一章3 不思議な女の子
更新が遅れてすみません。
熱で寝込んでしまったら、忘れてた……
目の前では信じられない光景が起きていた。
人は見かけによらぬもの、というのはこういうことだったのだろうか。
同い年くらいの少女だった。
左目に黒い眼帯をつけた彼女は、短い髪を無造作に切り揃え、その髪が顔の周りに少しだけ乱れたように垂れている。髪の色は深い黒で、僅かに赤みを帯びているのが見て取れる。
眼帯の下には何か秘密が隠されているようで、謎めいた雰囲気を漂わせている。しかし、右目は鮮やかな赤色で、まるで燃えるように輝いている。その赤い瞳は、無表情の彼女の顔に鋭い印象を与え、見る者に強い印象を残す。
微かな笑みを浮かべているものの、その微笑みには不安定さと狂気が感じられる。
そんな彼女が先程の青い人形の化け物を殺したのだ。
片手に小さなナイフを持ち、人形の首を一瞬にして斬った。
人形の首からは青い血がどばどばと流れ出し、彼女は青い血で汚れた死んだ人形を投げ捨てた。
同い年は思えないくらいの動き、それに強さだ。
「大丈夫?」
何事もなかったかのようにこちらに手を差し伸べてきた。
レイはその手をとり立ち上がった。
「あ、ありがとう」
彼女は真顔の顔でこちらをじっと見てくる。
そして、少し考える素振りを見せた。
「…知らない顔だね。なんでここにいるの?」
初対面なのだから知らない顔なのは当たり前のことではないか。
しかも、なんでここにいるの、はこちらが聞きたいところだ。
「え、えーっと」
「あ、ごめん、ごめん。名乗るのを忘れてたよ。わたしの名前はサリエル。あなたの名前は?」
「ササキ・レイ」
サリエルの赤い目にどこか違和感を感じ、少し戸惑いながらも答えた。
「レイはどこから来たの?」
ここで正直に答えたところで、サリエルが知るはずもない。かと言って、質問をはぐらかしても怪しまれるだけ。
となれば、ここは正直に答えた方がいいのだろう。
「日本ってところから」
「にほん? 聞かない名前だね」
サリエルは首を傾げながらそう言った。
そして、ふと先程の光景が脳裏に浮かんだ。
ここで怪しまれたら先程の人形のように殺されてしまうのでは? という考えも同時に浮かぶ。
「何かの間違いでここに来ちゃったのかな? システムの不具合……」
サリエルは何か一人でぶつぶつと呟いている。
最初の印象とあまりにも違いすぎるせいか、いきなり真面目な雰囲気になっているサリエルの姿に違和感を感じる。
「…やっぱ、分かんないや」
「えっと、助けてくれてありがとう…」
何かいけない事でも言ってしまったのか、サリエルは黙り込んだ。
レイには心当たりが全くないもので、黙り込んだ理由がさっぱり分からない。
「それにしても、レイはわたしを見ても怯えないんだね」
「命の恩人に怯える必要なんてないだろ」
異世界に召喚されて暗い部屋に一人、閉じ込められて青い人形の化け物に殺されかけたところを救ってもらったのだ。
例え、そいつがどんな悪人だろうと命の恩人には変わりはない。
なぜ、怯える必要があるのだろうか――それとも。
「怯えた方がよかった的な?」
「そんなわけないでしょ」
いい感じのことを言った後に余計なことを言ってしまう、それがササキ・レイ。
それのせいで今まで何度、人間関係を失敗しただろうか。
人間の評価基準というものは残酷だ。
どんな成功よりも小さな失敗の方が評価されやすい。
例え、どんな英雄だろうと、有名人だろうと、優秀だろうとそうだ。一つの失敗でその人の評価に影響してしまうのだ。
「普通の人だったら、わたしを見たら皆怯えるのよ。でもレイからは恐怖の色が全く見えない。だから、嬉しいなー、と思ったの」
サリエルはそう言いながら、笑顔を浮かべる。
しかしそれが何故か不気味に感じてしまう。嬉しそうな顔をしているように見えるはずなのだが、何故だか嬉しくないように思える。
「本当に嬉しいのか?」
考えたことを口にしなければいいものを口にしてしまう。
そしてその後悔を言った後にしてしまうのがレイの悪い癖だ。
「レイってデリカシーとないの?」
「気をつけてはいるつもりなんだけどな。……どうしても口が滑っちゃうんだよ」
これでも中学校に上がってからは口を慎むように頑張って来たつもりだ。
それでも言ってしまいたい好奇心に負けてしまい、つい言ってしまう。
それで、最終的に取った行動が人との関わりを最低限にするというものだった。そのお陰でコミュ力は皆無なのだ。
「それで、レイは自分がどんな状況にいるのか、理解してる?」
「気がついたらこの部屋に閉じ込められて、化け物に襲われて、お前に救われた、って感じだな」
レイがそう答えれば、サリエルは深いため息をついた。
別にありのままの状況を言っただけなのだが、何がいけなかったのだろうか?
「なんで、そんなに能天気でいられるんだろう。これからどうするつもりなの?」
「どうするって、それはもちろん……あ、どうやって元の世界に帰るんだ?」
異世界に召喚されたものはいいものの、元の世界に帰る方法が分からない。
この屋敷を脱出できるかどうかも怪しいし、脱出できたとしても元の世界に戻れるかどうかは分からない。
かと言って、この世界はとても住めるようなところではない。
「それで、自分がどういう状況か分かった?」
「大ピンチってことは分かった」
「そ・こ・で、わたしと手を組まない?」
何か裏があるような言い方で怪しいが、背に腹は代えられない。
手伝ってくれるのなら、それに頼る選択肢以外はない。
「ああ、いいぞ。…でもなんで、俺なんかと手を組むんだ?」
「知らない方がいいこともあるんだよ」
サリエルは少し呆れたような顔をこちらに向けてきた。
また余計な一言を言ってしまったのだ、と悟った。
「まあいいや。大した理由じゃないし、教えてあげるよ。君はこの屋敷を出て元の世界に戻りたい。わたしは今、迷子なの」
「つまり、それを手伝って欲しい、と」
「そゆこと」
サリエルは両手を合わせて、上目遣いでこちらを見上げた。頬を染めながら、いたずらがバレた子どものように笑う。
「わたしを四階層に続く道にまで連れて行ってくれればいいから。わたし、力だけはあるよ」
「…つまり、頭の方が残念で迷子になったと」
「ほんと、デリカシーないね」
サリエルはムッとした表情でこちらを睨みつける。
レイのデリカシーのなさは今に始まったことではないので、どうすることもできない。
「…っ」
急な頭痛が襲ってきた。
ものすごく痛い。周りの視界も歪んでるように見える。もう立つことも辛い。
息もだんだんと荒くなっていき、体の体温は低下していき、寒気が感じる。そのせいで、鳥肌が立っている。
もう死んでしまうのではないのだろうか、と思えるくらい非常にマズイ状況だ。
「――ぶ?」
サリエルが何か言っているようだが、聞き取ることが出ない。
意識は遠のいていき、指先の感覚も無くなっていく。
ついには体全身の感覚がなくなり、その場に倒れ込むように膝から崩れ落ちた。
そして何かに支えられているようなそんな感覚が朧げに伝わってくる。
今までの出来事が全てが夢であればどれだけ良かっただろうか。
このまま、目が覚めたら、元の世界に戻ってて欲しいと願うばかりだ。
次回の更新は明日。




