スプマンの冒険者ギルド
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『街で生活するには、金っていうのが必要みたいだから、何かしらで金を得たいと思ってる。あとは街で生活するなら、こんな感じの拠点が必要なのか?』
アイルさんは、世俗に疎いのかしら。街での生活の仕方も知らないようだし、ドラゴニュートの集落から出てきたばかりなのだろうか。とはいっても、ここクスパリング王国にドラゴニュートの里や集落があるなんて聞いたことがない。ただ、ミーオが連れてきたので、この方は何かを秘めていると思う。
「戸建ての拠点は、購入にしても借りるにしても維持費がかかりますからね。冒険者や行商人でしたら、宿屋で生活する方がほとんどですよ。まあ、アイルさんなら、ここの空き部屋をお貸ししても良いですけどね。ただし、条件付きですが」
『え。会ったばかりの恩も借りもないのに』
「ええ。だから条件付きです」
ドラゴニュートは、数は少ないらしいが魔法も膂力も優れていると聞いたことがある。それにカエルム大森林から来たと言っていたので、実力は申し分ないのだろう。今のわたし達の状況には、うってつけだ。
「今、わたし達のパーティは、前衛が二人かけてしまっていまして。アイルさんがよろしければ、依頼を含めてお手伝いをして欲しいのです」
『依頼を含めて?』
「はい。少し日数は掛かってしまいますがカエルム大森林の調査と、ある薬草の入手を手伝っていただければ、と。そうすればお金も拠点も含め、ある程度はサポートさせていただきますよ。どうですか?」
ウインクして、お願いしてみたが効果は全くないようだ。冒険者やギルド職員には、効果覿面なのに。
「アイル。大森林の調査は、あと少し。薬草はすぐにでも欲しい」
『何か困ってることでもあるのか?』
わたしのウインクよりも、ミーオの落ち込んだ顔の方が効果があるのだろうか。確かに耳が垂れて、クリクリとした目がしょんぼりしている姿は、可愛いと思う。
「ん。ノエルの為に」
「薬草の入手を手伝って頂ければ、ギルドを通してきちんと対価をお支払いします」
『うん。わかった。手伝うよ』
少し間が空いた後に、承諾の返事を貰えた。良かった。今受けてしまっている冒険者ギルドの依頼も片付けられるし、何よりもノエルを助けることができるかもしれない。
「ありがとうございます!では、早速ですがギルドに行きましょうか」
「ポシュカ、アイルはギルドに登録してない」
「え?」
「ギルドに登録してない」
ミーオから発せられた言葉に、ポカンとしてしまった。
「えっと、商業ギルドも冒険者ギルドでも何処かしらの登録は」
「ん。どこにも登録してないみたい。ミーオが門番にお金払った」
「そういう事は、すぐに言いなさい!」
「ん。いま言った」
つい頭を抱えてしまった。アイルさんは、世俗に疎いと思ったが、金も身分証も持っていないなんて。という事は今、ミーオがアイルさんの保証人になってるの!?この状況でも、何か起こったら。
まあ、良い。落ち着きなさいポシュカ。どちらにしろギルドには行かなければならないし、身分証を作れば街に滞在できる。ミーオの保証人も解除される。
『えっと。あの、ポシュカ』
「いえ。大丈夫ですよ。詳しいことは、冒険者ギルドに行ってからにしましょう。ギルドで身分証も作れるので問題ないです」
『はい。わかりました』
「リリ、ララ。ノエルのことお願いね。では、行きましょうか。ミーオも来るのよ?」
ミーオのフードを掴み、三人で拠点を後にした。
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ポシュカとミーオに連れて行かれたのは、冒険者ギルドという場所だ。街の雑多な様子は、未だに慣れないが最初よりも良くなったと思う。
冒険者ギルドは周りの建物よりも二回りほど大きく、建物の中では同じような格好をした者達や、槍や剣、弓などを持っている者が数名いた。
屋内の一角は食事ができるようで、その反対側、右手の奥の方では魔物らしき物を解体している。
ポシュカとミーオの後について行き、入り口正面の長い木の台へ向かった。木の台の奥に三名、さらにその奥では見えている者だけで、五名の小さき者達が何かに勤しんでいる。種族は獣人族らしき者やヒュームらしき者もいるが、その者達は皆、白い布地の上に濃い赤と黒の服を着ている。
木の台にたどり着くと一名の小さき者が話しかけてきた。
「銀の月のポシュカさん、ミーオさん、こんにちは。本日のご用件をお伺いします」
喋りかけてきた者は、茶色い髪をしており、背丈はリリとララよりは高そうだが小柄だ。獣耳や尻尾がないので、おそらくヒュームだろう。
「こんにちは。ローラさん。本日も可愛らしいわね。ギルド長と少し相談したいのだけど、お時間いただけるかしら?手続きもお願いしたいから、ローラさんも同席してもらえると助かるわ」
「ポシュカさん、ありがとうございます。ギルド長については、確認しますが先にご用件をお伺いしたいので、応接間にご案内します」
ローラは、にこりと微笑えむと奥に居る者へ話しかけた後、私たちを建物の上の部分にある部屋へと案内した。
「では、ギルド長を呼ぶ前にご用件を伺います」
「わかりました。まず紹介が遅れてしまいましたが、こちらはアイルさん。今はミーオが保証人になっています。要件は三つ。一つは、アイルさんのギルドカードの発行をお願いしたいです。二つ目は、いま銀の月の請け負っている依頼にアイルさんの同行許可をいただきたいです。三つ目は、薬草の採取依頼を銀の月からアイルさんへ指名依頼したいと思っています」
「現状、ギルドカードを持っていない方をAランクパーティの依頼に同行ですか。それでギルド長を、と」
「ええ。カエルム大森林を抜けてスプマンまで来たそうなので、今回の依頼については問題ないと思っています」
「アイルさんの実力と依頼の適正については、こちらで判断させていただくことになると思いますが、一度ギルド長に話してみましょう。一通り手続きに必要な書類も持ってきますので、しばらくお待ち下さい」
ローラは、そう言うと部屋を出ていった。




