一章2 ほらーなゲーム
目を開ければ、そこは見知らぬ空間、手元には見知らぬ箱型のスイッチがあった。肌寒く、辺りがほとんど見えないこの空間はどこか見覚えのある場所のような気もした。
手元にあるスイッチのボタンは早押しクイズでよく使われる形と似ている。こういうボタンを押したくなってしまうのは人間の性というものなのだろう。だが、そんな好奇心を押し込んで、ポケットの中にしまう。
「それにしても、ここは何処なんだ?」
トイレに行こうとしたら、目の前は薄暗い空間。きっとこれは夢なのだろう。
そうなると、真っ先に不安になるのは漏らしてないか、だ。
高校生にもなって、漏らしてしまえば社会的にレイは死ぬ。漏らしていない事を祈るばかりだ。
止まっていても何も始まらないので、取り敢えず壁を伝いながら歩いていく。
夢にしてはリアルな感覚だが、そういう時もたまにはあるのだろう。そう思い込み、周囲を探索する。
壁伝いに歩いてみた結果、扉が一か所の密室空間になっている。
さらに壁に何か付いていないのか詳しく調べると、一か所だけ材質が違う所があった。扉と壁は表面がごつごつしていたが、その箇所だけはツルツルだった。
この感覚には覚えがある。
「――ガラスだ」
よく見ると、奥に何か物がある。小型で長方形のような物がぽつんと置かれていた。
素手でガラスを割るほどの力は特にないので、ガラスを外せるようなものがないか、周辺を探す。
すると、何かボタンのようなものを押してしまったようだ。それと同時にガラスが割れるような音がした。
ガラスの奥にあった物を手に取ってみる。
それは案外軽く、中には液体のようなものが入っていた。それにふたも付いている。
「間違いない、ライターじゃねえか。これ、使えるのか…」
手に取ったライターのホイールの部分を回してみる。
すると、ボッと火が灯る。どうやら、使えるのは使えるらしい。
ライターの火が付いたので先程は何も見えなかった部屋の中央に向かって歩いてみる。
そして一番最初に見えたのは、木製の机に一枚の紙きれだ。
見覚えのあるライター、見覚えのある机、見覚えのある紙切れ、見覚えのある文字。
そのどれもが、先程プレーしていた『化け屋敷』の五階層にあったもの。
つまり――。
「――もしかして、ここって異世界なのか? やけにリアルだし、目が覚める気配も全くない」
先程までトイレにいて、気が付いたら異世界。これは、ラノベとかでよくある『異世界召喚』ってやつなのだろう。
「それにしても、何か実感が湧かねぇんだよな。まさに異世界っていう感じじゃないし…。亜人がいたり、モンスターがいたり、文明は中世風って感じなのが異世界じゃないのかよ。召喚先がこんな暗い部屋とかなんかもったいねぇわ」
大が付くほどのホラー好きだから別にホラーゲームの世界に来て嬉しくないことはない。
ただ、折角の異世界召喚だというのにお化け屋敷みたいなところだと気分が上がらない。
スマホもない、人も誰もいないのは流石に虚しい。化け物はいるけど、そいつから逃げなければいけない。
元の世界に戻れるかは分からないが、一秒でも速くこの屋敷を脱出したい。
こんな世界にいても精神が先にやられてしまうだろう。
机の上にあった紙切れの文字に目を通す。
「ふむふむ。屋敷を脱出しろ、と」
その紙切れに他に何か書いてないかよく見る。が、それ以外何も書いていなかった。
「いやいやいや、もうちょい何かヒントとかあってもよくない? ゲームだと普通紙切れの上に扉の鍵とかが置いてあるはずだったよね!?」
異世界召喚といえば、チートスキル。
それがお決まりなら、ひょっとしたら自分にも何か力があるのでは? とも思ったりはしたが……。
「特に何もないんだよな…。力が強くなったって感覚でもないし」
レイはこの部屋から出るためにいろいろと模索し始めた。
屋敷から出る前に、この部屋から出られなければ意味がない。
「しかし、どうしたものか…。この部屋にもう手掛かりになりそうな物はないしな」
部屋を隅々まで探して20分、手掛かりが何もなく、レイはもうお手上げ状態だった。扉は鍵がかかっているのか、開かない。
試しに扉を殴るも、何も変化はない。やはりこの世界では強いという設定はなさそうだ。
このままでは餓死してしまう。
「はぁぁぁぁあぁぁ……」
レイはでかいため息を吐いた。
17年しか生きれなかった、と思うと何故か気分が落ち込んでしまう。
せっかく長年の想いを告げて出来た恋人とほんの数秒で別れてしまうとは……。
「…もう少し生きたかった」
だが、その落ち込みも長くは続かなかった。
ぺちぺち、と音がしている。それも、この近くだ。
人間の足音ではないが、生物がいると思うと少しほっとする。
そのぺちぺちした音は天井の方から聞こえるので蜘蛛なのかとも思ったが、蜘蛛はそんな足音はしない。
ここが異世界で、そういう蜘蛛もいるなら不思議でもないが…。
好奇心が勝ってしまい、先程の音がした方向を振り向き、ライターの明かりで周囲を照らす。
視界に映ったのは人間のような体、そして這いつくばっているような姿勢の青い人形。
ただでさえ人形が天井に張り付いているのはおかしいのに、顔にあるパーツの配置が汚いせいか、不気味さを増している。
レイはホラー系は得意だ。
だから、天井に人形があるだけでは恐怖心など全くない。
そう思い、油断していた矢先――。
「うわっ!」
――天井に張り付いてきた人形がレイに向かって飛んできた。
人形は手でレイの首を絞め、表情一つ変えずにレイを地面に押さえつける。
息が苦しい。
やっと理解した。ここは前の世界では起こりえないことが起きるのだ、と。
ここは異世界、日本にいたときのように安全は全く保障されていない。ここはお化け屋敷じゃないので作り物でもない。
「――っ!」
なんとか人形の手をどかそうとしてもどかすことが出来ない。
人形の力は強く、下手すれば筋肉がムキムキな人よりも力が強いかもしれない。
このままいけば、死への道へとましっぐらだ。
何とかしてこの手をどかさない限り、まともにこの人形から逃げることさえ出来ない。
息もほとんど吸えなくなってしまった。
頭に酸素が回らず、視界も霞んできていた。
――誰か助けて!
そう心の中で願ったとき、扉の開く音がした。
敵か味方か、それを断定することは出来ない。
レイはただ味方でありますように、と強く願った。
その想いが届いたのか、はたまたただの偶然だったのか。
「わたしが助けてあげようか?」
その声は、まるで囁くように柔らかく、狂気さを感じるような、不思議さが感じられた。
霞んだ目で良く見れば、同い年くらいの女の子のように見えた。
どんな特徴をしているのかはよく分からない。
だが、女の子一人でこの人形をどうにか出来るとはとても思えない。
だから、来るなら力の強い男性に来て欲しかった。
これでは、もう助からなさそうだ。
――もっと生きたいよ!!
レイは恐怖心も何もかもねじ伏せて、心の中で思いっきり叫んだ。
次回の更新は明後日4月14日です。




