第22話 使命です
無事に浄化ができたこともあり、スマートフォンのようなものは、国王たちが帰っていく際に持ち帰られてしまった。
じっくり見てみたいと思っていたアメリアだったが、その願いを叶えることはできなかった。魔物を討伐して手に入れたのは王国なので、そもそもの所有権が王家にある。譲ってほしいなど、言い出すこともできなかったのだった。
ただ、国王たちが城へと戻る際、王太子がアメリアに対して、このような言葉を残していった。
「また、会えますか」
顔を赤くしていた様子から、どうやら自分に気があるらしいということを察知したアメリアだったが、聖女候補として神殿で修業をしている身なので、はっきりと答えることはできなかった。
その答えを聞いた王太子は、ものすごく残念そうに落ち込んでいた。
さすがに落ち込ませたまま帰らせるのはなんなので、アメリアはまたお会いできますよと声をかけておいた。
こういったやり取りもあり、無事に国王たちによる神殿の視察を乗り越えることができたのだった。
見送りも終わり、神殿の中へと戻っていったアメリアたちだが、アメリアだけは大司教に呼び止められてしまう。
「なんでございましょうか、大司教様」
「私の部屋で、ちょっとお話をよろしいでしょうかね」
「は、はい。承知致しました」
急なことだったので、目をぱちぱちとさせていたアメリアだったが、大司教からの指示なので、ひとまず従うことにする。
クレアたち他の聖女候補たちと別れ、大司教についていくアメリア。一体どんな話があるのだろうかと、かなり緊張しているようだ。
大司教の部屋に入ると、アメリアは大司教の正面に座らされる。
両手を膝の上にきちんとそろえて置き、肩ひじがとにかく張った状態で、少しうつむき加減にしている。何を言われるのだろうか。アメリアの中にはそんな考えが巡っている。
「呪具の浄化、本当にお疲れ様でした。おかげで、神殿に王族たちにも何も被害が出ずに済みました」
大司教は頭は下げないものの、アメリアに対して感謝を述べている。アメリアに任せたということは、大司教自身は浄化できなかった可能性があるということだろう。
「いえ、正直言いまして、申し出たのはいいのですが、浄化できなければどうしようと考えておりました。無事に成功して、私自身が一番ほっとしております」
アメリアは謙遜した様子で本音を話している。大司教もそれは分かっていたのか、アメリアを責める様子はない。
しかし、少しの間が空くと、大司教は真面目な表情になってアメリアの顔をじっと見つめている。
「時にアメリア」
「はい、なんでしょうか、大司教様」
真面目なトーンで話し掛けてくるので、アメリアはどうしたのだろうかと、びっくりした様子で反応している。
「アメリア、あの呪具について、何か知っているのではありませんかな?」
大司教にこう言われた瞬間、アメリアはドキッとした表情を浮かべてしまう。
この時の表情は、しっかりと大司教も見てしまっている。
「い、いえ。初めて見るものでございます。あのような妙な板、どうして私が知っているというのでしょうか」
アメリアはしっかりとごまかしている。
大司教はすっと目を見開いており、それは嘘だと見抜いている様子だ。それでも、必死にごまかそうとしているので、大司教はあえて指摘をすることはなかった。
「そうですか、分かりました」
すんなりと引き下がったので、アメリアは態度には示さないものの、心の中で安心したようだ。
だが、それも束の間である。
「アメリアよ。あなたに任務を与えます」
「任務、でございますか?」
アメリアは何を言われるのだろうかと、首を傾げている。
「本日、国王陛下たちは近くの街で宿泊をなさいます。同行してひと月の間、呪具の経過観察をして下さい」
「えっ?」
大司教はアメリアに使命を下した。
それは、先程浄化した呪具をひと月の間、ずっと観察するというものだった。ひと月経過して、問題がないと判断すれば、戻ってきてもよいということである。
だが、なぜそれをこの場で言うのだろうか。
それは、他の聖女候補がいる前で言うわけにはいかなかったからだ。
聖女候補でライバルであるために、表立って王族について行かせるという行動に出るわけにはいかなかったのだ。
それで、遅れてこっそりと出発させるという手法を取ることとなったのである。
「ちなみに、拒否権は……」
「ございません」
「……ですよね」
そんなわけで、アメリアは一人でこっそりと小さな荷馬車に乗って、国王たちが泊まっている近くの街へと向かうことになった。
ただ、もちろん本当にたった一人で行かせるわけではない。
この神殿までアメリアを連れてきた神官であるグイードが同行するという。
それを聞いて、アメリアは少しほっとしたようだった。
王太子の態度が気になっていたからこそ、二人っきりなるようなことがあれば、間違いなく問題になるだろうからだ。神官が間に挟まるのであれば、そのような心配はない。
大司教からの命令である以上、アメリアには断ることはできず、同行者もいると聞いて引き受けることになった。
ちょうどあのスマートフォンのようなものが気になっていたので、アメリアにとっては好都合というもの。
「承知致しました。では、すぐに出発の準備を……」
「もう済んでおります」
アメリアが立ち上がろうとした時、どこに隠れていたのかグイードが姿を現した。
「大司教様、準備は整っております。いつでも出発できます」
「うむ。では、頼みましたよ、グイード」
「はっ!」
断れない上に、あれよあれよという間に話は進んでしまっていた。
というわけで、アメリアはグイードと一緒に、他の聖女候補に見つからないようにしながら、こっそりと大神殿を出発したのであった。




