第25話 学食問題を解決せよ!
翔はカナに電話する。
『カナ』
『翔?どしたの?』
『大至急、生徒会室まで来てくれ』
『え?!ちょっと今、書類作業が…』
カナも暇ではない。クラス委員長の上に寮長だからだ。
『生徒会副会長として言ってる』
『え!?わ…わかったわ!!』
電話を切る翔。
「権限は使いようだな!」
満足気に頷く。
「流石、翔…抜かり無いわね…」
ハルカは思わず苦笑いする。しばらくして、カナが生徒会室へ駆け込んで来た。
「遅れてごめんね!」
「とりあえず座ってくれ」
翔がソファへ誘う。
「う…うん」
「実は、学園の学食に関する問題があってだな……」
事の次第を話した。
「それで私はどうすれば…?」
事情は理解できたが、何をすれば良いか分からない。
「カナの両親に、新規にオープンさせる料理屋兼仕出し弁当屋のオーナーシェフになって貰いたい。
「ええっ!?」
カナも流石に驚く。
「いやいや…それはどうなんですか!?」
ヒビキが待ったを掛ける。一般生徒の両親に任せていい仕事ではない。
「よし、ヒビキ。とりあえずカナの料理食ってみろ」
「え?」
キョトンとするヒビキ。
「カナ、キッチンで軽食作ってきてくれ」
カナに指示する翔。キョトンとしているヒビキを思い切り驚かせる算段だ。
「わ…わかったわ!」
未だに話の全貌を掴み切れていないが、直ぐにキッチンへ向かった。
10分程でカナが戻って来る。
「お待ちどうさまっ、ヒビキっ」
作ったのはサンドイッチだ。軽食にピッタリの品である。
「ありがとう。じゃあ、頂きます」
見た目は普通のサンドイッチ。ゆっくり頬張った。その瞬間、
(!?ナニコレ!?)
ヒビキの頭脳に電撃が奔る。人間は感覚を電気信号で伝えるが、それがあたかも激烈に強化されたかのようだ。
(旨い…!!!)
感覚を超えて、最早本能がそう訴えている。旨いという概念を100%具現化しているとさえ思えてくる。手が止まらず、夢中で完食した。
「どうだ?」
翔がニヤっと笑いながら問う。愚問だが敢えて答えさせる。口にする事でよりハッキリ自覚出来るからだ。
「…色々言葉に迷うんですが…いえ、余計な飾り文句はかえって失礼。ストレートに旨いです!!」
満面の笑みで即答。
「だろ?カナはこの腕前を両親から仕込まれたそうだぜ。もう言いたい事は分かるよな?」
「はい!!イケますよ!コレ!!」
疑う余地など微塵もない。
「とりあえず、明日が休日だしカナの家に行くとして、ハルカも来てくれ」
副会長だけで行くのは少々格好悪い。第一、失礼だ。
「分かったわ。私と翔が留守の間、よろしくね」
休日でも生徒会には仕事が舞い込む事がある。誰もいないという事態は避けねばならない。
「分かりました!」
ヒビキが威勢よく返事する。旨いものを食べたおかげか、超元気だ。
翌日、翔はカナ、ハルカと待ち合わせる。
「さてと…集まったし行くか」
「そういえば、どうやって行くの?」
ハルカが交通手段を尋ねる。
「私の家近いし歩く?」
カナは徒歩通学だ。
「そりゃ歩ける距離だから歩くさ。」
3人はカナの家へ向かった。
カナの自宅はごく普通の一戸建てだ。貧乏ではないが、金持ちでもない。まさに普通の一般家庭である。カナがインターホンを鳴らす。
ガチャッ
ドアが開き、カナの母親が出てきた。
「あら、カナ。おかえりなさい。そちらの方は?」
見たところ、同じ学校の学生のようだが見知らぬ顔だ。
「こっちは樟葉翔君。私のクラスメイトで生徒会副会長。こちらは、生徒会長の皇ハルカさん。」
母親に紹介する。
「こ…これは…すみません、生徒会長さんと副会長さん!私、橘カナの母、春子です…!」
緊張気味に挨拶する。生徒会は学園の運営組織でもある。また、保護者の前に姿を見せる事は基本ない。保護者会などは全て教師が行うためだ。しかも、会長は皇家の娘である。一般人が会うことなど基本ない。また、樟葉翔は生徒会長にスカウトされて編入したという。そんな生徒が只者であるはずがない。春子は緊張からかカチコチだ。
「春子さん、あまりお気になさらずに…」
見かねたハルカが声を掛ける。
「そうですよー。それに俺らはカナのご両親にお願いしたい事があって来たんです」
翔もフォローする。
「そ…そうですか…とりあえず、お上がりください…!」
リビングへ通される。
「綺麗だな」
部屋が綺麗に掃除されている。思わず感心するほどだ。翔は部屋の掃除にはどちらかといえば疎い。物を増やさない事でごまかしている。
「ありがとねっ」
カナが微笑んだ。自分の好きな人を自宅に連れてこれただけでも嬉しい。
(2人きりがよかったなぁ…)
心の中では残念がっていた。しかし、仕事は仕事なので仕方がない。
「これはこれは…ようこそおいで下さいました…!橘カナの父親、一朗です!」
一朗が挨拶する。やはり緊張気味だ。
「では早速本題なのですが…」
ハルカが話を始める。その後、翔も交えて仕事依頼の話をした。
「なるほど…」
一朗が考え込む。
「悪くない話だとは思うんですよ」
翔としては完璧なビジネスプランだ。
「ですが私なんかの腕がそんなに通用するものでしょうか…?」
自信が沸かない。今まで、プロの料理人として活動した事はない。趣味として料理を続けて来ただけだ。
「じゃあ、一品作ってみて下さいよ。俺とハルカで食ってみるんで」
ごちゃごちゃ言うより、食べたほうが早い。
「分かりました。」
真剣な趣でキッチンに向かう一朗。春子はサポートに入った。
「へぇ…?一朗さんが洋食、春子さんが和食って聞いてたが、サポートもするんだな」
キッチンの方へ目をやりながら翔が呟く。
「お父さんとお母さんはお互いのサポートもしてるからねー。私の家じゃこれが普通だったよっ」
カナが付け加える。
「私の家は…料理人を雇っているわね…」
さすが皇家。一般人とは次元が異なる。また、親が忙しい為、料理などできないという現実的な問題もあった。
「俺の家は母さんが作ってたな。まぁ…中学以降はずっと自分で作るか買うかしてきたが」
翔はあまり深く考えずに、過去を語った。しかし、空気が重くなる。
「両親がいるって幸せ、だよね…」
カナが俯きながら返す。
「まあ…幸せではあると思うのだけど…カナちゃんのご家庭の距離感が一番幸せな気がするわ…私は、親にも敬語で接するし、お父様もお母様も私へは娘というよりは皇の者に対する接し方だから…愛情とかそういうものはないわ。皇家の名を途絶えさない事。そして新しい世代へ繋ぐ事。特に私はアストレアだから、余計敏感なんだと思う…」
ハルカの表情は曇っていた。いくら、お金持ちで裕福と言っても、その場に在る者でなければ分からない、感じない悩みがある。普段はこんな話をしないが、カナの自宅の温かみに触れて、つい吐露してしまった。
「お父さんもお母さんも仲良しだから、会長の家ってどんなに大変か想像つかないです…」
カナの感覚からすれば浮世離れし過ぎている。しかし、一般人は大抵そうだ。
「ま、俺は親が居ないから、さーっぱり分からんな。居たら居たで変わったかもしれねーけど。親が死んでからは金の亡者になってたし俺。」
生き抜くのに必死だった。真剣に明日の食事を心配していた。
「おまちどうさま!」
3人のどんよりした暗い雰囲気を一気に明るくさせるかのような、元気な声で一朗が戻って来た。食卓に料理を並べる。
「…やべぇ…ヨダレが…」
いい匂いにジュルリと言わせる翔。
「…すでにね?家の料理人よか上だって分かるくらいいい匂いね…」
ハルカの猫耳と尻尾がブンブンいってる。旨いものの前に上品さもへったくれもない。
(食べたい!)
本能が叫ぶ。
「あ、お父さんのオムライスだ♪」
カナとしてはいつも通りのノリだ。何せ、橘家では父親も母親も毎日キッチンへ立ち、何か作る。
3人が席へ着く。
「「「頂きます!」」」
ゆっくり食べ始める。
「…なぁ…」
翔が若干、半泣きで口を開く。
「どうしたの?翔…」
(まさか口に合わなかったのかな…)
カナが心配する。
「…俺もう死んでもいい…!」
満面の笑みで叫ぶ。旨過ぎて何といえばいいか分からない。
「…私、本家の食事会ブッチしたい…」
お嬢様らしからぬ言葉遣いでハルカも口を開く。
「どうでしょうか…?割とオムライスは得意なんですが…」
一朗が尋ねる。作った側としては意見を聞きたい。
「一朗さん…旨過ぎて、旨いとしか言えないです!ありがとうございます!俺、このオムライスに100万出しても安いって言えますよ!」
つい癖で金銭単位が出てしまうが、それ位に旨い。
「皇の者とか生徒会長とかどうでもいいです…そんなの全部捨ててでもこれを頂けるなら私は…とても幸せ…ですにゃ…♪」
人前で猫声は出さないはずのハルカがこれ以上ない萌え笑顔で感想を述べた。
「あ…ありがとうございます!!!」
一朗が頭を下げる。
「あなた、良かったわね!」
春子が抱き着く。2人はこれほどの腕でありながら、誰かに認められるのは初めてなのだ。
「ぜひ…報酬はお望みの額をお支払いします。皇の者として、生徒会長として、橘一朗シェフと橘春子シェフに学園にお越し願いたいですわ…!」
皇の者は、世の評価がどうあれ、自分たちが認めた者にしかシェフとは言わない。ハルカはまさに気品漂う振る舞いと言葉遣いで頭を下げてお願いした。
「俺からも頼みます!CTF銀行には無利息で融資しろってどやしとくんで!開業後のサポートもコンサルタントもこちらで提供します!旨い飯は幸せを創りだせるんだ!おふたりには、普通の人間に出来ない事を出来るんです!もし、何か問題があればどんな問題でも言って下さい!全力で解決サポートします!」
翔が滅多に下げない頭を下げる。人とあまり関わってこなかった為、下げる事にいつしか抵抗を感じていたが、今回は素直に、実直な心で頭を下げる。目の前の2人を本気で尊敬し、敬意を払う。
「ねえ、いつだったか、お父さんとお母さん、2人で料理屋やれたらなって言ってなかったっけっ」
カナがにっこり笑って問いかける。
「ああ…言ってたなぁー…でも、俺の腕じゃ通用しないだろって思ってたし…」
「自信が沸かないのもあるし…やっぱり今のご時世、サラリーマンしてくれる方が収入が安定してると思うの…カナをちゃんと学校卒業させて、立派な大人に育てるのが親の一番大切な仕事だもの…」
親として、何も間違ってなどいない。子供を立派に育てあげる為に我慢もする。カナを愛しているからこその本音だ。その言葉に翔もハルカも、
(親って…ここまで子を愛せるんだな…俺の親が生きてたらこうだったんだろうか)
(…カナちゃんの御両親は…御立派…とても誠実で真面目に生きてこられたのね…)
感慨深いものがあった。
「事情は分かりました。でも俺は、人生一度は夢に向かって猪突猛進するのも悪くないと思うんです。でも、それに関するリスクが怖いのも重々承知しています。ですので、俺らがお手伝いしますよ…!」
翔が胸を張る。
「私も、全力で手助けします!ですから、少し、お付き合い下さいな♪」
ハルカも笑顔だ。
「お言葉はすごく嬉しいのですけど…正直、私や旦那の腕は通用しますか…?」
春子が恐る恐る尋ねた。
「皇の娘が美味しいって言ってる時点で既に一流ですよ!ただ、もう少しご自分の腕のレベルがどの位かを知っていただこうと思って、少し企画を用意しています。」
翔が楽しそうに話す。実際、本心から楽しんでいた。
「あれ程の腕で自信がないとおっしゃるのがにわかに信じられません…何か事情がおありのようですが…」
ハルカが少し申し訳なさげに尋ねる。しかし、解決すべき課題でもある。
「…私は、ガキの頃から料理が好きでした。ずっと趣味で続けてたんです。だから前は自信もありました。でも、カナが中学の時に、ホームパーティを開いて友達やその親が集まった事がありました。私は腕によりを掛けて、料理を出したんですが…」
一朗が悲しげな顔をする。
「旦那の料理はいつもより美味しかった…私は味見でそれを確信したんです。でも、後日ママ友のメールで教えられたのですが、橘さんの家の料理マズ過ぎる、などと言われていたらしく…カナもクラスで虐めを受けてしまって…親として申し訳なくて…」
あれだけ誠実な両親にとっては辛い出来事だった。愛する娘を自分の趣味で傷つける事になってしまった事はトラウマになった。
「なるほど…」
翔はこのトラウマを負担なく克服して貰えるようにアイデアを絞る。
「私と旦那はお互いの料理の腕に惚れて結婚しましたから…私も料理が趣味だったので…」
春子が辛そうに続けた。このような事情からトラウマはより深いものとなってしまった。
「さぞ辛かったと思います…思い出させてしまってごめんなさい。でも、だからこそ、おふたりに少しお付き合いして頂きたい場所があります。」
ハルカが真剣な表情で語る。カナの両親を救う為に、最高の舞台を用意していた。




