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一章1 転移

 ホラーゲームが小さい頃から好きだった。

 テレビも基本的に怖い話を見たり、小説などに至ってはホラー文学のものしか家に置いてない。それくらいホラー系のものが好きだ。


 佐々木玲はそんな男子高校生だった。


 もちろん、ホラーゲームやホラー文学の小説ばっかりで勉強を疎かにしているわけではない。

 ただ勉強時間と学校の時間を除けばほとんどホラーゲームに時間を注ぎ込んでいると言っても過言ではない。


 一人暮らしになった今では食事や睡眠を抜くことも多々あった。


「ねぇ、玲。少しは家を掃除した方がいいんじゃない?」


 そんな彼にも一人だけ親友、というよりか幼馴染がいた。

 玲の幼馴染――清水(しみず)(しおり)とは気軽に遊べる仲である。


「ああ、分かってる。分かってはいるんだけど…やる気が起きないんだよね」


 今日は夏休み初日ということもあり、最近発売された『化け屋敷』というホラーゲームを二人で夜通しでやるということになっている。

 のだが、栞は玄関で途方に暮れたような顔をしていた。


「足の踏み場なくて、歩けないんだけど…」


 家の惨状は本当にひどく、床面積がゼロに等しく、雑誌やら服やらゴミがそこら中に落ちていた。幸い、生ごみは落ちていないので匂いが酷いわけでもない。

 それでもやはり汚いのは汚かった。


「ごめん、ごめん。今から足場作るから、ちょっと待ってて」


 玲は床に落ちてある雑誌やら服やらをどかしつつ、足場が出来るほどにまでは片付いた。

 片づけたと云っても端に寄せてあるだけなのだが。


「もう……」


 栞は少しため息を吐き、靴を脱いで玲の家に上がった。

 彼女の黒い瞳には呆れといった感情が混ざっていた。


 玲は彼女を自分の部屋まで案内する。

 自室ということで毎日長時間使っているためなのか、部屋の中は流石に綺麗であった。


「部屋は綺麗なのに勿体ない……」


「勿体なくて済まなかったな。……それじゃあ、やるか」


「…うん」


 栞は一瞬、間を開けて返事をした。

 それは恐らく、不安からでた間なのだろう。

 栞はホラーゲームが苦手、というよりホラー系全般が苦手なのだ。それなのに誘ってきたのは彼女の方からだったのだ。


 ――怖いなら、やらなくていいのに……


 学園祭のお化け屋敷でも入口から入って入口から出てくるくらいビビりなので辞めといたほうがいいのでは、と思ったが、彼女の勇気を無碍にするわけにもいかない。

 そんな心境で渋々やることになった。


「やっぱり、怖いのか?」


「違うわよ! べ、別に怖がってなんかないもん…」


 そう言いながらも彼女の手はぷるぷると震えている。


「手が震えてるぞ」


「そ、そんなことないよ!」


 玲はため息を吐き、ゲームの準備をする。

 ゲームのカセットをゲーム機に挿入し、テレビをつければ画面には『化け屋敷』のタイトルが中央にでかく映っていた。

 スタートボタンを押し、玲と栞はゲームを始める。


 栞は怖いものが大がつくほどの苦手なのでストーリ本編よりも少し怖さを抑えたミニゲーム的なものから始めた。

 ミニゲームで怖さを慣らしてからストーリ本編に挑もうという魂胆だ。


 そういうつもりだったのだが……。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 まだ序盤の序盤で開始5秒といった所で、ゲーム内からガラスが割れた音が出ただけでこの惨状である。


「栞さんや、ガラスが割れただけだぞ」


「び、びっくりした、だけだから…」


 栞は持っているコントロールをぷるぷるさせて、体全身に力が入ってしまっている。

 そのまま、プレーを続けていると、変な方向に行ってしまったり、無駄にアイテムを使ってしまったりしていた。

 そして、いよいよ怖い人形から逃げるときになったのだが……。


「むりむりむりむりむりむり!! 誰か、たすけてぇー」


 栞はしっかりと怖がっていた。それも涙目になるほどであり、あまつさえ目を何度か瞑ってしまう。

 それでいてゴールの方向にはしっかりと進んでいる。


 ちなみに玲はというと、30分くらい前にすでにゴールをしている。ここのミニゲームのマップはストーリ本編の5階層と同じであったため、ストーリ本編を少しだけやっていた玲にとっては攻略が簡単だった。

 なので彼女のプレーを気長に見ていた。


「ほら、もう少しでゴールだぞ」


 人形から逃げて10分ほど経った頃、最後の一本道に差し掛かった。

 栞は手が震えながらも、スティックを前にたおし、全力で逃げる。


「玲。もう怖い、助けてぇ…」


 栞はもう叫ぶ気力もなくなったのか、声が萎れていた。


 薄暗い画面に光が差し込んできている。ゴールはもう目の前だ。

 しかし、ゴール間近で焦ってしまったのか、栞は指を滑らしてしまい、スティックを放してしまう。


「あ…」


 結局、ゴール寸前で人形に追いつかれてしまい、捕まってしまう。

 次の瞬間、人形の顔が度アップされる。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


 それを見てしまった栞は今日一番の叫び声をあげた。


 そして画面には『ゲームオーバー』の文字が映し出される。

 下にコンティニューしますか、と書かれていたが、そろそろ休まなければ栞が辛くなってしまうので、『いいえ』を押した。


「おーい。大丈夫か?」


 余程怖かったのか、栞が固まってしまった。

 最悪の場合、気を失うことも多々あるので、気を失っていないだけ今回はまだマシな方だ。


「おーい」


「……」


 何度も呼びかけてみたものの、反応が全くない。

 仕方なく、玲は栞の頬っぺたを人差し指でつんつんする。が、それでも反応がない。

 なので軽く頬をつねってみる。


「きゃっ!」


 彼女は驚いたように目を丸くしたあと、じっとこちらを見つめた。


「い、いきなり、なにするのよ」


 頬をぷくっと膨らませる姿があまりにも可愛らしくて、思わず笑ってしまった。


「なに笑ってるの!」


「い、いや、別に……」


 先程まで叫び声をあげるほど怖がっていたのが嘘のようで少し安堵する。


 玲はトイレに行こうと立ち上がろうとしたが、袖が何かに引っかかり立ち上がれなかった。

 袖の方を見れば、栞の手が彼の袖を掴んでいた。


「い、行かないで…」


 栞は顔を赤らめながら、小さな声で言った。

 玲は恥ずかしがっている彼女を見て、少しばかり顔に熱がこもる。


「あのー、トイレに行きたいのですが……」


「少しでいいから、ここに居て欲しい…」


 上目遣いをしながら、だめ? と聞いてくるので、仕方なく我慢をすることにした。

 互いに無言の状態で数分が過ぎたところで、栞が喋る。


「あの、さ。少し、話したいことがあるんだよね」


「お、おう」


 栞が躊躇いながらも真剣に話すので、玲は反射的に身構えた。


「そ、その…今日はごめんなさい。怖いの苦手なのに一緒にホラーゲームやりたいって言ったこと。迷惑、だったでしょ?」


「えっと別にそこは…」


「時間を取らせちゃって本当にごめんなさい」


 そう告げた栞が何に誤ってるのかを理解した。


 栞は自分のせいで『化け屋敷』のストーリ本編をやるのが遅くなってしまうことを知っている。

 それでそれが迷惑なのではないかと気にしているのだ。


 玲はそれを承知の上で誘いを受けたのであり、迷惑などとは思っていない。

 それにこうやって誰かとゲームするのが好きなのだ。


「別に気にしてないし、お前とゲームするのは嫌いじゃないし」


「そう、なんだ…。……そ、そのさ、私は好きだよ。玲のこと」


 その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 全くの予想外の言葉に一瞬これは夢なのではないのだろうか、と疑ってしまうほどだ。


「それはどういう意味で……」


「もちろん、一人の男の人として好きだよ」


 答えは薄々予想はついていた。心の準備だってしてたはずだ。

 それでも心臓がばくばくして、体中に熱がこもり、血の流れが速くなる。


「…俺も、……俺も好きだ、お前のことが。友達もいない俺にはお前が眩しくて仕方がなかったんだ」


「うん」


「だから、付き合ってください」


 このときの玲はもうトイレに行くこうとしたことなど忘れていた。ただ、長年好きだった彼女に想いを告げるので頭がいっぱいだった。


「喜んで!」


 黒くさらさらとした髪が光で反射し、それもあってか彼女の笑顔がいつもより眩しく見えた。

 そんな幸せような時間が過ぎていく。


「ちょっと、トイレに行ってくる」


 用を足そうとするのと恥ずかしさを隠すために栞にそう言って、トイレに向かう。


 トイレの扉を開け、中に入ろうとする。が、急に目眩がし、壁に体を預ける。

 そのままだんだんと視界がぐしゃぐしゃになっていき、意識が薄れていく。



 告白された熱とともに佐々木玲の体の熱が冷めていった。

読んでくださりありがとうございます(^▽^)/

次回の更新は4月12日です。

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