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1 気になる存在

 

 日曜日の午後。

 今、Lavidaラヴィーダの店の前にいる。

 ネクタイを購入するためと、もう一つは別の目的があって来た。

 店内に入ると、さっそく店長が傍に寄ってきた。

 「御蔵様、先日は大変申し訳ございませんでした。あの後、二人には注意しましので、二度とあのような事がないように気を付けます。」

 そう言って頭を下げる。

 「あの事はもう気にしていない。」

 「ありがとうございます。」

 顔を上げると、安堵した表情になり、手を揉みながら話しかけてくる。

 「また、ご来店頂けて嬉しい限りです。あ、ネクタイをお求めでしょうか?私が、選ばさせて頂きます。」

 「いや、別の人に頼むから結構だ。」

 バッサリと切り捨てるとポカンとした顔をしていたが、構わず目的の人物を探す。


 「御蔵様!」

 声が聞こえた方に顔を向けると、宇崎君がこちらに向かって来ていた。

 「お待ちしておりました。」

 ニコニコと気持ちの良い笑顔で出迎えてくれる。

 「今日は、よろしく頼む。」

 「はい。お任せください。」

 この間、彼が会社に訪れた時、弟の誕生日に贈るネクタイを選ぶのを手伝って欲しいと頼んでいた。

 「確か、笹木君だったか?今日は、お店にいるのか?」

 「はい。今は裏で作業をしています。笹木に何か用事ですか?」

 「彼にも謝りたいんだ。」

 もう一つの目的とは、彼に謝罪するためだ。

 「分かりました。では、裏の方にご案内致しますので、そちらでお待ちになって下さい。笹木をお連れします。」

 ここでは、人目があるため裏に案内するのは彼なりの配慮だと分かった。


 裏に案内され、部屋の椅子に座って待っていると、ドアをノックする音が響いた。

 「失礼します。」

 宇崎君に連れられた彼は、自分の顔を見るなり  

 「ヒッ!」と怯えた声を出した。

 自分が悪いのは分かっているが、そこまで怯えられると少し胸にくるものがある。

 椅子から立ち上がり、彼の前で頭を下げる。

 「先日は、君に酷いことをしてしまい、本当に申し訳なかった。」

 「あ、あの…!頭を上げて下さい。おれ…私もお客様のお召し物を汚してしまいました。こちらが悪いんです!謝らないで下さい。」

 昨日の宇崎君と似たような事を言っている。

 頭を上げ、持ってきていた紙袋を差し出す。

 「これは、お詫びのしるしだ。どうか受け取ってほしい。」

 紙袋を受け取ると、目を見開いた。

 「これって、購入するのに何時間も並ぶスイーツですよね!え、本当に頂いて良いんですか!?」

 「受け取って貰わないと困るな。」

 そう言うと、先程はあんなに怯えていたのに、今では笑顔だ。

 「ありがとうございます!やった!」

 彼のはしゃぎように宇崎君は苦笑いしていた。

 「笹木くん、お客様の前ですよ。」

 「あ!す、すみません。嬉しくてつい。」

 「いや、そこまで喜んでくれたなら良かった。」

 彼は照れ臭そうにほっぺを掻いていた。


 あれから、店内に戻って宇崎君にネクタイ選びを手伝ってもらった。

 選んだのは、無地のブルーと小紋柄のワインレッドのネクタイだ。

 「弟さま、きっと喜ばれますよ。」

 「そうだと嬉しいな。」

 店の出入り口まで見送ってくれて、購入したネクタイを手渡される。

 彼とは、ただの客と店員でしかない。

 Lavidaに来なければきっと会うこともないだろう。

 もっと、彼とそれ以上の関係を望んでいる自分にも驚いている。ここで終わりたくない。


 自分の名刺を取り出し、その裏にプライベート用の電話番号とメッセージ用のIDを書いて渡した。

 「その…、君が選んでくれたネクタイを締めた弟の姿を見てほしいから、俺の番号を登録して欲しい。」

 我ながら取って付けたような理由だ。

 彼は何も疑わず、笑顔で名刺を受け取ってくれた。

 「分かりました。登録しておきますね。では、登録したらメッセージを送ります。」

 「ああ、分かった。」

 そうか、メッセージを送ってくれるのか。

 それだけで、内心舞い上がっている自分がいる。 

 「今日はありがとう。助かったよ。」 

 「こちらこそありがとうございました。」

 頭を下げて、栗色の髪が揺れた。

 その髪に触れたくなり、そっと撫でた。

 撫でた事に気付いた彼は、驚いたように頭を上げたが、そのままポンポンと頭を撫でた。

 「また、来るよ。」

 自分の今はきっと、優しい顔をしている。

 頭を撫でられた彼は、頬を少し赤らめながらはにかんだ。 

 「はい。またのお越しをお待ちしております。」

  頭から手を離し、帰るために店のドアをくぐった。

  帰り道でも、あのはにかんだ顔を思い浮かべていた。

 

 夜になり家でゆっくりしていると、スマホにメッセージが届いた。

 見てみると、

 『宇崎です。よろしくお願いします』

 そのメッセージと一緒に、豆柴のスタンプが送られてきた。 

 思わず笑みを浮かべ、「可愛らしいな」そう口に出していた。

 彼の事を考えているだけで、穏やかな気持ちになれる。

 また会えるかどうかも分からないのに、次に会った時はどんな話をしようかと考えながら、眠りに就いた。


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