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第22話 決着


 翌日、翔とカナは寮へ戻った。


 「やっと戻ってこれたな」


ソファに座りながら新聞を広げる。


 「そうだね…でも、まだ終わってないよ?」


カナは軽食を作る。


 「国家権力相手に俺頑張りすぎだろー…」


新聞片手に自画自賛する翔。


 「私も、まさかこんな事になるなんて思ってなかったけどね…?」


苦笑するカナ。


 「まだ学園来てそんな経ってないはずなんだが…かなり時間が過ぎた気分だ」


 「翔が来て、学園の裏が見えて…」


カナがテーブルにつく。


 「CATなんて組織、俺も知らなかったしな。でも、ここからが始まりだろ?」


翔もテーブルについた。カナの作った素うどんに箸をつける。


 「そうだね。でも翔…」


 「ん?」


 「最近、何か悩んでるでしょ?」


 「なんでそう思うんだ?」


 「翔の最近の表情、かな。FXに集中してた時はさ…生活スタイルとかはダメだったけど、満足してた。でも、ここずっと皆が驚くような事沢山してるのに、翔はどこか浮かない顔してたし…」


カナなりに観察してきた結果だ。


 「…やっぱりバレてたか」


 「多分…会長やレイカも…ひょっとしたらシオリも同じこと考えてるんじゃないかな…」


 「俺は今まで金稼ぎだけに集中してきたし、それが好きだった。だが、学園に来て生活が様変わりして俺は今までのままでいいか悩みだしたんだ。かといって、俺にはこれといった夢もないしこれからどうするかも悩んでる。」


静かに語る翔。


 「でも、学園を守ってくれてるじゃない…?」


 「かわいいアストレアの居場所が無くなるのは困る。でも、卒業した後はどうすりゃいいんだ?」


 「それを探すの、手伝うよっ」


ニコッと笑いながらカナ。


 「ありがとな。」


 「大好きな翔の為だもんっ」


 「付き合ってる訳じゃないのにいいのか?」


 「付き合ってなきゃ、手助けしちゃダメ?」


いつもよりキレがあるカナ。


 「…今日のカナはいつもより鋭いな」


 「だってさ、好きだから手伝うし守りたくなるんだよ?」


 「ありがとな。正直、まだ悩んではいるけど立ち止まらずに行けそうだ」


 「うんっ」


朝のひと時を過ごし、2人は生徒会室へ向かった。



 「おはようー。翔と香菜ちゃん♪」


 「おはようございます。」


ハルカと執事である美鶴が挨拶する。


 「おはようございますっ」


 「おはよ。」


4人しかいない生徒会室は実に静かだ。昨日の騒動など無かったとさえ思える。


 「とりあえず、翔」


ハルカが話しかける。


 「ん?」


 「この後の会議だけど、こちらの参加者どうする…?」


実は決めていなかった。


 「そうだな。ハルカと俺、シオリで出て、他は待機で良いんじゃないか?」


 「わかったわ…にしても、ここまで大事になるなんてね…」


 「ま、こんだけ大事なのに対外的には何も起きてない事になってるけどな」


 「学園の経営は翔のおかげで立て直せそうだけど…CATとの折り合いが難しいわね…」


 「俺の計画では学園が開放する方向に行くからな。」


 「どうするの…?」


 「任せなって。」


翔には腹案があるようだ。


 「分かったわ…それにしても、銀行経由で警察庁次長に接触するなんて…」


ハルカは人脈の偉大さに改めて驚いていた。


 「金の流れは人の繋がりだからな。その金の拠点たる銀行は当然、多方面へのアクセスポートになり得るんだ。さすがに皇のお嬢様も、金の力に驚いたか?」


 「今まで、お金はお金、人は人って思ってたしね…家が家だけにお金なんて考えなくてもいい生活しちゃってたから…」


 「灯台下暗しってな。それでも皇家なら人脈もあるとは思うが?」


 「私は、この見た目のおかげで箱入り娘だったから…この学園入るまでろくに世俗を知らずに生きてたし…」


 「なるほどな。」


 「にしても…シオリちゃんがCAT候補生だなんてね。全く気づかなかったわ」


 「俺は最初から怪しいと思って調べてたよ。」


 「最初から!?」


 「あそこまでの法への忠誠心なんて普通の人間は持ち合わせてない。何となく公安のニオイがしたんでね」


 「なんていうか、翔ってやけに警察とかに敏感…?」


 「そりゃな。FXで荒稼ぎしてると、外貨も扱うし金の流れを知ってる人間はマークされうるし」


 「リスクもあるのね…」


 「金を扱う上でノンリスクなんて事はあり得ないさ」


翔は特に気にしていない。あくまで想定の範囲内である。


 「その…気をつけてね?」


 「ありがとな。ま、警察庁次長とコネができたからこれからの選択肢は増えるぜ」


 「ほんと翔はすごいな…」


 「ねぇ翔、私を忘れてない!?」


カナが割り込む。


 「すまん。どうした?」


 「いや、今日は大事な会議でしょ?」


 「そうだな。」


 「お昼、よかったら私が作るけど…どうかな?」


 「そいつはぜひ頼む!」


翔の目が輝く。


 「じゃあ材料買い出したり仕込みするね?」


 「ああ。いってらっしゃい!」


笑顔でカナを送り出した。


 

 「なあハルカ」


唐突に話しかける。


 「ふにゃ…!?なに…?」


猫耳と尻尾がビクッと反応するハルカ。


 「ハルカは将来どうするか、とか決めてるのか?」


 「私…?大学出た時にお父様の指示に従う感じかな」


 「自分で決められないのか?」


 「無理よ…アストレアだしね…お父様はアストレアだからって臆するなっておっしゃるけど…皇の名を背負ってる以上は、イメージ低下は避けないとってお母様がね」


 「大変だな」


 「仕方ないわ…」


猫耳と尻尾がしゅんと垂れる。ハルカは笑ってはいたが、哀愁が漂う。


 (俺は呑気だよなぁ…何も決まってないし)


翔もハルカの表情を見て、どこか自分が恨めしいような気がしていた。


 「さてと…そろそろ会議だな」


 「そうね…」


自分たちの将来の前に学園を救わなければならない。


 「おはようございます、会長」


シオリが入ってきた。


 「おはよう、シオリちゃん。…ってその服どうしたの?」


着ている黒いセーラー服に目が行く。


 「これがCAT候補生の制服なんですよ」


 「そうなんだ…似合ってるわね♪」


 「ありがとうございます!」


敬礼するシオリ。癖が出てしまう。


 「それただの制服じゃないよな」


翔が鋭い目つきで指摘する。


 「ほんと鋭いよね…翔は。これは特殊な繊維で出来てて防刃性能があるの」


 「防弾チョッキは?CATなら必要だろ?」


 「それはインナーや下着が防弾…って何言わせんのよ!」


 「いやいや…でも防弾範囲狭くないか?」


 「アストレアの身体能力を侮っちゃいけないわよ?」


 「なるほど、防御は機動力で補うってか」


 「そういうこと!」


 「ていうか警察庁次長が来るわけだが…」


 「そんな大物を動かす翔が怖いわよ…って何か問題でも?」


 「向こうも腹ん中で何か考えてる筈だからな…」


 「まぁ…ただ会議に出るってだけじゃ来る理由としては薄すぎるわね?」


 「そうだな。ただボーっと待ってても仕方ない。ちょっと遊びに行くか」


そう言いながら、グロック18Cを取り出す。


 「ていうか…装備品庫からくすねないでよね…」


 「固い事言うな。行くぞ」


 「どこ行くの?」


 「屋上だ」


2人は生徒会ビルの屋上へ出る。


 「屋上からどうする気?」


 「おそらく、次長は空から来る。」


 「え?なんで?」


 「そうだな、俺を試そうとしてるからだろうな」


 「…よく分かんないけど…私は何すれば?」


 「見てるだけでいいぜ」


 「え…!?」

 

 「任せろって」


 「わ…分かったわよ…」


すると1機のヘリが向かって来た。


 「あれだな」


屋上のヘリポートへ着陸する。プロペラの回転が止まると、中から人が降りてきた。


 「よぉ。CATの現役隊員さん」


 「あなたが樟葉君、ですか」


 「そうだ。そういうあんたは、掛川ミナだろ?」


 「なるほど…次長があなたを評価する理由が分かりますよ。」


 「そうかよ?で、何して遊ぶんだ?ネコさんよ」


翔が挑発する。


 「そうですね、軽く半殺しにしてあげます」


ミナが構える。


 「上等じゃんか。来いよ」


翔は特に構える風でもない。ポケットに手を突っ込んだまま、余裕の表情だ。その瞬間、


シュッ…!!


ミナの姿が消える。


 「嘘…」


その瞬間、ミナは冷汗を流した。


 「ったく…特殊部隊のメンバーならもうちょと技巧凝らすかと思ったんだけどな?」


翔がミナの背後を取ってグロックを構えていた。見ていたシオリも、


 (嘘でしょ…掛川隊員のアレを見切ったの…!?)


驚愕している。


 「樟葉君…あなたはとんだ猫かぶりですね…」


 「本職のネコさんに言われたくないな?」


 「どうやって…見切ったんですか…」


 「あんたが使ったのは縮地だろ?そんなの簡単に避けれる。漫画じゃ神速とか言うが、そこまで速くないな」


 「まさか…あなた…」


このスピードに対抗できる武術には心当たりがあった。


 「言っとくが、俺は筋トレとか修行なんざしてない」


 「嘘でしょう!?今の動きと速さは…」


 「まぁ、ジークンドーだけどな?」


 「なんの修練も積まずに出来る訳ないでしょう!?」


 「俺はFXの合間に色んな動画見てるんだが、ジークンドーとシステマは面白くて見倒したんだ。それで覚えた」


 「…!?」


その言葉にはミナだけでなくシオリも戦慄した。


 「はいは、そこまでねー」


ヘリからもう1人女性が降りてくる。


 「全く…面倒な事しやがるぜ」


翔が文句を垂れる。

 

 「樟葉君なら何とかするんだろうなぁって期待してみたのよ?」


 「よく言うぜ…俺を試したかったくせに」


 「まぁまぁ♪でもなんで、空からって読めたの?」


 「今日の会議前の時間帯にフライトプラン出してるヘリが1機あったからな。ちょっとハックして拝見した」


 「…一応、私警察官なんだけど、そんなこと言っちゃっていいの?」


 「逮捕するか?したらしたであんたの計画がおじゃんになるだろ?」


 「食えない男だねぇ…ま、会議始めましょ?」


 「ああ、案内するよ。ってシオリ、なに呆けてるんだ?行くぞ」


 「ふにゃ!?は…はいっ!」


シオリが慌てて一行に付いていった。



 会議室へ案内すると、既にハルカも着席していた。サキも自席にいる。


 「さてと、会議始めるか。先に紹介しとくぜ。こちらは警察庁次長の篁白蓮、んでこちらはCAT現隊員の掛川ミナだ。」


紹介された2人は軽くお辞儀する。


 「んじゃ、とりあえず学園の経営をどーするかなんだが、これは俺の方でCTF銀行と話をつけてある。空き地を利用して商業施設などを誘致する計画だ。」


 「ちょっと待って」


シオリが発言する。


 「どうした?」


 「学園の中に商業施設なんかできたら治安悪化するわ」


生徒の校則違反も増えるだろう。風紀委員長として見過ごせない。


 「その通り。そこで、風紀委員会として取り締まって貰おうと思う。」


 「それは名案だけど…ちょっと荷が重いでしょ…?」


ハルカが懸念を示した。


 「その通り。風紀委員会にCATのメンツが参加して取り締まればいいわけだ。」


 「でもそれは…無理でしょう」


ミナが暗い表情で言う。


 「掛川隊員、どういうことですか?」


シオリがすかさず尋ねる。


 「実は…CATの隊員は今は私だけなんですよ。他の皆は辞めてしまって…」


 「そ…そんな…」


 「ま、猫の気まぐれってやつだろうな。で、俺の計画に乗るかい?次長殿?」


翔が悪戯っぽい笑みを浮かべる。


 「いやぁ…私の腹を読み切ってくるとはね。いいよ♪乗ってあげる。ついでに私の事、名前で呼んでもいいよ?」


 「よし。決まりだな。名前呼びは…アレだから篁さんって呼ぶよ」


 「じゃあ、とりあえずサキちゃん」


白蓮が呼び掛ける。


 「はい?」


 「警察手帳、返すね?復帰お願いっ」


 「…なぜ私が」


 「人手不足だし、学園関係者という身分を活かしてほしいからね」


 「わ…わかりました…」


 「じゃあ次、樟葉君」


 「ん?」


 「人手不足だから私はCATの候補生を探したいっていう腹を読んでるなら、ちゃんと候補生見つけてくれてるんだよね?」


 「もちろんだ。正直、今のCATには支援系の人間が足りない。」


 「それには同意するわ」


 「そこで、補給担当として凄腕料理人を見つけてある。」


 「ふむふむ?」


 「さらに、優秀なメディックも見つけた」


 「おぉ!じゃあ2人かぁ。いいね」


 「だろ?ま、詳しい事は後に回すとして、CATは存在を秘匿しなきゃならないから、候補生は全て風紀委員会所属扱いにする。勿論、本来の委員会職を維持する。CATの活動に参加する場合に召集すればいいわけだしな。んで、普段の訓練は今まで通り学園内で行う。」


 「オッケー!いいよっ」


 「1ついい?CATを隠し続けるっていう方針はいつか限界が来るんじゃない…?」


ハルカが根本的な問題を指摘する。


 「わかってるさ。だから、学園内で事件が起きたときにCATが動いて解決、ってすりゃ白星にはもってこいだ。凶悪事件なら完璧だ。」


 「もし平和続きだったら…?」


 「起きないなら起こせばいい。でっち上げりゃいい」


その答えにハルカは絶句した。


 「樟葉君って何考えるか分からないとこが怖いけど…さすがだね」


白蓮もこれには驚いた。


 「ま、実は問題が残ってるけどな」


 「え…?」


ハルカが聞き返す。


 「いや俺の立場。アストレアじゃないからCATに参加できないけど、計画を立ててるの俺だしな」


 「じゃあそこは私の案に乗ってよ?」


白蓮が身を乗り出す。


 「ほう?」


 「CATアドバイザーって事で公安課の配属って事にしちゃおうと思うの」


 「なるほどな?でもいいのか?一般人な上に俺は会社の社長だし、学生だぞ」


 「そんなのCATに関しても候補生とかに関して異例の学生を採用とか言い出してるし、異例には異例で返すよ」


 「篁さんも大概食えない女だな?」


にやっと笑う翔。


 「お互いさまだよ!」


 「違いないな。」


 「これで概ね決着かな?」


 「ああ。そうだな。」


ようやく、教師陣と生徒会の対立に終止符が打たれた。


 「さてそろそろ昼時だな?」


時計はもう正午を指している。翔は空きっ腹だ。


 「そうだね?」


白蓮も実は空きっ腹だ。


 「んじゃ、極上の昼飯といくか」


翔がそう言った所でカナが生徒会室へ入ってきた。

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