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名探偵の回顧録  作者: 西季幽司
第一章「名探偵の死」
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殺された相棒③

 木村と共に蔦マンションの事件の関係者を洗い直すことにした。

 無論、表向きは村田が黙秘を続けている以上、嫌疑を固める為の捜査で、山本の事件とは無関係というスタンスだ。

 蔦マンションから初めた。

 エレベーターホールでエレベーターを待ちながら吉田が言った。「先輩、どうやら上のほうは、村田を金本一家殺害の容疑で送検する腹を決めたようですよ」

「らしいな。凶器が見つかっているから、物証は十分だ。やつの自白が取れなくても、公判は維持できると考えているんだろう」

「僕も、村田が犯人であることで、間違いないと思います。目撃者なんて、いなかったのかもしれません」

「違う!」と竹村が語気を荒げた。「鑑識からの報告によれば、村田の部屋から押収した靴下から血液反応が出ている。DNA鑑定の結果、血痕は金本信吾のものと一致した。村田は靴を脱いで部屋に上がったんだ。もう一人、運動靴を履いた人間が、現場にいたはずだ」

「そうでした。すいません」

「ヤクザ者の村田だからと言って、万が一にも冤罪であったら大変だ。あの日、あのマンションで何が起こったのか、俺たちは明らかにしなくちゃならない」竹村が訥々と言う。

「はい。先輩の教えを胸に刻んでおきます」

 おちゃらけたつもりは無かったが、「よせ、よせ。お前に似合わない」と何時もの竹村に戻って言った。

「そんな――僕は心底、竹村さんのようになりたいと思っています」

「うひひ。俺は、スーパーサイヤ人みたいなものだ。お前とは根本的に異なる種族なんだよ。俺のようになりたくったって、土台、無理、無理」

「何ですか、それ。種族的には猿に近いってことですか?」

「おっ、言うねえ~そう、その調子。うひひ。さあ、張り切って行こう!」

 無駄足は覚悟の上だったが、隣家の住人、北城千穂から始めた。

 千穂を訪ねると、「この年になると、家を出るのは買い物か病院くらいですの」と笑顔で三人を迎えた。話し相手が出来て、嬉しそうだ。千穂は「どうぞ、どうぞ」と部屋に招き入れた。

 部屋は奇麗に片付いている。花飾りがたくさん飾ってあった。「これ造花ですの」と聞かれもしないのに教えてくれた。

「アートフラワーと言いますのよ」かなり本格的で、顔を近づけても、造花だと分からない。

「へえ、とても造花には見えませんね。本物だと思いました」と竹村が言うと、「まあ」と千穂が嬉しそうな顔をした。

 造花を褒められることが生きがいのようだ。

 辞退したのだが、「折角ですので――」とドリップ式のコーヒーを振舞われた。

 事情聴取が始まる。「前にもお聞きしましたが、事件があった日、お隣を訪ねて誰か来ませんでしたか? ひょっとして、一度ではなく二度、誰かが尋ねて来たかもしれません。二人の人物が、お隣を尋ねて来ませんでしたか?」

「二人ですか!? そうですねえ・・・とにかくお隣さんは、お嬢ちゃんが部屋にいる時、それはもう大騒ぎでしたから、誰か尋ねて来たとしても、分かりっこありません。例え、分かったとしても、お隣さんに人が尋ねて来る度に、確認している訳じゃあ、ありませんから。それに、覗き穴からだと、お隣さんのドアの前は、見えません」

「ええ、まあ、そうですけど、人が尋ねて来た気配を感じたり、話し声を聞いたり、と言うことはありませんでしたか? それも、一度ではなく二度」

「そう言われると・・・そうねえ、確かに、男の人同士が罵りあう声が聞こえたような気がします。『何だ、お前!』とか。でもねえ、その時は子供を叱っている声だと思っていましたの。それに、後で、お隣さんであんな事件があったと知ったものですから、怒鳴りあう声が聞えたような気がしているだけかもしれません」千穂の分析はなかなか冷静だ。

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