2
あのパーティーから二日後。
黒井と今日のスケジュールを確認していると、外からバタバタと騒がしい足音が鳴り響き部屋のドアが開いた。
「副社長ー!大変です!こ…こ、これー!」
何やら雑誌を持って部屋に入ってきた一人の男性社員。
秘書課の、確か水野だったか。
仕事は優秀だが、少し落ち着きがないと黒井が話していたな。
「水野。ノックもなしに副社長室に入るとはマナーがなっていないですよ。」
確かに、落ち着きがないかもしれない。
黒井が注意をすると、ハッとした顔になりアワアワと慌てて頭を下げた。
「も…申し訳ございません!」
「大丈夫だ、気にしてない。ところで、大変な事とはなんだ?」
そう話を促すと持っていたのは週刊誌で、ページを見開きこちらに見せてきた。
「あの…これって、副社長の事ですよね!?」
見せられたページに載っていたのは、仲睦まじく腕を組んでいるように見える二人の男女の写真。
そして、嘘八百な記事が書かれていた。
『モデルの愛華、熱愛!?
お相手は御蔵グループの御曹司!』
二日前のパーティー会場の外で話をしていた時に撮られた写真だろう。
自分の顔は目元が分からないようにはなっているが、知る人が見れば分かる写真だ。
「朝、メロンパンを買おうと思ってコンビニに寄ったら、この週刊誌を見つけたので副社長に知らせなくちゃと思いまして。」
キョロキョロと落ち着きがなく話す水野。
黒井も難しい顔をしながら記事を見ている。
あの時にもう少し周りに気を付けていれば良かった。
まさか、記者がいたとは。
「副社長、ネットにも記事が出ています。彼女の事務所は『プライベートは本人に任せてあります』とコメントしております。」
黒井が端末をこちらに見せてきた。
その画面には、この週刊誌と変わりない記事と事務所のコメントが書かれていた。
本人に任せてありますだと?
でたらめばかりを言うのか。
眉間を押さえながら頭を悩ませていると、内線の電話が鳴った為、受話器を取る。
「はい。」
『副社長、会長がお呼びです。こちらへお越しください。』
会長の秘書からの内線だった。
どうせ記事の事だろう。
「分かりました。そちらに向かいます。」
ため息をつきながら受話器を降ろし、椅子から立ち上がる。
「会長に呼ばれたから、行ってくる。それと、黒井。この出版社と彼女が所属している事務所に弁護士を通じて抗議文を出してくれ。」
こちらもこのまま、黙ったままはいられない。
「分かりました。」
「水野も黒井のサポートをしてくれ。」
「は、はい!分かりました。」
「あとは、頼んだ。」
二人にそう告げ、部屋を出た。
向かう足取りは重い。目的地に近付いて行くたびに気持ちは憂鬱になっていく。
会長室の部屋の前まで来て、扉をノックする。
「入れ。」
低く、肩に伸しかかるような声。
「失礼します。」
部屋に入り、自分を呼びつけた人物の前まで行く。
目の前には、椅子に座り机の上で手を組む男。
御蔵グループの会長、御蔵豪介。
自分の父親でもある。
すっきりとした目鼻立ちをしており、六十半ばだが年齢よりも若く見えるだろう。
「用件は分かっているだろう?」
分からないとは言わせない言葉。
「記事の件でしょうか?」
「分かっているなら、話が早い。どうにか事態を収束させろ。顔はハッキリと写ってはいないが、御蔵の名前が出ている以上、会社のイメージにも繋がるんだぞ。」
こちらを見る目は鋭い。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。その件は、秘書に抗議文を出すよう指示を致しました。」
そう伝えると、息を吐き椅子に背中を預けた。
「火遊びをするなら、もう少し上手くやれ。」
「彼女とは、何も関係はありません。そもそも、あの日初めてお会いしました。言い寄られていただけです。」
「何だ?言い寄られて何もなかったのか?男が廃るぞ。」
口角を上げ、こちらを愉快そうに見上げる顔。
お前のように、たくさんの愛人を囲い込んでいる事が男を上げるというのか?
この男と同じ血が流れているというだけで、虫唾が走る。
お前のせいで、母さんは…!
爪が食い込むほど手を握りしめる事で怒りを堪えた。
「用件は以上だ。もう、行っていいぞ。」
「分かりました。では、失礼致します。」
頭を下げ部屋を出る。
廊下に出たら、やっと息が吸えた気がした。




