ミーオ達の拠点
「お腹鳴った」
「もしかして朝、依頼に行ってから何も食べてないの?」
ポシュカの問いに、ミーオはコクリと頷いた。
「ノエル見てくる」
そう言うとミーオは、トコトコと先ほどポシュカが出てきた開口部へ向かい、建物の奥へ入っていった。
「アイルさんは、お昼は何かお食べになりますか?」
『はい。数日間カエルム大森林にいたので、街についたら何かしら食べたいと思っていました。スプマンの街は、ナバ王国と交易があるため料理が美味しいと聞いていたので』
「ええ。魔物の素材が豊富なので、多くの商人が集いますからね。クスパリング王国の料理と比べ、一風変わった物が多いですよ」
「アイル、一緒にいく?」
いつの間にか戻っていたミーオから声がかかる。スプマンの街は、ほとんど入り口付近の風景しか目にしていない。土地勘は皆無なので、地理に詳しい者に案内してもらうのが一番だ。
『ミーオが良いなら行こう』
「ん。じゃあ、行こう」
再びミーオの後をついていく形になり、ポシュカのいた建物を出た。先ほどは気持ち悪さで、余裕がなかったが、街並みを見ると中々に立派な町のようだ。エルフの村とは全然違う。カエルム大森林の巨木に比べまると小さいが、一つ一つが大森林の外にある木と同じくらいの高さの建物が並んでいる。建物の下の部分では、衣類のような物を作ったり、何かわからないが薄茶色の粉を捏ねたりと、小さな者達が色々な作業に勤しんでいる光景が目に入る。
「こっち」
まばらに行き交う人々を横目に、路地を抜けていく。暫く歩くと、嗅いだことのない不思議な香りがしてくる。肉を焼いた時とは違う、なんというか食欲をそそる暴力的な香りだ。
ミーオに連れて行かれて辿り着いたのは、広場のような場所で、広場の中央部には円形の窪みがあり、そこから水が吹き出している。広場の至る所に大通りにあったような、木の枠で作られた簡易的な小屋が複数並んでいて、その中で様々な食べ物を作っているようだ。
「アイル、食べたい物ある?ここらへんの屋台なら、すぐ食べられるし美味しい」
『初めて見るものばかりだから、ミーオのおすすめを教えてくれ』
「ん。わかった」
どうやら、この簡易小屋のような物は屋台と言うらしい。ミーオの選んだ食べ物は、切った肉を棒に刺して焼いた物。そして、不思議な香りのするスープだ。
ちなみに街で手に入る物は、大体が金という物と交換するようだ。持っていないので、全てミーオが出してくれた。
今、数本の肉が入った袋を片手に持ち、スープの屋台の前にいる。スープは、ミーオが持ってきた大きな容器に、屋台にいた料理人が並々と注いでいる。ミーオがスープを注がれた容器を受け取ったが、小さな背丈で、両手に抱えるよう持っているので、視界が悪そうだ。
『ミーオ。金を出してもらって、すまない』
「ん?持ってないの知ってたから、気にしなくて良い。それにミーオもこの前、アイルの邪魔しちゃった。ごめん」
ミーオが言っているのは、泉での出来事のことだろう。あれはミーオが悪いのではなく、他のヒュームの二人にイラついたのだが。
『金の代わりにはならないけど、荷物を持つよ』
片手にあった肉を【収納】し、ミーオが両手に持っていた容器も受け取って、こちらも【収納】する。
『肉もスープも結構な量があるけど』
「ん。これは拠点のみんなの分も」
『拠点?』
「さっき入った建物が、ミーオ達“銀の月“の拠点」
『銀の月?』
「冒険者ギルドに所属してるパーティ名。ノエルのパーティ」
ノエルか。さっきもミーオが様子を見てくると言った時に言っていたな。
『ミーオ達は、冒険者ギルドに入っているのか』
「ポシュカは、薬師ギルドにも所属してる。ところで、アイルは収納持ちなんだ」
『収納持ち?』
「ん。冒険者ギルドとか商業ギルドは、【収納】の魔法を使える人を収納持ちって言う」
冒険者ギルド以外に、薬師ギルドや商業ギルドなんてのもあるらしい。
「容量は人それぞれだけど、【収納】を使える種族はヒュームが多い。アイルはドラゴニュート?なのに、収納持ちだと思って」
『ミーオは、【収納】できないのか?』
「うん。ミーオは、ヒュームじゃないから」
そう言うと、ミーオは頭に被っていたマントを取った。マントの下には白い三角耳と白い尻尾がある。ミーオはヒュームではなく、獣人族だったようだ。
『ミーオは獣人族だったのか』
「ん。ミーオは、冒険者ギルド所属Aランクパーティ“銀の月“の猫人族ミーオ」
ミーオが腰に手を当て、片方の口角を上げて自己紹介をし始めた。時折、耳がピクピクと動き、尻尾がゆらゆら揺れている。
猫人族か。次代の神々が、何種か生み出していたのは知っていたが、種類が多過ぎて覚えていない。たしか、緑の民を真似た狼人族というのもいたな。ドラゴニュートやリザードマンは、私を真似た種族か?
「アイルは、ドラゴニュート?」
獣人族について考えていると、ミーオからなんて答えれば良いのか迷う質問がきた。
『まあ、そんなところだな』
「ふーん」
ドラゴニュートを実際に見たことがないため、曖昧な返事をするしかない。
ミーオは銀色の瞳で、こちらを覗き込むが暫くすると、自己解決したのか、それともどうでも良くなったのか、覗き込むのをやめて歩みを再開した。
「アイルがまだ収納できるなら、数軒屋台をまわりたい」
『まだまだ、大丈夫だぞ』
「ん。わかった」




