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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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殺された相棒②

「その後、連絡が途絶えた訳ですね」

「はい。昨日は無断欠勤でした。携帯に何度、かけても出ないので、心配になって、自宅に様子を見に行きました。ヤマさん、今、一人なので、家で倒れているのではと心配になったものですから」

「一人暮らしなのですね?」

「三年前に離婚してからは、独身で独り暮らしでした。ご両親が千葉の実家でご健在なはずです」

「携帯電話は?」

「千葉県警によれば、ヤマさんの遺体のポケットにあったみたいです」

「それで、ヤマさんの部屋で、その小説を発見したのですね?」

「はい。アパートを訪ねて、インターホンを鳴らしましたが反応が無いので、管理人に言ってドアを開けてもらいました。部屋の中はいつも通り片付いていたのですが、机の上にその書きかけの小説がドンと置いてありました。郵便受けに郵便が入っていましたので、アパートには戻らなかったようでした。心配していたところに――」

 山本の遺体発見の連絡が入った。

 遺体が発見されたのは木更津市郊外の農地の用水路の中だった。用水路に押し込めるように遺体が遺棄されていた。首に絞められた跡があり、死因は絞殺と見て間違いなかった。

 殺人事件として千葉県警で捜査が始まった。

 身元を証明するものは身に着けておらず、指紋を照合した結果、驚くべきことが分かった。そう、被害者は警視庁、西新井署の刑事だったのだ。

――ヤマさんが殺された⁉

 連絡を受けた署内は大騒ぎとなった。現役の刑事が殺害されたのだ。何が何でも、誰が、何故、殺したのか解明しなければならない。警察の威信にかかわる。もし、過去に山本により逮捕された人間による犯行――ということになると警察への挑戦と見なされる。

「ヤマさんが扱ったヤマを至急、洗い直せ!」と課長の駄洒落のような指示が飛んだが、誰も笑うものなどいなかった。

「木村さんは今、扱っている蔦マンションの事件が今回の犯行に繋がっていると考えている訳ですね」と竹村が聞くと、「半場、確信しています。もう十年近く、ヤマさんとはコンビを組んでいますが、ヤマさんのことを恨んでいた人間に心当たりがないのです」と木村が答えた。

 犯人に恨まれるような功績を上げたことなど無かったし、そもそも、そんな重大事件を扱ってこなかった。殺人事件となると、今回の蔦マンションの事件くらいしか思い当たるものが無いと言うのだ。

 だから事件の経緯を小説に書いておこうと考えたのかもしれない。

 山本は組織の歯車となって、こつこつ働くことは得意だが、先頭に立って周囲を引っ張って行くようなタイプではなかった。

「小説は服部恵美子さんが村田に面会を申し込みに来た日で終わっています。彼女が村田を訪ねて来たのが、ヤマさんが失踪する前日でした。毎日、日記代わりに小説を書いていたみたいです」

「服部恵美子さんが村田に面会に!?」

 竹村たちが事情聴取に行ったからだろう。

「どうなるんですかね?」

「遺体が見つかった場所が千葉ですから、千葉県警の管轄になるでしょうね。とは言え、被害者が西新井署の刑事です。当然、合同捜査という形になるでしょう。ですが、我々はヤマさんと一緒に捜査をしていたのですから、関係者として事件の捜査から外されることになるでしょう。蔦マンション事件の捜査に専念しろと言われると思います」

「そうですか・・・残念です」

 木村としては山本の仇を取りたいのだ。

「木村さん。僕も気持ちは同じです。ヤマさんのヤマが蔦マンション事件と関係があるのなら、うちの事件の関係者を洗い直せば、犯人に繋がるかもしれません。きっと事件関係者の中に犯人がいます」と竹村が言うと、「ああ、そうですね」と木村が顔を輝かせた。

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