第20話 訪問の理由
やがて、昼食が運ばれてくる。
「国王陛下、王太子殿下。大変お待たせして申し訳ございません」
「いや、構わぬ。やはりこれだけの人数がいるのであれば、同時に食事を味わう方がよい。よその国の者もいるだろうが、この神殿にいる間は、我が国の者と同等。気を遣って当然というものだ」
大司教が謝罪する中、国王はあんまり気に留めているようではないようだ。国王が話す内容を聞いて、アメリアはその考え方に思わず感心してしまっている。
必ずしも良いとは言えないものの、アメリアたちは世界各地に赴いて恩恵をもたらすことになる聖女となる可能性のある人物たちである。自国で抱え込むことも十分に考えられるので、国王はリスクを回避しようとして、このように述べたのだろう。
どういう意図であれ、大司教たちを驚かせたのは間違いないと思われる。
「もしかすると、我が息子の将来の相手になるかもしれないしな。ははははっ!」
かと思えば、国王は笑いながらこんなことまで言い放っている。
そうなると、一部の聖女候補の目の色が変わったように思える。
そのことに気が付いた大司教は、国王に慌てて苦言をぶつけている。
「いやはや、そのようなことがあるかもしれませんな。ですが、彼女たちはまだ修業中の身。あまりからかわれては困りますよ」
大司教は国王としばらく笑い合っていた。
しかし、それを冗談だとは思わない人たちがいた。王太子である。
聖女候補たちに視線を向けていた王太子だったのだが、国王の言葉を受けて、分かりやすいくらいに視線をそらしている。その時に顔を少し赤らめているように見えることから、間違いなくアメリアたちを意識しているのだろう。
結局、食事の間もさっきまでとあんまり状況が変わることはなかった。
昼食を食べ終えると、アメリアたちを修行に戻そうとする大司教に、国王が頼みごとをする。
「すまないが、彼女たちがどのくらい素晴らしいのか、見せてもらっても構わないだろうか」
そう、聖女候補としての実力を見たくなったのだ。
この頼みを聞いた時に、大司教は国王に対してひどく難色を示したようだった。
「申し訳ございませんな、国王陛下。聖女の力というのは見世物ではありません。この五人は能力に優れてはおりますが、さすがに国王陛下とはいえ、それは……」
大司教が断わろうとした時だった。
国王は何かを持ってくるように部下に命じている。
「実はこの神殿にやって来た本来の目的はこちらだ。息子に神殿を見せようと思ったのは、あくまでもついでにすぎんのだ」
「そ、それはどういうことですかな?」
国王の話す内容を聞いて、大司教は戸惑っている。
だが、次の瞬間、大司教の表情が固まってしまう。
それは、大司教と一緒にいたアメリアたち正常候補たちも同様だった。明らかにおぞましい魔力を感じ取ったからである。
「我が国は大神殿があるためか、聖女が存在していない。そんな中でこんなものを見つけてしまえば、大神殿に来ざるを得ないであろう」
国王の部下が持ってきたそれは、神殿の中にはあってはいけないほどの気持ちの悪い魔力を放っている。
アメリアたちは直感する。この魔力は、呪いだと。
「先日、王国内で魔族が発見されたのだが、そやつを討伐した際に出てきたのがこれだ。幸いながらこの道具による影響は出ていないのだが、放っておくとどういうことになるのか想像がつかん。で、神殿に頼みに来たというわけなのだ」
「左様でございましたか。それでしたら、私や高位神官でも対応できましたでしょうに。聖女候補たちにはまだ危険だと思われますが」
国王の部下が持っている物を見ながら、大司教は国王に意見をしている。
確かにそうなのだ。聖女候補たちはまだ能力が未熟であり、きちんと扱えるようになるために修行の真っただ中なのである。
もちろん、アメリアという例外はいるわけなのだが。
その一方で、聖女候補たちは神殿にとっては威厳を示すための存在でもあるため、現時点では大事にしなければならない。解呪のような危険行為にはまだ触れさせるべきではないと考えているのだ。
「いや、それは確かに思うのだが、この物体を見ていると、聖女候補に見せなければという妙な気持ちにかられるのだ」
国王の言い分は、まったく理解不明だった。
大司教も、周りの高位神官たちも誰もかれもが首を傾げる話である。ただ一人を除いて。
「あの……」
一人の聖女候補が声を発している。
「その呪いの浄化、私に任せてもらえないでしょうか」
「アメリア、何を言っているのですか?」
そう、動いたのはアメリアだった。
呪いを見た瞬間に、アメリアはなぜか自分がやらなければならないという不思議な衝動に突き動かされたのだ。
アメリア以外の四人は不気味がってはいるものの、アメリアにはそのような感情がまったく生じなかった。
あまりにも真剣な表情を見せるアメリアに、大司教はなぜか思いとどまらせるように言うべきではないと思ってしまう。
「分かりました。そこまで言うのでしたら、やってみなさい。私たちもおりますので」
「はい、頑張ります」
大司教の許可が出たことで、アメリアは呪いの物体を持っている国王の部下のところへと歩いていく。
「床に置いて、離れて下さい」
「はっ!」
アメリアがそう告げると、国王の部下は言われた通りに動く。
呪いの物体を前に、アメリアは深呼吸をする。
はたして、アメリアは無事に呪いを消し去ることはできるのだろうか。




