第10話 聖女という存在
聖女候補たちの修行が始まり、二日目の夜を迎える。
一日の教育が終わり、フォトニアは神官たちの集まる部屋へと戻ってくる。
神官たちの集まる部屋には、それぞれの聖女候補を連れてきた神官たちが集まっており、フォトニアにその様子を尋ねている。
「いかがでしょうかな。聖女候補たちの様子は」
「こ、これはマカエル様」
フォトニアが戻ってきたところに、ちょうど大司教も姿を見せる。入ってくるなりそんな質問をするあたり、聖女候補たちのことを気にかけているようだ。
「そうですね。いつものように早速脱落者が出る兆しが見えております。私も受けた内容ですので、別に耐え切れないとは考えておりませんが気がかりですね」
「なるほどですな。では、今まで通りにお続けなさい。聖女という立場がどのようなものが理解していない愚か者は要らぬ。もし帰りたいなどと言い出した時は、丁重に元にいた場所に帰してあげなさい」
「はい、そのようにいたします」
確認を終えたマカエルは、すぐさま部屋を出ていってしまう。自分の指示で集めただろうに、ずいぶんと淡々としたものだ。
マカエルが出ていくと、フォトニアたちは少し気が緩む。さすがに大司教を前にすると、緊張をしてしまうのだ。
「ああは答えましたが、まだまだ幼い子どもたちなのです。つらそうにしている姿は、正直に申しますと、私でも心苦しいのです」
机に肘をついて、頭を支えるようにしながら、フォトニアは正直な気持ちを吐露している。
だが、神殿としてはどうしても聖女を欲している状況ゆえに、大司教に対してはとても口にできないようなのだ。
「やはり、先日にあったお告げというのが響いているのですな」
「ええ、そうですよ」
その中で、グイードがフォトニアに確認するように声をかけると、疲れたような表情を浮かべながら、フォトニアはその内容を肯定している。
お告げというのは、大司教がだいぶ前に夢で受けた女神の啓示を指している。
その内容というのは、数年後に魔王が復活して、世界に危機が迫るというもの。それに備えるために世界中より聖女となりえる資質を持つ者を集め、新たな聖女を誕生させよというものだった。
その中には具体的な名前が示されており、アメリアもその一人として挙げられていた。
「挙げられた名前の少女がすべて存在しているのは驚きでしたな」
「ええ、まったくでございますよ。だからこそ、私たちもそのお告げを信じているわけですがね。それでも、私は正直迷いましたよ」
「フォトニア様……」
神官たちが話をしている中、フォトニアは本当につらそうな表情を浮かべている。
それというのも、現在存在している聖女というのは、フォトニアが修行をした時に誕生した聖女たちだ。フォトニアも信心深く優秀な候補の一人だったが、聖女となることはできなかった。ただ、修行を無事に乗り越えたこともあり、神殿勤めの神官として現在は過ごしている。
別にそれだけなら、フォトニアがここまで心を痛める必要はないだろう。
問題は修業を終えた後のことだった。
聖女となった者たちは、世界中の主要な教会へと派遣されて聖女として過ごすことになるのだが、その扱いが国や地域によって違ってくる。
中には奴隷にも近しい扱いを受ける聖女も存在していたらしく、フォトニアの時に聖女となった者の半数近くが既に命を落としている。現在では、残った聖女たちを必死に保護しながら、どうにかバランスを保っているという状況である。
こんな状況ゆえに、フォトニアも苦しんでいるというわけだ。
これが、本当に慈悲の女神であるマーシエス様のお導きなのかと。
だが、悩ましいながらもフォトニアたちの立場では、大司教には逆らえない。言われた通りに聖女を誕生させるための修行を続けていくだけである。
「お辛いですな、フォトニア様は」
「いえいえ、私にできることなど、言われた通りに聖女候補たちを立派な聖女に育て上げるだけでございますよ。では、私はもうお休みさせていただきます。明日もありますのでね」
フォトニアはそういうと、自分の部屋へと戻っていく。
部屋に残っているグイードたちは、その時のフォトニアの後ろ姿を見て、かなり心配した視線を送っていた。
「聖女という言葉に囚われている感じは致しますが、フォトニア様とその同期の方々のお話を聞きますと、聖女というのはかえっていけにえのようにも聞こえてきますな」
「グイード殿、さすがにそれは言葉を慎むべきかと」
あまりにもフォトニアのことが心配になったグイードは、思ってもみなかった言葉を吐き出してしまう。そのため、他の神官たちからすぐさま咎められていた。
グイード自身も、すぐさまその口を押さている。
「これは申し訳ありませんな。ですが、フォトニア様の時に聖女となられた方の多くが亡くなられていると聞きますと、やはりどうしてもですね……」
「滅多なことを考えるのでありませんよ。大司教様のお耳に入れば、処罰は免れません」
「ええ、気をつけますとも」
グイードはこんな言葉を口走ったこともあってか、疲れているのかと思い休むことにする。
神殿で働く神官たちも、少々疑問を持っている者がいるらしい。
はたして、聖女という存在は世界にとってどのような存在なのだろうか。




