ヒュームの冒険者
『はあ。別に横取りなどしていない。フォレストウルフが襲ってきたから殺した。それだけだ。死体が欲しいなら持っていけば良い。』
私が彼らの獲物を横取りする理由もないし、フォレストウルフをどうするつもりもない。そんな事よりもさっさと飯を食べさせて欲しい。
しかし、アニキと呼ばれるヒュームは何が気に食わないのか、引く様子が無い。それどころか、更にこちらに近づいてくる。顔を見る限り、礼を述べてくる感じでは無い。
「ドラゴニュートのハーフか?顔は良さそうじゃねーか。需要がありそうだな。」
舌舐めずりしながら、近づいてくる。何を考えているか知らないが、害があるようなら相応の報いを受けさせるか。
パンッ パンパンッ
唐突に上空から、破裂音が響き渡る。
「もう向かわないと間に合わない。ここは、離れ過ぎている。」
「ちっ。面は覚えたぞ。」
マントに覆われた者が、そう呟くとアニキと呼ばれるヒュームは、舌打ちをしてフォレストウルフを担ぎ森の方へ向かっていった。そのあとを、出っ歯のヒュームが追いかけていく。
「すまない。」
マントに覆われた者は、一言そういうと軽く頭を下げて、茂みに入っていった。
『私の料理が。』
冷めてしまった肉を見つめる。あのヒュームめ、この恨みはいつか晴らす。とアイルは誓った。
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今回の遠征は、本当についてない。いくらギルド長の頼みだからといって、限度というものがあるだろう。ギルド長には借りがあったので遠征には協力することにしたが、馬鹿共のお守りだなんて聞いてない。
「ミーオ!頼む!今回の遠征、Aランク以上の冒険者があまり確保出来てなくてな。」
ギルド長が、ミーオに話を持ってきた理由もわかる。いま、リーダーのノエルが怪我の為、療養しているし、手の空いている他のメンバーは、まだBランクなので今回の遠征に引率できない。
「わかった。ノエルを助けるのに、薬を融通してもらったし。」
「いやー!助かる!ちゃんと、報酬はだすからな!」
「それは、当たり前。」
というわけで、DランクからCランクに昇格するための試験に着いてきたわけだけど、騒がしくて卑しい力馬鹿のイトバと、その金魚のフンのトーナに付くなんて聞いてない。こいつらは、ずっとDランクでくすぶっていて、しかも最近良い噂を聞かないのだ。
普段、本当に討伐依頼をこなしているのか?というほどに、お粗末な行動が目に余る。ミーオ、もう帰りたい。
「ねえ。あなたたち、いつもこうやって狩りをしているの?」
「お、お、おう!当たり前じゃねーか!」
フォレストウルフを狩るだけで、森を駆け回るなんて。金魚のフンのトーナは、スカウトのくせに役に立っていない。索敵の時も、先頭は戦士イトバだ。トーナは、近くに強力な魔物がいないかビクビクしながら索敵をしているだけ。普通は、スカウトが先導して狙いの魔物を見つけるものなのに。
それに、フォレストウルフを見つけた途端にイトバは走って斬りかかろうとする。弓や魔法が使えないのであれば、ナイフなり石なりで先制するか、囲んで挟み討ちにするなど、やり様はある。
標的のフォレストウルフは、そこまで馬鹿な魔物ではない。単身でいて、いきなり剣を振りかぶったヒュームが大声を出して近づいて来たら、逃げるに決まっている。
もう既に何十分も追っては逃げられ、追っては逃げられ、を繰り返している。しかも同じ個体に対してだ。行き帰り含めて4日の遠征だが、これはもう2日目で不合格にしても良いのじゃないだろうか。
早く終えたい気持ちを抑えて、イトバとトーナの後を追った。
設営地の集合場所からは、随分と離れてしまっている。樹々の先が明るいということは、そろそろあの泉らへんだろうか。
フォレストウルフが先に茂みを抜け、しばらくするとイトバ達の大声が聞こえて来た。後を追い、茂みから顔を出すと泉には先客がいた様で、その傍らにはフォレストウルフの死体が横たわっている。恐らく、その者に倒されたのだろう。スプマンの街では見たことの無い顔だ。リザードマンのハーフだろうか。顔はヒュームのようであるがくびや腕には鱗の様な肌が見え、尻尾もある。いや、よく見ると翼もあるということは、ドラゴニュートのハーフ?
イトバがドラゴニュート?に近づいた瞬間、背筋がゾッと寒くなる。あれは、相当な手練れだ。わたしの【直感】が警告を鳴らしている。イトバが何か気に触ることでもしたのだろうか。イトバとトーナは気付いていないのか、気にもせずに近づいていく。
パンッ パンパンッ
設営地へ集合の合図だ。
「もう向かわないと間に合わない。ここは、離れ過ぎてる。」
イトバは、素直に聞いてくれたようだ。舌打ちなどしていないで、むしろ感謝して欲しい。
目の前にいるドラゴニュート?へ謝罪をし、しげに戻る。イトバの態度も気になるし、むしろ彼の存在は看過できないと【直感】が告げている。恐らく、彼には、ミーオたちのパーティ“銀の月“が束になろうと敵わないだろう。
彼がティムぺオール領に何をもたらすのか、まずは身辺調査をするべきか。しかし下手に刺激するのは危険だろうか、考えてながら設営地へ戻っていった。




