森の狩人
探知にかかった方向へ向かってみると、そこには体高3メートルほどだろうか、黒くて丸い物があった。
うん。こいつは知っている。たしかマウントロリポリという昆虫種だ。
非常に多くの足を持っているが、動きは鈍い。背中の甲殻が腹の部分以外のほぼ全てを覆っている。次代の神の一人に、昆虫種ばかりを生み出すモノ好きがいて、そいつが創った大昔からいるやつだ。
動きも鈍く攻撃力も無いが、雑食という性質とその多くの足でどのような場所でも移動する、生命力に長けた虫らしい。
その次代の神が生み出した時に食べてみたが、はっきり言って、もう二度と食べたくない。
探知にかかった反応は、全てマウントロリポリだったようだ。文字通り、苦い思い出によって気分が悪くなってしまったので、サラ村に戻ることにしよう。
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「マウントロリポリですか。」
『私が確認したのは三匹ですけどね。』
「うわー。マウントロリポリ。もうすぐ火の時期ですもんね。」
今、私はアイル殿と数人の戦士で、泉へ水浴びに来ている。
それにしてもマウントロリポリか。また面倒な物が。
『アイサーさん、どうかしましたか?暗い顔して。』
「数年前のマウントロリポリの大繁殖を思い出してしまいまして。奴らが暖かい地域を求め移動するのはご存知かと思いますが。マウントロリポリの移動時期に、北方にある山の民族とドウン帝国の間で大規模な諍いがあったらしく、周辺の村の食物やら戦争跡地の死体やらを食べ漁って、南下してきたのです。」
「養分を蓄えて大繁殖ですよ!このカエルム大森林のあるクスパリング王国でも、小さな村や他の森も結構な被害に遭いましたよ。」
「まだ三匹なら、そこまで気にしなくても良さそうですね。」
マウントロリポリの大群の討伐は、クスパリング王国総出で行われた。もちろん我々エルフにも協力要請が来たのだが、殻が硬く弓矢は通らないわ、数は多いわ。精霊術を使い、風の刃で断ち切ろうと思ったのだが、それもなかなか通らない。結局は、なんとか大平原に誘導して、腕利きの魔術師達が仕掛けた大規模魔術で凍らせたり、焼いたりで討伐したのだ。仲間の戦士達も、渋い顔をしている。
アイル殿も、マウントロリポリの大群を想像したのだろうか。心なしか暗い顔になっている気がする。
「アイル殿、マウントロリポリ以外には何かありましたか?」
『いえ。テキトーに散策していただけで、帰り際に何か獲物を狩ろうとしたところ、マウントロリポリを発見しまして。本日は収穫無しです。』
「そうだったのですか。ではアイル殿さえ良ければ明日の早朝、我々とフィノムバードを狩りに行きませんか?」
『おお!いいんですか!』
喜んでくれているようで良かった。昨日は、メイサー様から相当しつこくされたようでゲッソリしていたからな。申し訳なかったが、あの状態のメイサー様を引き剥がすと恐ろしいことになってしまうので。明日、フィノムバードが狩れたら謝罪しよう(水に流すは謝罪する側が言ってはいけない言葉です)。
アイサーは、明日フィノムバードが狩れることを祈りながら夕食の会場に向かうのだった。
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「アイル殿。絶好の狩り日和ですな!」
翌朝、日の出る前。村の出入り口に向かうと、既にアイサーと複数の戦士が支度を終えて待っていた。どうやら、待たせてしまったようだ。
『皆さん。お待たせしてしまったようで、すみません。多少靄がかかってますけど、絶好の狩り日和ですか。』
「ええ!フィノムバードは、あまり目が良くないので、このぐらいの視界の方が都合が良いのです。逆に霧が濃すぎると、こちらも他の魔獣を警戒して危険ですので。」
なるほど。フィノムバードからは見えづらいが、こちらは他の魔獣も警戒できるということか。
「早速ですが、出発しましょう。急がないと靄が晴れてしまいますからな!」
一行は、エルフ達が日頃、狩り場としている場所へ向かった。
「アイル殿、ここからは無言で出来る限り足音を立てずに移動しましょう。」
小声で、アイサーが話す。ここらへんから狩り場ということか。道中、ハンドシグナルというものを教えてもらった。フィノムバードなどの繊細な生き物を狩る時は、声を出さずに手でサインを送るそうだ。
アイサーの呼びかけに、黙って頷きアイサーの後を追う。
しかし、足音を立てるな。というのは、難しい。落ち葉や草を踏むと、どうしても擦れたような音が鳴るしな。しかも、今回の獲物は鳥なので木の枝にいることが多い、どうしても視線が上に向くのだ。
エルフ達は流石というべきか、ほとんど足音がしない。どうやっているのかコツを教えてほしいくらいだ。草や落ち葉を踏まない魔法でも使っているのか?そんな魔法があるのか知らないが。
ん??そうか!踏まないように浮けばいいのか!




