか。これだけではわからない。
側面へと目を移してみると、多くの小さな穴と大きな穴がひとつ、左右にはボタンと思われる突起が合計で三つなどなど、明らかにスマートフォンの特徴だった。
アメリアは息をのんでしまう。
こちらの世界でスマートフォンを見ることになるとは思ってもみなかったからだ。
(本当にスマートフォンであるのなら、こっちのボタンを少し長く押せば……)
アメリアは、液晶画面と思われる面の右側についているボタンを少し長押しする。
しばらくすると電源が入り、画面が表示される。
(えっ、動きました?!)
アメリアは驚きを隠せない。
こんな異世界でスマートフォンがあって、しかも動くだなんて思うわけがない。
起動すると、画面が表示される。
(これは、なんて懐かしいのでしょうか)
表示された待ち受け画面には、前世の自分と恋人が一緒に映った姿があったのだ。忘れもしない姿である。
(学生時代の姿ね。多分、文化祭が終わった後の打ち上げの時に撮った写真だわ。ふふっ、あの頃を思い出してしまいますね)
あまりの懐かしさに、アメリアの表情がつい緩んでしまう。
待ち受け画面を見ていたアメリアは、右上にある電波状態を確認する。当然ながら、異世界なので圏外である。あまりにも当然な結果に、アメリアは苦笑いを浮かべてしまう。
(私は一体何を期待していたのでしょうか。でも、あの人のスマートフォンがあったのですから、マーシエス様の仰られた通り、あの人はこちらの世界にいます。でも、どうしてこれが呪具と化していたのでしょうか……)
疑問に思いながらも、アメリアはスマートフォンのの電源を切る。充電ができない以上、無駄に電池を消耗するわけにはいかないのだ。
テーブルの上へとスマートフォンを戻したアメリアは、改めて呪いの力が残留していないか確認をする。
少し触ってみたとはいっても、特に問題が発生しているようには見えない。呪いの力も感じられないので、今日のところは大丈夫そうである。
呪具の確認を終えたアメリアは、ひとまずは休憩に入る。ここまでずっと馬車で旅をしてきたのだ。そのせいで少しばかり体が痛いのだ。
(少し休ませてもらいましょう)
アメリアは旅の疲れをいやすためにモネに声をかけて、食事の時間になったら起こすように伝えておいた。これで仮眠が取れる。
ベッドに横になったアメリアの意識は、すぐにまどろみの中へと落ちていく。
夢の中で、アメリアは目を覚ます。
「うん……、ここは?」
目をこすりながら、アメリアは体を起こす。
間違いなく眠ったはずなのに、どうして目を覚ましているのだろうか。アメリアは自分の頬をつねってみる。
「痛くない。ということは、ここは夢の中。もしかして!」
「そのもしかしてですよ、アメリア」
「やっぱり、マーシエス様!」
アメリアは叫んでしまう。
そこにいたのは間違いなくマーシエスだ。
「どうして急にお呼びになられたのでしょうか、マーシエス様」
叫んでしまったことを恥ずかしがりながら、アメリアはマーシエスの前に跪く。
「いえ、アメリアがポーラリアの王都にやって来たというのを見ていましてね、少々心配になってお呼びしました」
どうやらマーシエスは、王都に連れてこられたことを警戒しているようである。
予定では、神殿で三年間しっかりと過ごしてもらって、自分のところに呼び寄せるつもりだったらしい。
本来の計画を話しながら、マーシエスはアメリアの状態をかなり気にかけている。
「そうなのですか。どころで、神殿や教会でなくても、マーシエス様はこうして姿をお見せになるのですね」
話の内容には納得のいったアメリアのようだが、城にいてこのように夢を見ていることに少々違和感を覚えたようである。
「私は神ですよ? どこにでも普遍的に存在しております。神殿や教会にあるのはしょせんまがい物の偶像ですから、特任関係ありません。それに、私のいる本来の場所は、みなさんの想像とは真逆のところですからね」
「え……?」
マーシエスの話す内容がまったく理解できない。
慈悲の神であるマーシエスと真逆の場所。アメリアはその場所をまったく想像できずにいた。
「ふふっ、いずれは分かります。ヒントはもう、あなたのところにありますからね」
「ま、マーシエス様? よく分からないのですが……」
アメリは混乱している。
「あなたの行く先は、もう示されております。ひと月の間、お城の中でゆっくり考えてみてください。それでは、本日はこの辺で」
「マーシエス様、マーシエス様!?」
マーシエスの姿が少しずつおぼろげになっていく。手を伸ばして呼び掛けるも、アメリアの意識は段々と曖昧になっていく。
段々と遠く、薄くなっていくマーシエスの姿を追いかけながら、アメリアの意識は再び静かに消えてしまったのだった。




