第18話 国王と王太子がやってきた
アメリアたちが大司教に連れられて出迎えに出るしばらく前のことだった。
近くの宿場町を出発した国王たちの一行は神殿への道のりをゆっくりと進んでいく。
その気になれば昨晩にも到着はできたのだが、いくら王族とはいっても、神殿とは権力はほぼ同等。あまり失礼をすれば、国政にも影響を与えかねないために、こうやって日中に訪問をするのである。
国王たちの乗る馬車は、それはきらびやかである。
ポーラリア王国は、現在アメリアたちが修行を行っている神殿を抱えている国である。そういうこともあり、ある意味世界の中心にあるともいえる。
だが、そういった立場も、そこにマーシエス教の総本山たる大神殿があるからこそ。
神殿の恩恵を失ってしまえば、ポーラリア王国などおそらくは吹いて飛んでしまうような国となってしまうだろう。
「父上、今回はなにゆえ大神殿に向かわれるのでしょうか」
馬車に乗っている王太子が、父親である国王に尋ねている。
「マリオ、お前ももう13歳になったのだ。となれば、ありとあらゆる場所を見て回り、見聞を広める必要がある。今回の視察は、国教であるマーシエス教の大神殿を見学するというものだ」
国王は王太子の質問に。ゆっくりと答え始める。どうやら、王子の名前はマリオというらしい。
国王も王太子も、こういう創作物においてはよくある金髪碧眼で、ショートヘアで整った顔立ちをしている。ただ、王太子は13歳、国王は30~40歳代という年齢差がある。そのため、同じような顔でも印象はずいぶんと違う。
「今は、神殿で聖女候補たちが集められていて、その修行をしているという。修行が終わるのは三年後だ。その頃には、聖女候補たちもいい年頃になるだろう」
国王はこのように王太子に伝えている。ところが、一方の王太子は何を言ってるのか分からないのか、難しそうな表情を浮かべている。
単純に言えば、国王は王太子に王妃となるお嫁さんを探せと言っているというわけだ。だが、お城の中で育ってきた王太子には、いまいちそのニュアンスが伝わらなかったようだった。
王太子の反応を見て、国王は少し困った顔をしている。
(少し、大切に育てすぎたかな。色恋沙汰に現を抜かすようなことがなさそうなのはいいが、これはこれで心配にもなってくるな。なんとも若い頃の自分を見ている気分だ)
国王は少々王太子のことが心配になってしまったようである。
こうしている間にも、馬車はゆっくりと進み続け、いよいよ神殿が近付いてきた。
王太子は初めてやって来る場所とあって、ちょっと興味があるのか落ち着かなくなってきていた。そわそわとし始めた息子の姿に、国王は思わずにこりと微笑んでいた。
そうして、国王たちを乗せた馬車は、目的地となる神殿へと到着する。
神殿の入口の前には、大司教をはじめ、高位神官たちや、アメリアたち聖女候補の代表五名がずらりと並んでいる。
さすがにお偉いさんとの接触のない聖女候補たちは、全員がそろってガッチガチに緊張している。何か粗相をしないか、そのことばかりが頭の中に駆け巡っているようだ。
馬車が停車すると、使用人が一生懸命走ってきて、馬車の前に赤いじゅうたんを敷いている。その光景を初めて見たアメリアは、おおっと感激している。そう、フィクションの中の話ではなかったのだ。
じゅうたんを敷き終わると、これまた立派な鎧に身を包んだ騎士がやって来て、扉を開けている。
最初に降りてきたのは、国王だ。
(おおっ、なかなか渋い感じのおじさんですね。ひげは……生やしてないのですね)
国王を見たアメリアの感想は、ナイスミドルからのひげなしに落胆という、見事なジェットコースターのようだった。
しかし、そんな気持ちを表に出すわけにはいかない。国王の前でそんな態度は不敬すぎるというもの。アメリアはぐっと表情が変わらないようにこらえている。
国王は馬車から降りると、なぜかその場にとどまっている。もう一人降りてくる人物がいるからだ。
アメリアたちがしばらく待っていると、国王をそのまま若くしたような人物が馬車から降りてくる。そう、王太子である。
国王は王太子と横に並ぶと、ようやく神殿へと向かって歩いてくる。
それと同時に、神殿側の人間は、大司教を除いて国王と王太子に向かって頭を下げている。アメリアはよく分からなかったので戸惑ったが、周りを確認して同じように頭を下げている。田舎の少女らしいところが出てしまったようだ。
「ポーラリア国王陛下、並びに王太子殿下。お待ちしておりました。このようにご足労いただけましたこと、大司教として至極光栄に存じます」
客人を迎えるとあって、大司教はへりくだって挨拶をしている。
「うむ、出迎えご苦労。して、あちらにいる娘どもが、先日から修行を行っている聖女候補か」
「左様でございます。国王陛下、詳しいお話は中で行いましょう。長旅でお疲れでしょうからな」
「うむ、あい分かった」
大司教の言葉に、国王こくりと頷いている。
「マリオ、行くぞ」
移動のために国王は王太子に声をかける。ところが、王太子はなぜか返事をしない。
「マリオ、どうしたのだ」
「はっ! な、なんでもありません、父上。参りましょうか」
二度も大きな声で呼ばれたことで、王太子は我に返る。慌てたような姿を見せているものの、呼ばれた後はよそ見もせずに国王と一緒に神殿の中へと入っていった。
呆然とするとは、一体王太子は何を見ていたのだろうか。




