第21話 呪具の浄化
国王と王太子の訪問は、ただの視察かと思ったらそうではなかった。
しかし、呪物なんてものを持って、国王と王太子がそろってくるとは、なかなか危機意識の低い話である。
それでも、呪物を抱えながらも王族が親子そろって神殿へと顔を出すあたり、国王には思うところがあったのだろう。
さて、その呪物なのだが、なにやら板のような物体であることは間違いないようである。
アメリアがわざわざ名乗り出てまで、呪物の浄化にかかろうとしたのは、その板に何かを感じたからなのだ。
(なんだろう。禍々しい呪いの気配には間違いないですのに、見ているとなんだか懐かしくなってきます。まるで、これは……)
呪具を目の前にして考えごとをしているアメリアだったが、我に返って首を左右に振っている。今はそんなことを考えている場合ではない。
目の前の呪具なのだが、アメリアを目の前にした時から、なんだか様子がおかしいのだ。これは急がないと、なにやら危険なことになりかねない。アメリアは聖女の力で直感した。
「な、なんだ。何か震えていないか?」
一番最初に気が付いたのは国王だった。その言葉で大司教も改めて呪具へと視線を向ける。
確かに、その呪具は謎の振動を始めていた。ただならぬ様子に、大司教は慌てた様子を見せる。
「これは危険ですね。アメリア以外は部屋から退避して下さい。私が外から結界を張ります」
「そんな! そんなことをしたらアメリアは!」
「アメリアは自分でやるといったのです。さぁ、私たちは部屋から出ますよ」
大司教はそういいながら、国王や王太子、聖女候補たちを先に部屋から脱出させる。そして、最後に自分だけになるとアメリアに声をかける。
「では、頼みましたよ。今すぐにでも聖女になれるあなたなのです。落ち着いて行えば、きっと浄化できますから」
「はい」
大司教はそういうと、最後に部屋を出ていき、すぐに結界を展開している。
このことにより、アメリアは部屋の中に閉じ込められてしまった。
しかし、アメリアはこんな状況になったにもかかわらず、とにかく落ち着いている。正確に言うと慌ててはいるのだが、それは自分の置かれた状況に対してではない。目の前にある呪具に対してだった。
先程から、呪具に対して懐かしさを感じ続けているために、アメリアはその点で落ち着きを失いつつある。
(ええい、落ち着かなくては。私がこの呪具を浄化できなければ、きっと恐ろしいことが待っています。マーシエス様、あなたの力をお貸しください)
アメリアは呪具の前に跪いて、両手をしっかりとかざし、そこに神聖力を集中させていく。
やがて、両手のひらが光り始め、徐々に呪具を包み込んでいく。
(お願い、うまくいって!)
アメリアは、目の前の呪具が新品の状態のことを思い浮かべながら、少しずつ神聖力を強めながら注ぎ込む。
最初は放たれるまがまがしい呪いの力と相殺し合いながら、バチバチという音を立てていた。しばらく神聖力を注ぎ込み続けると、その音が徐々に小さくなっていく。それと同時に、辺りを包み込む不穏な空気が弱まっていく。
呪具から漏れ出る呪いの力は段々と消え去っていき、アメリアの神聖力が呪具の中へと吸い込まれ始める。
その神聖力が十分量取り込まれると、今度は呪具だったものからまばゆいばかりの光が放たれている。
「うっ! ま、まぶしい……っ!」
あまりにも強烈な光がために、アメリアも目が開けていられない。
やがて、その光もゆっくりと収まっていく。
それと同時に、まばゆさで開けていられなかった目を、アメリアはゆっくりと開いていく。
(う、うまくいったかしら)
こう思うのは、実は呪いの浄化なんていう作業をしたのは、今回が初めてだったからだ。つまり、ぶっつけ本番でこんなことをやってのけたのである。不安に思うのも当然なのだ。
ところが、ゆっくりと開いた目で呪具だったものへと視線を向けたアメリアは、そこに転がっていたものに思わずびっくりしてしまう。
「えっ、す、スマホ?!」
そう、長方形の薄っぺらい板がそこに転がっていたの。細かい意匠から、どう見てみたところで、アメリアが前世で持ち歩いていたスマートフォンなのである。
なぜこんなものがこちらの世界に転がっているのか。アメリアは不思議でならなかった。
「色はシルバーピンクですね。……私が前世で使っていたものと同じもののようですけれど」
アメリアがそっと手を伸ばそうとした時だった。
「アメリア、大丈夫ですか?」
「アメリアさん。なんですか、今の光は!」
「呪具は無事に浄化できたのか? 見せてくれ!」
扉を叩く音と同時に、いろいろと心配をする声が聞こえてきた。
あまりにもうるさいこともあって、アメリアは扉の方へと振り向き、声をかけることにした。
「は、はい。浄化は無事に完了しました。もう、大丈夫ですよ」
あまりにもうるさかったこともあり、アメリアの顔はちょっと引きつっている。
しかし、そんな姿をさらすわけにもいかない。
スマートフォンと思われるものをしっかりと手に取り、アメリアは立ち上がって国王や大司教たちを迎え入れることにしたのだった。




