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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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罪②

「村田が現場に駆けつけた時には、全てが終わっていた」

 吉田の言葉に竹村がこくりと頷いた。「村田が駆けつけた時、部屋には三人の無残な遺体が残されていた。村田のことだ。三人の惨殺遺体を前にしても取り乱すことなく冷静に考えたのだろう。何故、村田が金本一家殺害の罪を背負い込むことにしたのか、正直、分からない」

「中丸さんとの約束を果たすことができなかった、自責の念のなせる業なのでしょうか?」

「お前、難しいこと言うね。とにかく村田は金本一家殺害の罪を背負い込むことにした。洗面所のタオルで血痕のついた足跡を拭いて回り、現場から被害者の携帯電話を使って警察に通報した後、現場にあった凶器のナイフを持ち去った」

「流石、竹村先輩! 全て、お見通しですね」

「気持ち悪いヨイショは止めろ!」

「何故、村田は現場から立ち去ったのでしょう? 金本一家殺害の罪を背負い込むつもりだったのなら、現場で現行犯逮捕されても良かったのではありませんか?」

「そうだな。その辺は俺にも、よく分からない。事件が発生して捜査が行われ、警察が犯人にたどり着く。そして、捕まって証拠を押さえられる。その方が自然だと考えのかもしれないな。日本の警察は優秀だ。下手に細工をしても見破られてしまう。いずれ、捜査が自分に行き着くことは想像ができた。

 身柄を拘束された時、証拠品を所持していたことも、今になってみると、どこか不自然な気がする。証拠品を処理してしまう時間がなかった? 本当か? 警察の追及が自分に差し迫って来ていることを知って、派手な芝居を打って捕まったのかもしれない」

「あれ、村田の芝居だったのですか⁉」

 村田を取り押さえ、証拠品を差し押さえた当事者たちだ。なんだか、手柄を否定されたようで面白くなかったが、考えて見ると、不自然な点がある。

 警察が張り込んでいることを予想して、逃走用の自転車を用意していたのだとすると、警察の監視の中、夜中にこっそり証拠品を捨てに行こうとするなど怪しすぎる。自ら捕まえて下さいと言っているようなものだ。日中、街中で人ごみに紛れて警察の尾行を巻き、こっそり証拠品を処理してしまうことが出来たはずだ。もっと自然に証拠品を処理する方法は、他にいくらでもあった。

「村田としては、自分に容疑が向くように万全の手を売った。犯罪の玄人と言える村田だ。我々の眼を見事に欺いてくれたが、所詮は付け刃だ。やはり矛盾が出てしまった」

「村田が犯人でないとすると、犯人は誰なのでしょうか?」

「それが問題だ。犯人は金本一家と顔馴染みだった。早朝にもかかわらず、家を訪ねて来た人物にドアを開けて対応している。予め尋ねて来ることを知っていたか、顔馴染みだったに違いない」

「それに村田の知り合いである可能性が高いのではないでしょうか? 村田が犯人ではないとすると、真犯人を庇って、無言を貫いていることになります」

「北城千穂の件もある」

「北城千穂? あの老婦人ですね」

「恐らく――」と竹村は言う。隣家の騒音に気がついた千穂は、恐々とドアを薄く開けて、廊下を覗き見た。そして、歩き去る男の後姿を見た。目を上げられなくて、男の靴ばかり見ていたのだろう。だから靴を覚えていた。竹村はそう推理した。

「彼女のことは調べてみましたが、特に怪しい点は見つかりませんでした。交友関係も多くなく、不審な人物は見つかっていません」

「だが、彼女は犯人が誰なのか知っているような気がする。犯人が誰なのか、知っていて黙っている。何故だろう? 幼い子供を含め、三人もの人間を殺害した人物だ。そんな人物を庇っているのだとしたら、よほど、親しい人物でなければならない。ところが、彼女にはそんな親しい人物はいない」

「犯人を庇っているのではない?」

「犯人を庇っているのではないとしたら、一体、何故、彼女は黙っているのか・・・」と呟いた後、「時間かもしれない」と竹村が言った。

「時間?」

「村田も北城さんも、時間稼ぎをしているのかもしれない。いずれ時が来たら、全てを打ち明けようと、何かを待っているのかもしれない」

「時間稼ぎ・・・ですか」吉田が納得の行かない表情で呟いた。

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