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やっと、二人が出会います!
その後、いつも通り仕事はこなしたが廊下を歩けば社員が此方を見てヒソヒソと話をしているのが、視界の端に捉えることができた。
午後から行った経営するホテルの視察でも同様で、いい加減、鬱陶しく感じたため注意をした。
「お喋りに夢中になっていないで、仕事に集中したらどうだ。」
此方を見ながら話をしていた社員達の方を見て言ったら、肩を跳ねさせ小走りでいなくなった。
視察を終え会社に戻る途中で、この道の先にある店の事を思い出した。
「黒井。このままLavidaに寄ってくれないか?」
運転をしている黒井に伝える。
「畏まりました。そういえば、そろそろ康成様のお誕生日ですね。プレゼントをお選びになられるんですか?」
「ああ、ネクタイを贈ろうかと考えている。」
康成とは二歳下の弟で、再来週の誕生日で二十八になる。
誰にでも分け隔てなく接する性格で、こんな自分を慕ってくれている。
目的の店に着くと、そこにはキャメル色を基調とした建物が立っている。
店の名前は『Lavida』。
紳士服を販売しているお店で、祖父も生前は贔屓にしていたお店だ。
店内に入ると、この店の店長である男性が近付いてきた。
「これは、御蔵様。ご来店ありがとうございます。本日はどうされましたか?」
「プレゼント用でネクタイを買いたいのだが、数本見繕ってくれないか?」
「それはそれは、ありがとうございます。では、数本こちらで選ばせて頂きます。あちらの席でお待ちになって下さい。お飲み物をご用意します。」
揉み手をしながらごまをするような声。
立場のある者に気に入られようとする下心が見え透いている。
席に付き待っていると、トレーにカップをのせた男性従業員がこちらに近づいて来ていた。
まだ、若い。二十前半であろうその従業員は少し緊張した面持ちでトレーを持ちながら歩いている。
だが、テーブル席まであと少しの所で足が引っ掛かり転倒。
ガッシャーン!!!
盛大な音が店内に響き渡った。
転んだ勢いでトレーは投げ出され、カップは割れていた。
そして、自分の靴とズボンの裾に液体がかかっていた。きっと珈琲だろう。
「も…申し訳ございません!すぐに新しいお飲み物を持ってきます。」
顔を青くしながら頭を下げる青年。
盛大な音を聞き付けた店長が、急いでこちらに駆けつけて来た。
「笹木!何をしているんだ! 御蔵様、申し訳ございません!」
店長も一緒に頭を下げる。
今日は本当に嫌な事ばかりで、苛立ちがおさまらない。
「なあ、靴とズボンが汚れたんだが?」
苛立ちを含ませた声で、珈琲のかかった靴とズボンを彼らに見せた。
「本当に申し訳ございません!こちらで弁償させて頂きます!」
「も…申し訳ございません」
青年はさらに顔を青くさせ、店長はまた深く頭を下げた。
「別に弁償はしなくて良い。だが、誠意の持った謝罪を行動で示せ。」
「行動ですか…?」
店長が疑問をもった声で聞いてきた。
「土下座をしろ。それで許す。」
青年の顔を見ながらそう言うと、驚愕の表情になった。
「えっ…?」
「何だ?土下座が分からないのか?」
「い、いえ…あの…」
こんなものだだの八つ当たりだ。
自分でも分かっている。
「副社長、さすがにそれは…」
後ろに控えていた黒井が窘めるが、黙っていろと言うと、また一歩後ろに戻った。
彼は縋るように店長を見たが、店長は目を吊り上げ口を開いた。
「御蔵様が土下座しろと言っているんだ!さっさとしろ!」
そうすると、彼の顔はさらに青白くなり、体を震わせながら両膝を付いた。その時、透きとおった声が聞こえてきた。
「笹木くん。そんな事しなくていいよ。」
声がした方を見ると、一人の従業員がいた。
栗色の髪色に白い肌。体の線が細い中性的な男性だ。
土下座をしようとしていた彼の横に立つと、手を差し伸べ、立たせていた。
「宇崎、何をしている!」
「店長は黙ってて下さい。文句は後で聞きます。」
宇崎という彼の店長を見る視線は冷たい。
「笹木くん。ここは僕に任せて、裏で少し休んでおいで。」
反対に彼には暖かい眼差しでそう告げる。
「で、でも…」
「大丈夫だから。ほら、行って。」
優しく背中を押して行かせた。
「誰だお前は?」
身長もそこまで高くない。百八十三センチある自分と頭一つ分ぐらい違う。
「この店の主任を任されております。宇崎と申します。」
穏やかな声で答える。
「お召し物を汚してしまった事は謝罪させて頂きます。申し訳ございませんでした。」
深々と頭を下げた。
再度、頭を上げこちらを見る瞳には、静かに怒りを宿しているようにも見えた。
「こちらに落ち度はありますが、土下座は行き過ぎではないでしょうか?」
「土下座は誠意が一番こもった謝罪だろう?俺に意見をするのか?」
思わず睨むが、怯えた仕草すらみせない。
「いいえ。しかしお言葉ですが、お客様は自分より弱いものを虐げて、鬱憤を晴らしているようにしか見えませんでした。」
俺が弱い者虐めをしていると言いたいのか!?
目の前が赤く染まり、感情が抑えきれない。
「この俺を誰だと思っている!?」
大きな声を出し、怒りをぶつける。
「貴方がどこの誰だが存じ上げませんが、社員を傷付けるようなお客様の行為を見過ごす事は出来ません。」
力の強いものに屈しないという強い目。
お前には負けないと目で語りかけてくる。
その目に少しばかりの恐怖を感じた。
これ以上、この目を見たくない。
「もういい。帰らせてもらう。」
そう言葉を零して、出口へ向かって歩く。
後ろから店長が何か声を上げているが、振り返らないで店を出た。
車中では、黒井がミラー越しにこちらを見て言いたげな顔をしていたが、気づかないふりをして窓の外を眺めていた。




