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第21話 一射必中


シオリからの連絡を受けた翔は車に乗ったまま、生徒会ビルへ向かった。  

 「ビルに横付けでよろしいですか?」


 「ああ、頼む」


運転手に指示し、翔も態勢を整える。車はそのまま、ビル入り口前に停車した。


 (さて、行くか)


堂々と入口から入っていく。


 「樟葉君、1人かい?」


M4を構える教師が数人出てきた。


 「見て分からないか?1人だぜ」


 「交渉に応じるんだね?」


教師が確認する。


 「応じる気はないんだけどな?」


 「そうかい…残念だよ…」


狙いを定める教師達。


 「ったく…ほんとド素人だな。手が震えてるぞ」


翔は制服の内側から拳銃を取り出した。


 「…!?なぜ君がそんなものを持っている!?」


 「風紀委員会装備品庫から拝借したんだ。ま、適当に持ってきたんだが…まさかの大当たりさ」


そう言いながら、トリガーを引いた。


ズダダダダダン!!!


連射音が響く。1人の足元に複数の弾痕ができる。


 「ひぃっ…」


教師達はへたり込んだ。


 「こいつは、公的機関にのみ販売されるマシンピストル、グロック18Cだ。まだ俺とやりあうか?」


マガジンを交換しながら、冷酷な目線で問いかける。


 「こ…降参する…」


 「物分かりがよくて助かるぜ」


そう言いながら、全員の手首をタイラップで留めて拘束した。そのまま、翔はエレベーターで生徒会室があるフロアへ向かう。その時、コールが入った。


 『こちら翔だ。どうした?』


 『サーバー経由で警備システムにハッキング成功しました。警備レベルが引き上げられている部屋が一か所ありますね』


 『そこにハルカたちがいるかもな…先に救出する。』


 『了解。データ送ります。部屋の電子ロックはこちらから解除します。』


 『了解。』


通話を終える。生徒会室のあるフロアへ降り立つ。音を立てないように歩いて、目的の部屋の前に立つ。しばらく待っていると…


ピーッ…


電子音と共にロックが解除された。すぐに部屋へ入る。


 「翔…!?」


ハルカが真っ先に声を掛けてきた。


 「助けにきたぜ」


 「ありがとうっ…」


ハルカがひしと抱き着く。優しく抱き止め、撫でてあげた。


 「ハルカ以外の皆も無事そうだな」


マキ、ヒビキ、ルリの無事も確認する。


 「これからどうするの…?」


ハルカが恐る恐る尋ねる。


 「三島サキと決着つける。」


翔の目は真剣さで満ちている。

 

 「この学園はどうなるの…?」


 「心配しなくていい。任せな」


翔がウインクする。


 「わかった♪」


 (翔が言うと…ホント安心するのよね…♪)


ハルカが微笑んだ。


 「さて…突入するか」


扉の前に立つ翔。一気にドアを開け放つ。


 「三島サキ、いるか?」


 「ええ、ここに。あら…皇さん達を解放したんですか」


 「当然だ。」


 「つくづく、樟葉君は想定を超えた事をしますね。本当、問題児です。」


 「俺は教師なんて嫌いだからな。ざまぁ見やがれって嘲笑ってやるよ」


挑発するがサキは動じない。


 「その様子だと、交渉はしないつもりですか」


 「あんたの計画にまんまと嵌められる程、莫迦じゃないぜ?」


 「だったら…仕方ありませんね…」


M4を向けるサキ。それと同時にグロック18Cを構える翔。


 「…銃までくすねるとは、全く…」


 「お前らも持ってる以上はこっちも持たないとな?」


 「ホント、樟葉君は何者なんですか?」


 「ただのFXトレーダーだよ。ヘルキャット」


その呼び名にサキは凍り付いた。


 「ちょっと翔…どういうこと…?ヘルキャットって…?」


ハルカが困惑する。話についていけない。


 「社長、私も何が何やら分かりません」


ヒビキもさっぱり理解できていない。


 「三島先生に何かあるの…?」


マキは2人を心配している。


 「…」


ルリはハルカを見つめるのみ。どんな場においてもハルカ以外に興味は向かない。


 「説明してやるよ。三島サキは、元警視庁警備部警備第一課の警部だ」


その言葉に全員が言葉を失う。


 「よく調べましたね」


サキは冷静さを取り繕う。


 「だけどそれは表向きの肩書きだ。本当は元警察庁警備局公安課の警部だろ?」


 「…まさか、そこまで暴かれるとは」


 「警備局は実働部隊を持たないが、新たな試みとして編成する事にした。それがCATだ。書類上はSATの一部隊だが、実際は全く別の部隊。そしてヘルキャットってのはCATの部隊長のコードネームだろ?」


 「何もかもお見通しなんですね」


 「ま、だいぶ危ないハッキング仕掛けたが。日本の警察はサイバー犯罪への対策が甘いって痛感したぜ」


 「そこまで知っているなら、私の目的も理解しているでしょう?」


 「当然だ。だが俺はあんたの策略に嵌るつもりは毛頭ないんでね」


 「数的優勢は私ですよ?」


 「なるほど。作戦地で兵を訓練し味方にして戦力強化か…ま、特殊部隊の人間ならやりそうな事だが、あんなド素人にアサルトライフルなんて持たせても何にもならないぜ?」


 「居ないよりマシですよ。できればその銃を下ろして欲しいですけど…」


翔はポケットの中にしまっておいたヘッドセットから通話を掛ける。


 「下せって言うなら、先にあんたが下ろせよ」


 「それはできませんよ。」


 「そうかよ…じゃあ、ウルティマ・リソルサ!」


少し大きめの声で宣言する。その声は、ポケット中のヘッドセットからシオリへ聞こえる。



 『…ウルティマ・リソルサ!』


合図だ。


 (ついに来たわね…!狙うは三島先生の構えるM4よ!)


スコープでターゲットを確認する。深呼吸して狙いを定めた。


 (この一撃で決める!一射必中!!)


決意を胸に、トリガーを引いた。


…ズダァアアンッ!!!


乾いた大音量の発射音と共に弾丸は発射された。2km先の生徒会室へ向かって一直線に飛翔する。



 「何のつもりですか?」


意味深な宣言を不審に思うサキ。


 「俺の勝ちだな」


その瞬間、


パリンッ…!!ズダンッ!!


シオリが放った弾丸がガラスを貫き、サキの構えていたM4へ命中する。見事にバラバラに破壊された。


 「嘘…!?」


いきなり自分のライフルが破壊されたのにも驚いたが、どこから撃たれたのか、誰が撃ったのか見当がつかない。


 「あんたは自分の教え子を舐め過ぎだな。」


 「まさか…シオリが…!?」


 「ああ。あのビルからな」


翔が指差す。


 「そんな…2kmくらいあるでしょ…」


 「俺の信じたシオリはやってのけたぜ」



 狙撃を成功させたシオリは一安心していた。


 (やったよ…!翔!)


心の中でガッツポーズ。


 (私に勇気をくれて…ありがとう…!)


高揚感が沸き上がる。しかし、まだ終わりではない。スコープを覗き、生徒会室へ集中する。



 「まさか…教え子がここまで腕を上げるなんて…」


 「シオリは真面目だからな。それにあのデカイM82A1を使いこなす身体を作ってる。」


 「はぁ…アレには鍵掛けたんですけどね」


溜息をつくサキ。


 「レイカに頼んだらすぐ開錠してくれたからな。」


 「持ち出してしまえばよかったですね…ホント」


 「目的達成の為に焦るからそうなるんだ。特殊部隊の出身の割には迂闊だったな。」


 「…まさか、担任している生徒に教えられるとは…現場を離れてから私も随分、焼きが回ったようです」


サキの表情はどこか哀愁漂うものだった。


 「で、CAT候補集めと資金集めは実際うまくいってたのか?」


 「ええ。どの道、赤字になって限界が来れば破産させればいい話でしたし」


 「三島先生は…学園が大切じゃないんですか…?」


ハルカが悲しげに尋ねる。


 「私にとってこの学園は、CATの未来を切り開く手段でしかないんですよ」


冷徹に答える。


 「ま、CATは公表されていない組織だからこんな回りくどい事するしかないんだけどな」


翔が付け加える。


 「その通り。さらにCATはアストレアのみで構成されているので、アストレアの未来を切り開くことにもなります。」


 「でも…アストレアの為なら、むしろ公開して広くアピールした方がいいんじゃないですか…?」


ハルカがもっともらしい指摘をする。


 「CATは未だに実績がありませんから、公開はできませんよ」

 

 「実績が無い組織を華々しく公開なんてしてしまえば、批判されかねない。特にアストレアだけの部隊ともなれば、アイドル集団なんて言われるかもしれないしな」


 「私は…この学園が好きです…アストレアの為になると信じていました…だから、ここを失いたくありません…」


ハルカはハルカとしての意地とプライドがある。


 「ま、サキとハルカは立場が相反しちまうからな…だからこそ俺が何とかするんだが」


 「樟葉君…何を考えているんですか」


 「とりあえず、周りの教師連中の武装解除な?」


 「…分かりました。」


サキが翔に対して折れた格好になる。


 「とりあえず、ちょっと電話させてくれ」


そう言ってスマホを取り出す。


 『もしもし?』


 『樟葉君、順調かい?』


 『ああ。で、例の人と電話繋がるか?』


 『問題ないよ。すぐに転送する』


電話はそのまま別の人物へ繋がった。


 『こんにちは、樟葉君』


女性が電話に出る。


 『すみませんね、面倒事に巻き込んでしまって』


 『こっちこそ、迷惑かけちゃってごめんなさいね?あと、堅苦しくしなくていいわよー』


 『なら遠慮なく。とりあえず、サキに代わるぜ?』


 『はーいっ』


 「三島サキ、お前に関係ある人だぜ」


スマホを渡す。


 「ええ…」


 (一体誰よ…)


 『お電話代わりました…三島サキですが…』


 『久しぶりねーっ』


その声には聞き覚えがあった。


 『局長…』


自分が警備局にいた頃の上司だ。


 『あ、今は警察庁次長なのよ?』


 『そ…それは、昇進おめでとうございます…』


 『で、前任の次長が結構無茶やってたみたいで、第一線を退いたサキちゃんまで巻き込んでるとは思わなかったわ…スカウトと育成の為とはいえ…ね』


 『いえ…退職の代わりに引き受けた事ですし…』


 『まぁでも…今回は樟葉君に従ったほうがいいわよ?彼のほうが上手だったみたいだしね』


 『その…すみません…次長にまで迷惑を掛けてしまって…』


 『ホントよ…責任とってもらうからね?』


 『はい…樟葉君とはどこで知り合いに…?』


 『うちの家がCTF銀行と懇意にしててね。本店長が仲介って感じかな?』


 『ホント…樟葉君って何者なんですか…』


 『そうねぇ…お金の世界の白澤みたいな感じだろうね。』


言い得て妙ではあるが、そこまで評価しているともなると逆に怖くもなる。


 『では…樟葉君と共に今後について調整します…』


 『あ、それ明日にして?私も行くから』


 『えええ!?わ…分かりました…』


 『じゃあまたねー』


電話が切れる。


 「樟葉君…まさかここまでやってくるとは…」


スマホを返しながらサキが話しかける。


 「本当の切り札は最後までとっとくもんだぜ?」


 「さすが…です…認めます」


 「んじゃ、とりあえず詳しい話は明日にして…俺らは一旦撤収する」


 「そうですか…」


今までのやり取りを聞いていたハルカ達は、呆気にとられて物も言えず仕舞いであった。



 その後、翔達一行はCTF銀行本店へ戻った。


 「おかえりっ!みんな!」


カナが真っ先に出迎える。


 「ハルカ!大丈夫だった…?」


レイカが抱き着く。


 「レ…レイカったら…♪大丈夫よ?」


苦笑しながら、でも抱き返すハルカ。


 「いやぁ…疲れた…すげー疲れた…そして腹減った…」


翔は空きっ腹と疲労からか、活動限界が近い。


 「みんなの為に、たくさん晩御飯作ったから遠慮なく食べてね!」


カナが女将モードになっている。その日の夕食は大賑わいとなった。

 

 夕食後、自宅へ帰る者は帰り、生徒は寮生のみが残った。


 「やっと、学園の未来が見えてきたね」


宮日が話しかける。


 「まぁな。明日の打ち合わせでうまくやる必要があるけど」


 「んー…警察庁次長が直に来るっていうのも結構、大きいね」


 「CATはそれだけデリケートなんだよ。でもCATも学園もアストレアの未来を見据えているんだ。Win&Winで行きたいところだな。」


 「それはそうだね。にしても…樟葉君の采配は普通の人間じゃできないよ。」


圧倒的なまでの先読み、それに対する用意、バックアップ。これを普通と言われたら困る。


 「単に、情報収集して分析、整理してるだけだよ。FXのスキルを応用してるだけだ。それに天満さんという強力な味方がいるし」


 「こちらとしても、樟葉君と付き合う事はメリットが大きいからね。そういえば、支店出店の件は受理されたよ。後は空き地へ入居する企業などへの融資も対応できそうだよ。」


自然な流れで仕事の話もする。


 「助かる。んじゃ、俺は今日は休む…ねみぃ…」


 「お疲れさま」


翔は泊まっている部屋へ戻る。布団に入ったその時、スマホが鳴る。


 『もしもし…?』


 『眠そうだね…タイミング悪かったかな?』


 『なんだ次長か…どうしたんだ…?』


 『樟葉君はさ、アストレアが好き?』


 『愚問だな』


 『そうだよね…CATはアストレアの優秀さを証明する為にあるの。だから、学園でのスカウトは大事なんだけど…表沙汰に出来ないからさ…』


 『わかってるさ…明日ちゃんと話す。そんな事言うために掛けてきたのか?』


 『嫌だった?』


 『別にいいけど…それだけじゃないだろ?』


 『ほんと鋭いね。サキちゃんに警察手帳返そうかと思ってねー』


 『なるほど?そいつは面白いな』


 『明日の調整の前に伝えとこうと思ったの』


 『ありがとう。』


 『気にしないで?じゃあまた明日ねー』


電話が切れた瞬間、電源が切れたかのように翔は眠ってしまった。



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