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ヘンタイはタイヘンだ  作者: 窓井来足
第五章
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第五章 その2

前回、敵のアジトに侵入する準備をした夕輝達でしたが。

そこに待ち受けるのは果たして……。

 さて、研究所までの道中で観基が語ったこれから俺達が行う作戦。それは。

 研究所の入り口から侵入し、ドクター宇焚を倒し、奥の部屋に入り、ボスを倒す。

 というそれだけだった。


 そんなんでいいのかよ! と、思ったが。

 何でも変態どものボスはドクター宇焚の助言により「犯罪臭い変態」は追い払っており、そのため組織には現在、既に片付いている亜犯、偉止の他には宇焚とボスしかいないらしい。

 なので、他の見張りなどに気をつける必要性はないのだという。


 また、研究所は入り口が厳重にロックされている以外は特にトラップなども仕掛けられていないということなので、侵入についても特に警戒する必要性はないらしい。

 しかも、その厳重なロックについては、観基が亜犯に、


「研究所の中を見学したい」


 と頼んだところ。

 亜犯は、


「私は組織を裏切るつもりはない……が、観基さんが研究所の内部を見学したいというならば、その頼みを無下にはできない!」


 などと言って、ロック解除に必要なカードキー三枚、鍵二本、十六桁の暗証番号三種類の書いてあるメモを全て観基に与えたため、別に「鍵破り」のような技術がなくても開けられるようになっているのだった。


 厳重なロックがあっても、あんなのにキーや番号の管理を任せたら無意味だ……と、思いながら研究所に到着すると、何と入り口のドアの横の壁に大穴が開いていた。

 この穴と似たようなものをついさっき事務所で見た気がする……亜犯も亜犯なら、偉止も偉止というところだろう。


 よくこんなヤツらをまとめていられたなあ。それだけ変態扱いされたヤツらの結束というのは強いのだろうか?

 そう思いながら、俺は観基と共に大穴から研究所内部に入る。

 すると研究所に入って最初の部屋に、予想通りというべきか、不審者が待ち伏せしていた。


 彼が本日、何人目の不審者になるのか。そもそも、どこからが不審者でどこからが普通なのか、もう考えるのも面倒臭いような状況だが、それでも不審者が出てきた以上は今までと同様に容姿を説明しておくと。


 おそらくドクター宇焚である彼は、その「ドクター」という肩書きのイメージ通り白衣を着ていた。まあ、そこまでは特に不審ではない。

 だが、問題は白衣以外の部分だった。


 まず、彼は白衣の下に「顔の部分だけ露出した全身タイツ」のようなものを着ていた。しかもその全身タイツは派手な色の斑模様だった。

 次に頭部。おでこには何故か水泳用のゴーグルが装着されていて、口元は風邪などの時につけるマスク(立体タイプ)をつけている。マスクに関してはまあ、これも「ドクターだから」かもしれないが、ゴーグルは明らかにおかしいだろう。

 他に全身に身につけているものを挙げるとするなら、首にはマフラー、腰には大きなバックルのベルト、足元はヒールの高いブーツ。そして、更に腕や指には腕輪や指輪がいくつかついている。


 偉止の時と同様、一目見ればわかる。こいつも恐るべき強敵だ。

 奇妙さと怪しさのせいで、俺が戦意を喪失しかねないという意味で。


「ふむ、ぬしらがここに来たと言うことは亜犯と偉止は倒されてしまったようじゃな。ワシが目覚めさせた能力を持つ者たち破るとは……ただ者ではないのう」


 俺たちに向かってそう語りかけている、若々しい声なのに、何故かフィクションに出てくる年寄りみたいなしゃべり方をしている怪しい人物は、その発言内容からしてやはりドクター宇焚のようだ。


 そしてどうやら、宇焚は俺たちが亜犯と偉止を倒したと誤解しているようだった。


 実際のところ俺たちは亜犯と偉止を倒していない。いや、それどころか結局彼らの能力を破る方法さえ思いついていのだが。

 まあ、「仲間から救援要請が来て、それに応じた仲間も帰ってこないという状況で、何者かが本部に乗り込んできた」というこの展開だけをみれば、「仲間二人は倒された」と思い込むのが普通か。


 というか。

 俺の今回の活躍を小説にするとして、その場合に、敵幹部を一人も倒さずにアジトに乗り込むという展開で果たして読者は許してくれるのだろうか?

 あれだけ冒頭で「ヒーロー」だの「正義の味方」だのといってしまい、しかもその後に能力者同士の斬り合いまで行われているので、読んだ人たちは「この作品はアクションを売りにしているのだな」と思い込んでしまう可能性が高い。

 そうなると、やはり俺がカッコよく活躍する場面がないと読者の期待を裏切ってしまうんじゃないだろうか?


 ……よし、ここら辺でカッコよく戦っておくとするか。

 能力は使えないけど。


 そう思ったので、俺はとりあえず、


「そう、俺たちはただ者ではない!! 俺はこの街を守る正義の味方!! 緋暮(ひぐれ)夕輝(ゆうき)だッ!!」


 とポージングを決めながら名乗り、続けて、


「今から貴様を成敗してくれる!!」


 と宣言した。

 のだが、すぐ観基に、


「夕輝、成敗って。まずは事情を説明してからだよ」


 と指摘されてしまった。

 まあ、そうなるか。


 というわけで、俺たちはドクター宇焚に本日三度目になる釉美さんの件に関しての事情説明をする。読者視点だと事情説明の場面は四度目になるので、前と同様、当然ここのところについての描写はすっ飛ばさせてもらうことにしよう。


 さて。

 宇焚は俺たちの言うことを黙って全て聞いた後。


「……ワシに説明をしたということは、亜犯や偉止にも似たような説明をしたのであろう? ならば当然、ワシがボスを裏切らないことぐらいは予想できるのではないかな?」


 と訊ねてきた。


「確かに、あなたがボスに研究費の援助をしてもらっていることは聞いているけど……」


 と観基が言うと、宇焚は、


「その通りじゃ。ボスは誰も認めてくれなかったワシと偉止のことを認め、研究の為の物資も提供してくれているのじゃ」


 と答える。


「認めてくれなかった?」


「そうじゃ。ちょっとばかりワシの過去について語ろうかのう」


 宇焚のその提案に、俺と観基は「どうぞ」と答える。


 これは前回の偉止のとき同様、相手を説得したり、あるいは弱点を見つけたりするために彼の話を聞きたいというのもあるが。

 急いでいる釉美さんには悪いけど、流石にまったく事情を知らない相手と戦っておいて正義の味方を名乗るのワケにはいかないというのもある。


 いや、決して妙な好奇心から彼の過去について知りたいとか、そういうことではないということだ。

 無論「今回の事件が物語になった時に、何故俺と敵対しているのか、ワケのわからないヤツが一人だけいたりしたらおかしい」とか、そういう考えがあってのことでもない。

 俺たちから自身の過去について語る許可を得た宇焚は、何故か俺たちに背中を向け、右手を腰に当て、顔を天井の隅を見つめるような位置に向けながら、


「ワシは常人より高い計算能力をもって生まれたため、幼い頃から世間とは隔離された研究施設の中で育ったのじゃ……」


 と語り始め、そしてついでのように、


「あ。ちなみに、ワシの言葉遣いが世間の人のと違うのもその為じゃ」


 とも続けた。

 このつけ加えた部分に何か意味があるのかはよくわからない。


 が、強いて言うなら単に「天才である」とか「周囲から隔離されて育つ」というだけでも世間一般の価値観からずれてしまうのに、それに加えて「隔離された先が妙なところだった」ために更に一層、普通の価値観とはずれてしまったということ……を言っておきたいのかもしれない。

 いや、特に深い考えはないのかもしれないけど。単に「変な喋り方とつっこみを受けないため」ぐらいの意味かもしれないし。


 宇焚はさっきのポーズから今度はやや屈んで、右膝に左肘を乗せて頬杖をつくポーズに姿勢を変えながら、


「そんなワシの唯一の楽しみは、テレビでヒーロー番組を見ることじゃった。あれを見てワシは普通の世界というものや、人々を護るために闘うということの素晴らしさに目覚めたのじゃ」


 と話を続ける。


 この宇焚とかいうヤツ。ヒーロー番組が好きで人々を護るために闘うことを素晴らしいと考えているらしい。それに関しては俺も似たようなものなので理解できる。

 だが、ヒーロー番組の世界を「普通の世界」と認識してしまったのはどうなのだろうか? 特異な環境にいたから仕方がないとはいえ、世間に出てきてからは苦労してしまうような……


 いや。

 現に今こうして、「正義の味方vs悪の科学者」みたいな展開を繰り広げているということは、彼にとってヒーロー番組みたいな世界が「普通の世界」なのかもしれない。勿論、彼から見れば今の状況は「正義の科学者vs悪の侵入者」なのだろうけれど。


 まあ、ともかく。

 ヒーロー好きというなら、それを共通の話題として説得できるかもしれない。

 そう思ったので俺は、


「宇焚、実は俺もヒーローが好きで……」


 と声をかけてみたのだが、宇焚は俺の呼びかけを完全に無視して、両手を腰に当て、足を交差させて立つというポーズに姿勢を変えながら、


「さて、大人になったワシは、いくら優れた頭脳を持っていようが、周囲に様々な情報があろうが、実際の社会に出て行かなければ正しいことは学べないと思い研究所を脱出したのじゃ」


 と、話を先に進めた。


 ううむ。

 実社会に出なければ正しい事を学ぶのは難しいと判断したのは流石天才、賢いといいたいところなのだが、ならば他人の話に耳を傾けることも学ぶべきなような気がする。


 が、この手の周囲と違うような価値観を持っていたり、特殊な環境で育った人間には自身のことを最初から最後まで説明しきらないと気が済まないという癖のようなものがあることも多い。

 俺もこの仕事を始めてから、観基も含めてそういう人間に何度か会っているのでその辺りは考慮できる。


……観基が何か言いたそうな目でこっちを見ているので、無論、俺自身もそういう特異な価値観故に自分を説明しないと気が済まない人間の類だとはここでいっておこう。


「そして、子どもの頃に憧れた理想の〈正義の人〉を目指そうと考えた」


 宇焚は話を更に進めながら今度は妙なポーズを取るだけではなく、懐から取り出したリモコンを使って研究室の装置を操作。

 すると壁に掛かっていたスクリーンに宇焚が着ている奇妙なコスチュームについて詳細なデータが映し出された。


「見よ! このコスチュームにはこのデータを見ればわかるように素晴らしき崇高な思想が込められておるのじゃ!」


 そういって胸を張る宇焚。

 だが、そういわれても俺には何がどうなったら崇高な思想とあのコスチュームが結びつくのか、さっぱりだった。


 そもそもスクリーンに映されている数式は何を表わしているのかとか、書かれている外国語は何語なのかということさえ俺にはわからないのだ。これでは、コスチュームのどこに何が反映されているのか、わかるはずもない。

 ちなみに、俺よりは遙かに賢い観基も、


「あれは多分ラテン語かな……あれはリーマンゼータ関数に関係がある数式だと思うけど……でも、何が何だかさっぱりわからない……」


 と理解できていないようだった。


 だが、俺たちの様子にまるで関心のないのか、あるいは「凡人には理解できまい」ぐらいに思っているのか、宇焚は右手で天を指さし、左手を手首を腰に当てるような感じに配置し、両脚を内股気味にするというまたしても奇妙なポーズを取りながら、


「この見事なコスチューム! これぞ誰が見てもわかる正義の証し!」


 などと叫ぶ。

 そして俺が「いや、わからねぇよ」とつっこみを入れる間も与えず。


「しかし、ワシがこの服装を着て街の防犯に努めていたのを世の中の連中は……」


 とさっきまでとは別の低い感じの口調で喋りながら、こちらをゆっくり振り向き、丁度こちらと目の合うところまで振り向いたタイミングで。


「〈不審者〉として扱ったのじゃ!」


 などと再び叫びながら、俺たちの方を指さすようなポーズを取った。


 むうう。

 人の話を聞かないところや、自分が優秀であることを誇っているところ、そしてそのファッションセンスはともかく。

 ヒーローのような格好をしていたら不審者扱いされたところや、無駄にポーズを取る辺り、この宇焚とかいうヤツ、どうも他人の気がしないというか、同じヒーロー好きとしては放っておけないというか。

 それに防犯をしていたら不審者扱いされたという点では、ある意味、現在の観基の立場とも被っているし、その点でも人ごとではないというか……


 よし。

 やはりこいつは何とか説得して……

 あれ?

 俺が気がついた時。宇焚の姿は研究室のどこにも見あたらなかった。

 だが。


「そんなワシが同じように人々から認められずに困っていた偉止を友として正義の活動を続けていたところ、それを認めてくれた上に、研究の支援もしてくれたのがボスだったのじゃ。これは当然裏切れないじゃろう?」


 という声は部屋の中から聞こえた。

 スピーカーとか、そういうものからの声ではない。

 そもそも、部屋の中にはそんなものは見あたらない。ということは、どうやら。


「これが宇焚の能力かッ!?」


 ということなのだろう。

 宇焚は俺の言葉に。


「その通りじゃ。これがワシの能力〈超気配〉じゃ」


 と返答。


 今までの経験から彼の能力の変な名前や、自分で能力について説明してしまうところにはもうあまり驚かない。というより、彼らには今まで自身のことが世間には認められなかったためか、自分の力について自慢をするために説明したがる癖がある気がする。


 特にこの宇焚は自分を優れていると思い込んでいるようなところがあるので、能力を明かしても余裕だとか思っていそうな雰囲気がある。

 よし、今回はこの癖を利用させてもらうとしよう。


(続く)

さて、おそらくは異能力によって姿を消した宇焚。

その〈超気配〉なる能力は、いかなるものなのか……。

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