第16話 王族の来訪と呼び出し
実技の講習が入るようになってからアメリアの前世の感覚でさらに一か月が経過する。
その日の朝のことだった。
いつものようにお祈りから走り込み……と思ったら、走り込みはしなくていいというお達しが出た。
アメリアを含め、聖女候補たちはしきりに首を傾げている。
ただ、その代わりに掃除を前倒しで行われ、なんとお風呂に入るようにまで言われた。明らかにおかしなことが起きているので、聖女候補たちはさらに困惑をしている。
その理由は、朝食の席で判明する。
いつものように食前のお祈りをする前のことだった。いつもならフォトニアが出てくるはずなのだが、この日に限っては大司教のマカエルが前に出てきた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます」
大司教の挨拶受けて、アメリアたちは挨拶を返している。
頭を起こしたアメリアは、大司教の顔をじっと見つめている。
(一体、なんなのでしょうかね。大司教様がご挨拶をなさるなんて、どういう風の吹き回しでしょうか)
とにかくアメリアは疑問を感じている。
この疑問も、直後の大司教の言葉ですぐに解消する。
「本日は、この大神殿が構えているポーラリア王国の国王陛下と王太子殿下がいらっしゃいます。そのため、本日の修行は予定を変更させていただいております。お昼前には到着なさると思いますので、失礼のないようによろしくお願いしますね」
「はい!」
大司教の話を聞いて、アメリアたちは返事をしている。
ところが、大司教の話はこれで終わらなかった。
「ああ、そうです。これから名前を呼ぶ方は、食事の後、私のところまで来て下さいね。お話がございますのでね」
大司教は話を終えると、聖女候補の中から五人の名前を呼んでいた。その中には、当然のようにアメリアの名前がある。
名前を呼び終えた大司教は、聖女候補の集まる食堂から退出する。
入れ替わるようにフォトニアが前に立ち、いつものように食事前のお祈りを行い、ようやく朝食にありついた。
「アメリアさん、さすがですね」
「ありがとうございます。そう仰られるクレアさんも、最初に比べるとかなり良くなりました。さすが、名前を挙げられる理由というのがあります」
「へへっ、そうかしら」
アメリアは正面に座る聖女候補の呼び掛けに反応している。
どちらかといえば地味な褐色の髪色をしているアメリアに対して、透き通る質感の銀髪を持つクレアの方が、まだ聖女らしく感じられるというものだ。
ちなみにこのクレアという聖女候補は、聖女修行が始まって一週間経った時にアメリアが最初に足を揉み解していた聖女候補である。
そんなこともあり、クレアはアメリアに対してかなり好感度を持っており、このようによく話をするようになった。
アメリアのいうことはよく聞いてくれることもあって、クレアの実力はかなり伸びてきている。今回名前が挙がったのも納得できるほどだ。
このアメリアたちと一緒にテーブルを囲む聖女候補たちからは、もう一人、今回の大司教に名前を挙げられている。
「まさか、あなたも名前が呼ばれるとはね。一番頼りなさそうなんだけど」
「あ、あの、私も、そう思います……」
おどおどとした反応を見せているのは、アメリアの右隣に座っている聖女候補で、緑褐色の髪の前髪を伸ばして目隠れにしている子だ。名前はプラリナという。
ちなみに、髪の毛を上げれば透き通った青いきゅるんとした目がその姿を現す。本人はその目がコンプレックスで隠している。
「ああ、私たちもみなさんのようにお呼ばれされるくらいの実力を身につけたいものだわ」
「まだ始まって日が浅いですので、きっとなれますよ。半年どころか、その半分も経っていないですし」
「そうよね。毎日毎日同じようなことの繰り返しだけど、あのフォトニア様や先輩聖女様たちも通られた道だから、私たちみたいな見習いじゃ、文句は言えないものね」
一部の聖女候補の中には、修行内容に不満があるような声もあるようだ。アメリアたちのグループの中にもそう思う人物はいる。
普通に考えれば、確かにかなり厳しい内容なので、そう思うのも無理はないだろう。
「ですが、ここに集まられたみなさんは、聖女を目指している方々ばかりです。みなさんで聖女になれるように頑張りませんと」
「まあ、そうよね。正直言って、修業はつらいんだけど、アメリアのおかげで乗り越えられる気がしてきたわ。もっと努力しなくちゃ……」
文句は言いつつも、アメリアに説得されると素直に受け入れる聖女候補たちである。
食事が終われば、大司教に呼ばれた五人は他の聖女候補たちと別れて行動をすることになる。
大司教のところまで案内をするのは、アメリアを神殿まで連れてきたグイードのようだ。
「大司教様に名前を呼ばれた方は、私のところまで集まって下さい」
グイードが食堂の中に向けて声を変えると、アメリアとクレアに加え、他に三人の聖女候補が集まってくる。
集まってきた面々は、大体アメリアと同い年か少し上かといった感じである。
「それでは、大司教様のところへとご案内致します」
グイードは名前と顔を把握しているのか、確認をすることなく集まった五人を連れて食堂を後にする。
国王と王太子がやって来るという日。大司教のところへと集められるアメリアたち。
はたして、アメリアたちにどんな話をするのだろうか。アメリアには言い知れない緊張感が漂い始めた。




