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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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自首③

 どんな顔をするのかと思っていたが、村田は意外にも「そうか奥さん、亡くなったのか・・・」と悲しそうな顔をしただけだった。

 三田敬一の自供を受け、村田の容疑は晴れたと言える。拘留期限が切れていた。起訴を見送った以上、村田を拘束しておく理由は無かった。

 釈放する前に、竹村はどうしても村田から話を聞いておきたかった。

 安堵の表情を浮かべるかと思いきや、三田敬一が自首して来たことを聞いた村田の表情は、何故か悲しげに見えた。

「何故、三田敬一の罪を被ろうと思ったんだ?」竹村の質問に、村田は「あの夫婦は俺とは対極の存在だよ」と答えた。

「対極の存在?」

「ああ、そうだ。金本家を観察している内に、あの夫婦のことに気がついた。奥さんが病気でな。病院と家を行ったり来たりしているようだった。家にいれば毎日、一日に一度、二人でベランダに顔を出す。旦那が車椅子に奥さんを乗せて、日向ぼっこをさせてあげるんだ。その様子を見ているだけで、俺みたいな極道者でも、幸せな気分になったもんだ。

 夫は病の妻を労わり、妻は病に苦しみながらも、看病疲れした夫を気遣う。俺から見れば、二人は別世界の人間だ。そこには悪意なんてものが、微塵も存在しなかった」

 黙秘を貫いて来たくせに、三田が自首して来たと聞いた途端、饒舌になった。堰を切ったように言葉が出て来る。

「悪意なんてない? あんたはそう言うが、三田敬一は人を殺しているんだぞ。しかも、三人だ。中には年端の行かない女の子までいたんだ」

「あの旦那が人を殺そうって言うんだ。よほどのことがあったに違いない。相手は金本だ。殺されたって文句の言えないやつさ。あいつの女にしても、そうだ。醜くて、怠け者で、真面目に働くのが嫌で、金本と一緒にいるような女だ。

 子供には罪は無いなんて言うなよ。そりゃあ、迷信ってもんだ。生まれつきの悪人を、俺は掃いて捨てるほど見てきた。あの子もきっとそうなる。どうせろくな人間にはなりはしない。引き篭もりになれば良い方で、世に出れば、人を傷つけて生きて行くことしか出来ない人間にしかならない。

 あの旦那、金本一家を抹殺したいのだったら、俺に相談してくれりゃあ良かったのに。そんな汚れ仕事、俺が旦那に変わって、肩代わりしてやったのにな」聞いていて嫌になるほど、村田の言葉は毒々しかった。

「で、何故、三田敬一の身代わりになって、捕まったんだ?」

「そのことか。とにかく、旦那には時間が必要だった。旦那がいなくなったら、誰があの奥さんの面倒を見るんだ? 見た感じ、奥さん、日に日に弱っていた。残された時間が、もう幾らもないことは、傍目でも分かった。

 別に、旦那の代わりに死刑になっても、俺は構わなかった。俺の命なんぞ、結局のところ、何の価値もありやしない。むしろ、旦那の身代わりになりたかった。

 だけど、日本の警察は優秀だからな。とっ捕まったとしても、俺の仕業じゃないってことに、その内、気がつくだろう。だから、時間稼ぎをしてやったのさ。あの夫婦に一分一秒でも長く、二人で一緒にいることが出来る時間を作ってやったのさ」

「三田敬一に時間を作ってやるために捕まったのか?」

「そう言っているだろう」

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