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第24話 生徒会の日常


CATとの一件が解決して以降、学園も平穏を取り戻していた。授業も通常通り行なわれている。生徒会活動もまた然りだ。翔は副会長なのでハルカと共に重要な仕事を片付けている。


「なぁ、ハルカ」


「どうしたの?」


「資金繰りどうなってる?」


学園の赤字を改善すべく、FXで稼いでいた翔としては現状の経営状況を把握したい。


「融資の返済を考えなければ、黒字化してるわ。というか凄まじい稼ぎのおかげで日に日に改善してるのよ」


圧倒的な収入増加になっていた。


「ならいいんだが、やっぱりペーパレス化したい!!」


細かい案件にも書類、しかも副会長や会長の判決が必要。これには翔も参っていた。紙の無駄遣いな上に紙代が相変わらず大きな負担になっている。


「気持ちは分かるわ…書類が多すぎて猫の手も借りたい位よ…」


「アストレアがそれ言っていいのか…?」


「ダメかにゃ?」


「猫声で誤魔化すな…」


他愛ない会話ではあるが、ハルカとしても本気で現状の仕事量には参っている。


「でも、先生方の都合もあるし…」


「全く…教師ってのは保守的だから困る。ま、やるとなったら一切考慮せずに導入するが」


「それはちょっとマズイでしょ…?」


再び教師の反発を招くような事は避けたい。


「いや、文句ある奴はクビにして、足りない分は採用すりゃ良いだろ?何も全員が反発するとは言ってないしな」


何気に恐ろしい事をサラッと言う。


「中途採用で先生集まるの…?」


「そりゃな。特にシャ・ノワールなら確実に来る」


そう断言出来るだけの自信がある。


「ど…どうして?」


「ハルカ。猫耳&尻尾の生徒ばかりの学校だぞ?可愛いを求める奴からすれば天国だぞ?」


力説する翔。物凄く真剣である。


「な…なるほど…?」


「良いか?可愛いは正義だ!人間は可愛いの為に命懸けるんだぜ?」


「う…うん…」


(翔…とても真剣ね…)


普段あまり見られない翔の姿。


「だから人材確保には困らないさ」


「…分かったわ…でもペーパーレス化って具体的にどうするの?」


肝心な部分を聞いておく。ある程度は先んじて知っておく事は会長として当然だ。


「まず、連絡はファックスではなくメールに置き換えだ。さらに、あらゆる書類は電子化し、タブレット端末で決裁する。電子ペンでサインすればいい。」


「何だか、近未来的ね!」


ハルカが両手を合わせて、期待を込める。翔の考える事はいつも新鮮さがあり、それをある意味楽しみにしていた。


「IT企業なら当たり前だぞ…?むしろ、日本が遅れてるだけだ。ただ、タブレット端末やサーバー、パソコンを纏めて導入するからどうしても初期投資が大きいがな」


「現状じゃ厳しいわね…」


黒字化といっても融資返済を考えれば赤字だ。キャッシュフローなど無いに等しい。


「仕方ないな。FXをもっと真剣にやれば稼げるんだが、どうする?」


「真剣ってどれ位?」


「24時間はりつく。」


「ダメ…!!」


論外だ。ただでさえ、翔は体力が無いのにそんな無茶をして倒れられでもしたらたまったものではない。生徒会長として認める訳にはいかない。


「ま…そうだろうな…」


翔もそう言われるのは予想していたので、大して驚く事もしない。


「そういえば、空き地にもう建設業者が出入りしてるわよね?」


「そりゃな?CTF銀行の支店建設が決まってる訳だし。」


「これで賃料も入るわねっ」


賃貸収入は安定継続収入だ。学園の経営面において大助かりする。


「待てよ…!?」


翔が何かを閃いたようだ。


「どうしたの?」


「学園は銀行に返済しなきゃいけないが、銀行は学園に賃料を払う訳だ。という事は、調整次第では差し引き0になるな」


「あっ…!」


盲点だった。2人とも失念していた。


「俺とした事が何故気付かなかった…」


翔が机に両手をついて肩を落とす。金の扱いに関して自信があっただけに悔しい。


「まあまあ、最近色々あったし、翔も見落とす事位あるって…」


ハルカが慰める。


「とりあえず電話する…」


肩を落としながらスマホで電話を掛ける。


『もしもし?』


『樟葉君?どうしたんだい?』


『支店の件なんだが、賃料と学園の融資返済でどうにか差し引き0に出来ないか?』


早速、くだんの件について話す。


『なるほど。ただ利息分がどうしようも無いね…』


賃料は一定だが、利息は時間が経てば増える。チャラには出来ない。


『そりゃそうだ。じゃあ利息分だけを支払うってのは?』


利息は銀行にとって稼ぎになる部分だ。翔もそれを分かっているので直ぐに妥協案を出す。


『それなら構わないよ。』


宮日も承諾する。賃料を払って、融資の返済をされるというのはお金が結局行って帰って来るだけで、仕事が増えるだけだ。効率化できて、デメリットも無いとなれば即、提案に乗る。


『決まりだな。詳細はメールする』


『了解だよ』


打ち合わせを済ませて電話を切る。


「いつも思うんだけど、翔って即断即決即実行よね?」


今迄、翔を見てきた感想でもある。ハルカとしては1つ気掛かりな点もあった。


「思いついたら即実行だ。金の世界はスピードが命だしな?」


「でもミスしたらどうするの?」


「もちろん、ミスは起こり得る。というか隣り合わせだ。だからこそバックアップを考えたり、リスクマネジメントは徹底して行わなければならない。それを含めてスピードが命って事。」


「お金の世界って厳しいのね…」


改めて、翔の立つ世界の厳しさを噛み締める。皇の家ではお金の心配など不要だった為、大して興味を持って来なかった。しかし、そんな自分が恥ずかしいと感じる。


「金ってのは、麻薬みたいな中毒性があると思うんだ。人間は金の魔力に取り憑かれると、マジで何し出すか分からん。時には犯罪だって犯す。かといって、忌避してては生きていけない。生活するには金が必須だ。俺は金を稼ぐのは好きだし、今もかなり貯金はある。でもこの俺でさえ、稼いで良いのかって思うことがあるな。」


そう語る翔の表情は神妙だ。


「私は…お金を稼ぐのはダメじゃないと思うの。ただ、誰かを幸せに出来たら素敵だなって」


ハルカなりの持論を展開する。


「金の現実を知らない奴ほどそう言うけど、そんな甘くもないぞ。金を稼げば誰かが損するんだ。特にFXはそれが顕著に現れる。通貨は無限にある訳じゃないしな。まぁ…ジレンマなんだよ。だからこそ、適切な距離感を保たないと狂っちまう」


その言葉もまた神妙な表情で語る。現実を知り、その中で生き残っている者にしか言えないセリフだ。


「確かにね。でもさ、少し位は夢を見て理想を追いかけても良いんじゃない?私は、現実ばっかり見てても胸が苦しいだけだと思う…」


ハルカもまた皇の者として、名家というものの現実を知っていた。だからこそ、夢や理想を捨てたくはなかった。生徒会長になり、アストレアの幸せを勝ち取るという目標はハルカにとって追いかけ甲斐のある夢なのだ。


「お互い、目を背けたいものがあるって事だな…でも、だからこそ学園生活を楽しめるのかもな?」


「そうねー…」


猫耳と尻尾が哀しみを表していたが、詳細は敢えて何も言わない。ハルカも翔が哀愁を漂わせていた事に何も言わなかった。



「失礼します。会長。」


ヒビキが入って来た。


「あら、ヒビキちゃん。どうしたの?」


「それが…学食を再開して欲しいという嘆願が増えていまして…」


困った顔つきで書類の束を差し出す。それの処理に疲れたのか、ヒビキの猫耳と尻尾はへたり切っていた。


「でもねぇ…学食の利用率低迷は数字で現れているし…」


使われもしない施設を稼働させるなど、無駄の極致だ。そんな余裕は無い。


「…そう思っていたんですが、実は同時に学食の質を改善しろという嘆願書もこんなに…」


もう1つ束を差し出す。どちらもほぼ同じ量だ。


「要するに、質を上げて学食を再開しろって訳ね…」


「そうなんです…」


消費者とは我儘なものだ。質が下がれば見向きもしないくせに、必要になれば質をあげて再開せよなどと無茶を言う。


「でも、何でそんなに嘆願が出るのかしら…?」


問題解決には原因の特定。基本だ。


「現状、アンケートによると大半の生徒が弁当持参です。その他はコンビニ利用です。弁当持参の生徒の多数から、弁当を作る時間が捻出出来ないという声が上がっています。また、保護者も仕事などで時間がないと言ったケースや兄弟が多くて時間がないという苦情も多いですね」


極めて現実的な問題だ。消費者は我儘と言えど、家庭の事情や保護者の苦情が来ているともなると生徒会として放置しておく訳にもいかなくなる。


「コンビニも供給量には限界あるわよね…」


学園生徒全員分の弁当をコンビニ1軒で賄うなど、現実的ではない。


「私ではとても解決出来ないので、会長の判断を…」


ヒビキは間違っていない。組織において、対処に困ったら上司の指示を仰ぐ。至極真っ当だ。ただ、今回はハルカでさえどうしたものか悩む。


「ねぇー翔ー」


甘える声でハルカが話し掛ける。


「…あざといぞ。後、話は聞いてた。食堂問題だろ…?」


「そうそう!私じゃ手に負えないし…ねっ?」


頼る気満々だ。甘えてはいるが、自分に解決出来ない問題を解決出来そうな人間に委ねるのも組織においては重要だ。その意味ではハルカの判断は間違っていない。だから翔は話に乗る。


「まず、学園の食堂を再開した場合の問題は?」


ディスカッション方式で議論する翔。一存で行ってしまうと問題が起きるリスクがあるからだ。


「マズイから人が来ないわよね…」


ハルカが答える。


「そこは本質的な問題じゃ無いぜ?業者変えれば済む。」


「収益効率が悪い事、ではないですか?社長」


ヒビキが眼鏡を指で押し上げながら答える。割と自信があった。


「いいセンスだな。その通り。学食は文字通り学生の為にある。つまり、営業はお昼休みになる。しかし、学生相手だと安くせざるを得ない上に見込める客入りは在校生数になる。いくら美味しくしてもこれでは収益効率が悪い。」


「でも、大学とかの学食って一般の人も使えるわよね?」


ハルカが思い出したように指摘する。確かに大学では構内の出入りが自由で、学食が半ばレストランという場合も多い。


「確かにそうだが…格安料金で一般人を受け入れてもやはり収益効率が悪い。学園の財政はそれ程厳しいんだ。」


「では学生料金と一般料金を設定するというのは?」


ヒビキが提案する。


「学園が公共施設である以上は学食も同じよ…利用者によって区別したら差別って批判が出かねないわ。」


民間企業なら出来なくも無いだろう。だが、学園とは公共施設だ。公共性を保つという事は誰にでも平等という事でもある。ハルカは生徒会長として、その案を受け入れる事は出来無い。


「なら、空地にレストランを建設し、そこに一般メニューと学生メニューを設定するか?」


両者の意見を融合させる案を出す翔。しかも誘致ならば学園側に建設費は掛からない。現状、最も整合性のある案のように思われた。


「それでも、一般客と学園生が混じると混乱するでしょうし、学園生を収容し切る大レストランを作っても、平日昼間にしか埋まらない様なら無駄が多いですよね…」


飲食店で働くヒビキならではの現場目線的な指摘だ。飲食店とは席の回転数が利益に直結する。人気店の中には回転数を上げる為に時間制を導入する店もある。要するに客がどんどん入れ替わる事が重要だ。だが、それ以前に店に閑古鳥が鳴いているようでは話にならない。理想は、常に満席でしかも入れ替わりが早い事だ。


「いい指摘だな。じゃあ席を減らして、満席になる確率を上げたとして、生徒へどう提供する?」


「えーとさ、本家でも忙しい時は頼むんだけど…仕出し弁当ってどうかな?」


仕出し弁当とは客の注文を受けてから作って配達する弁当だが、学園の敷地で作れば輸送コストは下げられるし、注文数も毎日一定にできる。


「なるほどな!それがいい!レストランで仕出し弁当を作ってる所はあるから、出来ない訳じゃないぞ」


「名案ですね!」


翔とヒビキも納得だ。


「ただ、仕出し弁当をやるなら、店の人の仕事量的にレストラン側で回転数が下がるかも…」


生徒数が多いだけにあり得る話だ。ハルカの懸念は現実的である。


「なら、レストランは高級志向で単価上げればいい」


「ですが社長…学園近辺はファミレスが多いですし…競争になると厳しいのでは?」


飲食店は常に熾烈な競争を繰り広げる。ヒビキも身に染みて理解していた。


「甘いぜ。価値あるものの為なら人間は惜しみなく金を使うし、手に入れる苦労を厭わない。つまり、本当に美味しければどんな立地でどんな値段であれ客は来るのさ。」


人間とカネをよく理解している翔ならではの切り返し。


「そんな腕のたつ料理人を採用したら、学園破産ですよ!?」


「ヒビキは知らなかったもんな。まぁ俺に任せろって。アテはある」


翔の頭には既に候補が浮かんでいた。


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