第19話 気になる視線
国王と王太子を大司教の部屋へと通している。
さすがに一国君主を迎えるには、これ以上の部屋はないというわけだ。
座席の位置は、国王と大司教はほぼ同等の権威にあたるので、国王たちの方が上座に座っている。
「ご機嫌麗しゅうございますな、国王陛下、王太子殿下。しかし、本日はなにゆえに神殿にお越しになられたのでしょうか」
大司教は腰を落ち着けるなり、国王に対して用件を尋ねている。
連絡を受けていたとはいえど、本当に急な話なので、大司教はかなり気にしているようなのだ。
だが、国王は特に反応を見せることもなく、ずっと落ち着き払っている。
「大司教殿、何を言っているのだ。ここは我が国の領土内にあるのだぞ? 視察を行っても、何に問題もあるまい。何を気にしているのだ」
「た、確かにそうでございますな。これは失礼致しました」
国王からの指摘に、大司教は笑いながら謝罪をしている。痛いところを突かれために、笑うしかないというわけだった。
「ふっ、それよりも大司教殿。そちらの聖女候補を紹介してもらえないかな」
国王がちらりと視線を向けると、アメリアたちはぴくりと反応をしている。
それというのも、アメリアたちは下級貴族の令嬢から平民までと、出自は実にバラバラだ。そのどれを取ってみても、王族に比べればかなり身分が低い。それゆえにこのようにびくついた反応になってしまうというわけだ。
だが、アメリアだけは国王の視線よりもさらに気になる視線があった。
(王太子殿下……、ずっと私を見ていませんかね)
そう、王太子であるマリオが、ずっとアメリアのことを見ているのである。
確かにこの二人は年齢が近い。アメリアは12歳で、マリオは13歳だ。普通に見れば、お似合いな年齢と思われるのだ。
アメリアは自意識過剰かと思っているのだが、どう見てみても、王太子の視線はアメリアたちの方に向いている。
(むむむむっ。ずっと見られているのは恥ずかしいのですよ。いつもの服装と違って、ちょっと飾り気がありますからね)
国王と大司教の視線もあるために、アメリアは声に出したくとも出せないし、変な動きをすることもできない。なんというのか、蛇に睨まれた蛙の気分である。
そんな状況なだけに、アメリアたちは胃がキリキリと痛んでいるように思えてくる。
そうして、ようやくお昼の時間を迎える。
結局、アメリアたちは国王と大司教の話を聞くだけで、国王たちから声をかけてもらうことはなかった。分かっていたが残念だと思うアメリアである。
話が終わった後、アメリアたちは国王たちとは別室へ連れて行かれそうになるが、そこで王太子が動いた。
「ちょっと待って下さい。彼女たちをどこへ連れていくのですか」
「彼女たちはまだ聖女候補なのです。陛下や殿下とご一緒に食事というわけにはまいりませんからね。別室にて食事をしてもらうのですよ」
王太子の質問に、大司教はこのように答える。
ところが、これに対して王太子は異を唱える。
「父上と大司教様との話の間ずっと立たせておいて、それで終わりというのはあまりに可哀想です。彼女たちも食事の席に同席させて下さい」
「いや、しかしですね」
王太子の願望に、大司教は困った様子を見せている。
「うむ、私もマリオの意見に賛成だな。君たちも一緒に食事をしていきなさい。私たちが聞きたい話はあるし、君たちにも聞きたい話があるだろう」
アメリアは反応に困ってしまう。
そんな中、王太子が小さく手を握りしめていたことに、アメリアは気が付いてしまった。
王太子の素直な感情のようなものを見てしまったアメリアは、ちょっと王太子のことが気にかかってしまったようである。
国王と王太子の要望とあれば、大司教も断れない。
結果、アメリアたちは国王や王太子とともに食事を取ることになってしまった。
食事の場所は、大司教の部屋の隣。こんな場所があるとは、アメリアたちは初めて見る。
司教たちとの話し合いなどが行えるように、かなり大きな円卓となっているようだ。そのテーブルを、アメリアたちも囲んで座る。
急なことのために食事の量が足りないらしく、円卓の間にやってきたアメリアたちはしばらく待たされることになった。
なぜこうなったかというと、国王たちの前で聖女候補用の食事を用意できるわけがないからだ。なので、大司教たちよりも劣るものではあるが、それなりに豪華なものを用意させることになった。
円卓では、アメリアの正面に王太子が座っている。
そこでアメリアが改めて気が付いたのは、王太子の視線が、間違いなく自分に対して向けられているということだった。
一体どういうことなのだろうかと、王太子の視線に対してアメリアは戸惑いっぱなしである。
「どうしたのだ、マリオよ」
「いえ、何でもありません」
王太子の様子がおかしいと気が付いた国王が声をかけると、王太子は国王の方を向いてはっきりと答えている。
そうはいっても、アメリアはなんでもないわけがないと思うしかなかった。
なにせ、国王に答えた後、再びアメリアの方へと視線を向けてきたのだから。
このような状況が、食事が運ばれてくるまでの間、ずっと続けられている。
対応に困るアメリアの表情は、今にも歪みそうなくらいに引きつり始めている。




