第23話 気になる道中
まさか、国王と王太子と一緒の馬車に乗るとは思わず、アメリアは緊張した面持ちで座っている。隣にはグイードがいるものの、これだけの至近距離で真正面に座られては、昨日の昼食以上の緊張をせざるを得ない。
(なんで、同じ馬車になってしまったのかしら……)
アメリアは言葉も発せられず、緊張で目が泳いでしまっている。
国王たちの方もまったく何も話そうとしてこないので、馬車の中の空気はかなり重い。
(お願いだから、何か話して下さい……)
しっかりと座席に座ったまま、お腹を押さえたくなってくるアメリアである。
しかし、まったく何も会話がないまま、お昼の休憩の時間となってしまった。
ようやくグイードとともに馬車の外に出たアメリアは、しっかりと体を伸ばして緊張をほぐしている。
(ああ、ようやくあの重苦しい雰囲気から抜け出せました。ふぅ、外の空気はおいしいですね)
しっかりと気持ちをリセットができたアメリアは、グイードに呼ばれて昼食を食べる。
その際に、グイードから少し話をすることができた。
「アメリアさん、何か陛下にお聞きしたいことはありますか?」
「そうですね……。昨日の呪具がどうなっているのかということを確認したいですね。しっかり浄化ができたとは思いますが、なにぶん初めてですので、この目で経過を確認しておきたいのです」
実のところ、アメリアはずっと呪具のことが気になっていた。
あの場では驚いてはいたのだが、あのスマートフォンのような呪具の経過観察ということでお城に行けることは、実は心の中で喜んでいた。……お城暮らしという点に目をつぶればである。
しっかりと触る機会があれば、もっとちゃんと確かめられるはずだ。アメリアは、ちょっとだけ期待を持っているのである。
「分かりました。では昼からの馬車の中で、陛下に申し上げてみることとします。呪具を浄化したアメリアさんのいうことであれば、もしかしたら聞き届けて下さるかもしれません」
「はい、よろしくお願いします」
お昼ご飯を食べながら、アメリアはしっかりとグイードに頼み込んだのだった。
このようになる理由は、アメリアが平民の出ということがすべてだ。聖女候補とはいえど、元の出自の影響は受ける。
平民であるのならば、本来は顔を向けることすらもはばかられる存在、それが王族だ。なので、直接声をかけることすらも、本来は禁止事項といえる。
昨日は昨日で緊急だったので、やむを得ないというところだ。
なので、馬車の中ではアメリアよりも地位の高いグイードが、国王に話をするということになったのだ。
しかしだ、ここでアメリアの中で疑問が湧いて出てくる。
それというのも、大司教の言い分だ。
呪具の経過観察をするように指示を出すのであれば、神殿で呪具を預かればいいというものだ。
とっとと国王たちの手に戻ってしまったとはいえ、浄化が不十分な可能性を見出していたのなら、その場で止めて与ることは十分できたはずである。
だというのに、それをすることなく呪具だったものを王族へと返し、なおかつアメリアに同行するように命じてきた。
ここに、アメリアの中で一つの可能性が浮かび上がってきた。
(いやまさか、そんなね……)
浮かんだ可能性を、アメリアはすぐさま否定している。というよりは考えたくなかったという方が正解か。
だが、アメリアには大司教に逆らうだけの権力はないし、そういう立場にもない。言われた通りに王都まで出向いて、城の中で一か月間、浄化した呪具の様子を見守るしかないのである。
「どうかしましたか、アメリアさん」
「いえ、なんでもございません」
グイードに声をかけられ、アメリアはちょっとだけ動揺するも、すぐに持ち直して返事をしている。
再び馬車に乗り込んで、王都を目指してい進んでいく。
その中で、グイードが先程のことを国王に持ちかけてみたものの、城に帰るまでは絶対にダメだと言われてしまった。アメリアは残念がったものの、屋外という場所を考えると、どこで賊が見ているか分からないので当然の処置というものだ。
はっきりと断られてしまったので、お城に着くまでの間、アメリアはずっと我慢することにしたのだった。
それとは別に、アメリアにはひとつ我慢できないことがあった。
いわずもがな、王太子マリオの視線である。大神殿で初めて会った時からというもの、ずっとアメリアのことを見ている。
表立っては普通の表情をしていたのだが、心の中ではぶち切れそうになっていた。
大司教がこんな提案を持ちかけてきた理由、それこそがこの王太子の分かりやすい態度だったのだ。こんな状態ではたして一か月やっていけるのだろうか、アメリアは非常に不安になってくる。
基本的に接触があるのは食事の時くらいで、取次はグイード行うから大丈夫だと思われるだろう。なのに、何か言い知れぬ不安を抱えてしまうアメリアである。
(王太子殿下の視線が気になってしまって、こんな状況で私は大丈夫なのでしょうかね)
それでも馬車は順調に進んでいき、大神殿の近くの街を出発してから二日目のこと、ポーラリア王国の王都に到着したのであった。




