罪①
警視庁に戻ると、声紋照合の結果が出ていた。
事件を知らせる百十番通報の声と村田の声との声紋照合の結果、百十番通報の音声が村田のものと一致していた。やはり警察への通報者は村田だった。
途方に暮れる吉田と木村を前に、「はてさて、面白いことになってきたな」と竹村はご機嫌な様子だった。
「先輩。村田の拘留期限が迫っているのに、面白いって、ちょっと不謹慎じゃありませんか」と吉田が批難すると、竹村は「お前が不景気そうな面をしているから、刺激を与えてやっているんだ」と言い返した。
「通報者は村田でした。どういうことでしょう?」
「村田が犯人であるなら、わざわざ現場から被害者の携帯を使って通報する意味がないからな」
前にも一度、議論したことだ。
木村が聞く。「村田が犯人ではないということでしょうか?」
「それを考えてみる時期に来ているような気がします」
竹村と吉田の席は隣同士だ。竹村は空いた席の椅子をがらがらと引っ張って来て、木村を座らせた。三人、輪になって検討を始めた。
「村田が犯人ではなかったと仮定しましょう」
吉田と木村が無言で頷く。
「事件の背後には、恐らく、中丸の事件があったと思います。村田は、愛弟子だった中丸から松永さんのことを頼まれた。中丸の仇を討って服役している間も塀の中から、松永さんのことを見守っていた。そして、金本と言う、胡散臭い人間を拾って来たことを知っていた。
出所してみると、松永さんは不在で、海外に移住したことになっている。だが、どうも怪しい。留守宅に忍び入って、床下から白骨遺体を発見するに及んで、村田は金本の犯行を疑ったのではないでしょうか?」
「中丸の仇を討って服役している間に、松永さんを殺されてしまったという訳ですね」
吉田の言葉に、「ああ」と頷くと、竹村は話を続けた。「村田は金本を締め上げて、真相を吐かせようと考えた。そこで金本家の監視を始めた」
「村田は計画的に金本を殺害した?」
今度は木村だ。竹村は「いえ」と首を振った。「金本が松永さんを殺害した犯人であれば、当然、報復を考えていたでしょう。ですが、金本の奥さんや子供の命を奪うことまでは、考えていなかったのではないかと思います。だから、金本が一人になる機会を伺っていた。ところが、奥さんは夜の仕事で昼間は家にいる。夜は幼い娘がいる上に、人目が多くてマンションに近寄り難い。監視を続け、金本の行動パターンを調べ、日中、金本が一人になる機会を、虎視眈々と狙っていた」
「それで、あの日が来た。何が起こったのでしょう?」
「あの日――」と竹村は、見てきたかのように話をする。「金本家を監視していた村田は、異常に気がついた。金本家で何かが起こっている。どうやら何者かが、金本家に侵入したようだ。人が争う気配がする。肝の据わっている村田のことです。何事か起こっている現場に、乗り込もうとした。
金本が殺されてしまっては、松永さんを殺害した犯人が誰だか分からなくなってしまう。松永さんを殺害した犯人が金本だと確信していたかもしれないが、金本の口からその事実を聞き出したかった。先を越されてしまうと、中丸さんとの約束を果たすことが出来なくなってしまう。村田は泡を食ったことでしょう」




