森の外
肉とチーズは、再び火魔法で加熱して胃袋に収まった。美味かったが、あれは絶対に出来たての方が美味しいに違いない。記念すべき料理第一号をあのような仕打ちにしてくれるなんて、あのヒューム許すまじ。
ここまでの憤りは、何千年ぶりだ。いや、何万年ぶりだろうか。これも小さき者達と交流する上では、致し方ない感情なのだろうか。などと考えて森を進むこと2日。樹々の背丈が徐々に小さくなっていき、いま視界に広がるのは、力強く伸びた緑色の麦と草原が広がっている。所々茶色い線が引かれているのは道だろう。
スプマンの街を目指しているのだが、地図を見ても現在地がわからない。道に沿っていけば村か街に行き着くのだろうが、どちらに進むべきかわからなかったので、結局は上空から確認することにした。
『向こうの方に、住処らしきものが見えるな。』
豆粒ほどの、大きさなので村か街か判断できない。距離としては、徒歩だとまだまだかかりそうなので、このまま飛んでいくことにした。
小さき者達の住処は、なかなかに立派な外壁に覆われており、外壁の内部には所々に水の流れが見える。付近を通る大河から分流し、水を引き入れている。
道が外壁とぶつかり合うところに、大きな門があり数十人の人影が確認できる。外壁より内に入るには門を通る必要がありそうだ。
外壁の内側上空には、覆うように結界が張ってある。
結界自体は、弱いな。あれだと、ワイバーンが数十匹で襲って来たら、壊れてしまうのではないか?わざわざ結界を壊して侵入する必要はない。
高度を下げていくと人影の列を成しているのは、獣人やらヒュームやら様々な種族であることが確認できる。後方から来た者は、列の後ろに付くようなので、私も最後尾に並ぶことにしよう。
空からの訪問者に並んでいた者達から「おおっ!?」という響めきや、馬車を囲んでいる武装した者達は、武器に手をかけている。着陸して大人しく列の後方に移動すると、好奇な目を向けては来るものの、戦闘の意思を向ける者はいなくなった。空を飛んでくる者が珍しいのか、エルフ達が言っていたようにドラゴニュートが珍しいのか。
列は、思いのほか早く進み、すぐに門前に到着した。どうやら門番がいるようだ。
「次!」
私の順番となり、門から中へ入ろうとする。
「にいちゃん、ちょい待ってくれ!」
積荷の無い者は素通りだったようなので、そのまま中に入ろうとしたのだが止められてしまった。
『ん?どうかしましたか?』
「ほれ!早く見せて!」
『は?』
意味が分からずに首を傾げると、門番のヒュームは額に手をやった。
「おいおい。にいちゃん、一体どこの田舎から来たんだ?街に入るには身分証か通行手形が必要なんだ。持ってないのか?」
『身分証?通行手形?どっちも持ってないな。』
「そうか。そうなると、手続きが必要でな。ちょいとこっちに来てくれ。おい!代わりを頼むわ!」
仲間の門番に声をかけ、椅子と木の台が置いてある門の脇へ案内された。
「にいちゃん、見たところヒュームじゃないみたいだが、大きな街は初めてか?」
『ええ、まあ。』
「門番のいるような街に入るにはな、ギルドで発行してる身分証や、商業ギルドで出す通行手形が必要なんだわ。んでな、にいちゃんみたいにたまにいる身分証の持ってねーヤツは簡単なチェックと金が必要でな。」
『かね?』
鐘?んー、鐘かー。遠い昔に、白い法衣を着た連中が、祭壇に鐘を置いていったことがあるけど、まさかこんなところで使うことになるとは思わなかったので洞窟に置きっぱなしだ。
『すみませんが、今は手元に鐘が無くて。』
「金を持ってないだと!?1ルピもか!?」
門番は、大声を出した。
鐘は一つで1ルピというのか?しかも、あんな持ち運びしにくそうな鐘が街に入るのに必要だなんて、小さき者達は面白いな。と首を傾げて、不思議に思う。今日は、首を傾げてばかりだ。
「なんつーこった。んー、どうすっかな。街の中に知り合いとかは、いねーのか?」
『街は、初めてだからね。』
「こりゃ、まいったな。入る方法があるっちゃあるんだが、暫くは強制労働だしな。」
門番の彼は、顎の髭に手を当てて考えている。この門番は、エルフに比べて口がガサツだが親身になってくれている気がする。なかなか良いヒュームのようだ。
「ん。これ。」
ふいに、視界の隅に影が入り、マントに身を包んだ者が木の台に、小さな薄い板を数枚出した。
「ん?ミーオじゃねーか。」
「確か、街に入るには300ルピで良かったはず。足りる?」
「ああ、問題ねーが。お前、このにいちゃんと知り合いなのか?」
「森で少し。」
「ふーん。そうか。まあ、良い。じゃあ、あとは軽く質問するから、終わったら入って良いぞ。」
どうやら、小さな板を門番に渡したのは、森の泉で遭遇したマントに身を包んだ者であったらしい。そして、門番の言うカネというのは先程の小さな円盤の事を指していたようだ。鐘ではないのか。
似たような物は祭壇に置いてあったが、先程のような鈍い色ではなかったな。
私の後ろにミーオと呼ばれていた者が立ち、門番からは名前や街での滞在目的など簡単な質問をされる。名前はアイルで、滞在目的は修行と飯と。




