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第20話 CAT

 

 バッグを開け放つと、中には取っ手付長方形のケースが入っている。


 「…これが私の相棒よ」


ケースを開くと中には、黒い大型狙撃銃が収まっていた。全員が息を飲む。


 「ほぅ…M82A1か…」


翔が眺めながら感心する。


 「うん…いわゆるアンチマテリアルライフル」


 「ね…ねぇシオリ…こ…これって本物…?」


カナが震えながら尋ねる。


 「本物よ。実銃。」


シオリは冷えた声で返す。


 「ここは日本よ…?なんで高校生が実銃なんて持ってるのよ…」


レイカが冷静さを保ちつつ問う。


 「ま、そこは俺が説明するよ」


翔が乗り出す。スクリーンに機密資料を映した。


 「これは…警察庁のデータベースかい…?」


宮日の表情が曇る。


 「その通り。ちょっとハックして色々調べたんだが、皆、CATって知ってるか?」


 「確か…警察庁直属の新設部隊では?」


美鶴が答える。


 「さすが、皇の執事は情報収集力も伊達じゃないな。CATってのは Capable Assault Teamの略だ。さしずめ、有能な特殊部隊ってわけだが、キャットと言えば猫の意味もある。要するに、アストレアのみで構成された対テロ特殊部隊だ。」


 「え…アストレアだけの特殊部隊…?」


カナが狼狽する。あまりにも飛躍した現実だ。


 「アストレアを利用する利点は2つあるんだ。1つ目、社会的に地位が低いこと。これは表舞台から消えて暗躍しやすい。2つ目、これはデータベースから盗んだ情報でも特にセキュリティが厳しかったが…アストレアの猫耳は人間の耳よりも高性能だ。例えば、超音波なども探知できる。他にも熱源を感じることもできるらしい。また尻尾は金属を探知したり、地雷の探知もできるという。当然、これらは訓練を重ねなければいけないが」


 「…」


皆は絶句していた。


 「そして、シャ・ノワール学園には極秘裏に専門科目として、CAT入隊プログラムがある。これに参加する者はスカウトされるわけだが、その1人がシオリってわけだ。そして、CATに関係する者は実銃の所持が認められている。」


一応、これでこの場にM82A1が在る理由は説明された。


 「学園の裏でこんな事が起きてるなんてね…融資してる側としては実に興味深いよ…」


宮日が腕組みしている。


 「で、このCATと今回の騒動には繋がりがあってだな。実は三島サキは、CATのOBだ。」


全員が震撼する。しかし、レイカは別の点に着目した。


 「待って…OBって事は、CATって結構前からある組織なの?」


 「いい質問だぜ。CAT設立年と学園の設立年は見事に一致している。ちなみに、存在を隠すためなのか、試験部隊扱いされているんだ。書類上はSATの1部隊らしいな。」


 「しかし、分かりませんね。なぜ、バレてはいけない組織に居た人間がバレかねない真似をするんですかね?」



美鶴が疑問を投げかける。サキの行動は一歩間違えれば、社会問題になるからだ。


 「で、ここまでは俺のサブスキルで解明したんだが、俺のメインスキルと言えば?」


ニヤっと笑いながら皆へ聞く。


 「翔のメインスキルって…お金と銀行でしょ…?」


窓際にもたれて腕組みしているシオリが答える。


 「その通り。学園の資金の流れを徹底的に洗った。そしたら、CATの装備品購入が学園経費から賄われていたんだ。」


 「待って…装備品って実銃でしょ…?そんなものをバレずに学園資金で買うって…」


企業の娘としては金の流れには敏感になる。


 「じゃあ聞くが、この学園は専門科目が大量にあるだろ?だが、受講数が多い科目は決まっている。しかも定員がないから、必然的に生徒が偏る。そうして人気のない科目を生み出し、そこの経費として計上した資金をそのまま使っていた、ってわけだ。」


 「でもそれ位ならバレそうよ…」


 「確かにな。だから生徒会に中央集権させ、委員会を減らし、激務になるような構造を作ったんだ。つまり設立当初から仕組まれてたんだ」


 「じゃあ…まさか、保健委員会と風紀委員会だけがまともに存在する理由って…」


 「その通り。実働部隊と補給部隊のスカウトの為だな。シャ・ノワール学園はCATの秘密スカウト機関ってわけだ。だが、ハルカが俺を学園に入れたおかげで激変してしまう。」


 「財務整理ね…」


 「その通り。もしこのまま、財務状況を改善させればいずれバレる。だから敢えて反乱を起こして、俺にそれを気づかせたんだ。」


 「待ってくれ…もし樟葉君が来なかったら、学園は破綻してたんだよ!?融資の返済はどうなるんだい!?」


宮日が慌てる。


 「そんなもん決まってるだろ?経営破綻して破産だ。だからこれは、CATの時限ミッションなわけだ。アストレアの中から有能な者を選抜せよっていうな」


 「冗談じゃない…貸したものは返してもらわないと…」


 「そりゃそうだ。これで政府が出資した理由に、本当の意味で説明がつく。」


 「なるほど…樟葉君が金の流れを調べてくれって言っていたのはこれか…」


 「そーいうことだ。で、三島サキは俺に気づかせた上で、選択させようとしている。」


 「選択…?」


カナが不安げな顔をする。


 「このまま、警察にバラして学園諸共潰すか、自分の思惑に乗るか、だ。」


 「三島先生の思惑って…?」


 「穏便に解決し、予算を黙認させる事だ。まぁ俺を退学させるだろうけどな。」


 「翔はどうするの…?」


 「ま、それを考える前に解決しなきゃいけないのはシオリの問題だ。」


 「そうですね…今の流れからすると有栖さんは我々側の者ではありませんね」


美鶴が冷たく言い放つ。


 「だから選ばせてやるよ、シオリ。どっちにつく?」


シオリは無表情を貫いていた。


 (…翔は全て知ったうえで私を連れていたんだ…でも…私は…どうすれば…先生も翔も正しい…間違っていない…でも、どっちかにつけばどっちかが…消えるんだ…)


激しく葛藤し、吐き気を催す。


 「わたし…どうしたらいいか…わかんないよ…」


悲痛な声を絞り出す。そして、手に拳銃を構えた。銃口は翔に向いていた。


 「シオリ…!!」


カナが叫ぶ。


 「グロック17か。」


翔は呑気に立っている。


 「翔…わたし…わかんない…」


震えながら、涙するシオリ。


 「そいつを俺に向けてるって事は、俺を殺したいのか?」


 「…わかんない…わかんないの…」


翔は冷静だが、シオリはパニックになっていた。


 「お前の信じる正義ってなんだ?」


 「私は…風紀委員長…CAT候補生…だから…」


 「はぁ…やっぱ分かってないな」


翔は溜息をついた。


 「どういう…こと…?」


 「風紀委員会も、CATもお前が作ったんじゃない。そこにある正義なんてのは、他人が作ったものだ。いいか?ドグマに囚われるな。他人の考えた結果で生きるなんて勿体ないだろ?人生は限られてるからな。自分の直感を信じる勇気を持て。」


その言葉はシオリの心を一気に氷解させた。


 「翔…」


 「なんだ?」


シオリは深呼吸して息を整える。そして、今度は真剣な目つきでグロックを構える。


 「さっき…選択って言ったでしょ。でも、どっちを取ってもどっちかが消えるよね」


 「そうだな。」


 「私は…翔が好き!でも、先生の事も守りたい!」


 「いきなり告白か?しかも銃向けながら」


少し笑いながら茶化す。


 「うっさいわよ!脳天ぶち抜かれたいの!?ってそうじゃないわ!私は、どっちも守りたいの!だから第3の選択肢くらい用意してよ!翔ならできるって私の直感が訴えてるの!」


 「上出来だ。それがシオリの答えだな」


 「直感を信じる!好きな人を信じる!こんな恥ずかしい事言わせたんだから、撃たれたくなかったら早く、どうするか教えなさいよ!!」


顔を真っ赤にしてシオリが叫びながら腕と尻尾を振り回す。やはりツンデレにゃんこである。


 「やっと普段のシオリに戻ったな。で、第3の選択肢の要はシオリのM82A1だ。」


 「え…?」


シオリがキョトンとした顔で聞き返す。


 「この銃が作戦の要になるってシオリ言っただろ?冷静さを保てばちゃんと直感に従えるんだから、気をつけろ?そして、その直感が正しい事を証明するんだよ」


 「翔……」


その言葉は再びシオリに響いた。


 「でも…何を狙撃するのよ?」


レイカが横から口を挟む。

 

 「生徒会室を遠距離狙撃して、中の奴らの武器を破壊する。」


 「どこから狙撃するの…?」


 「そうだな…このビルの屋上からだな」


地図を表示させ、指さす。


 「ちょっと…2kmくらいあるじゃない!」


レイカの頭ではそんな距離で狙撃など想像もつかない。


 「やれるか?シオリ」


 「任せて。射程ギリギリだけど当てるわ」


落ち着き払ったシオリの声。


 「よし。作戦開始は明日。準備するぞ!」


翔がその場を閉じた。



  「樟葉君…」


宮日が耳打ちしてきた。


 「なんだ?」


 「例の人探しだけどね、有力な人にコンタクトがとれたよ」


 「よし…これでカードは揃ったな」


翔の頭の中に道筋ができあがった。

 

 

 その日の夜も、カナの美味しい料理でお腹を満たす。

 

 「いやぁ…今日のステーキ、絶品だったな!」


満足げに翔は一息つく。


 「カナの料理スキルは半端じゃないわね…」


レイカも素直に尊敬している。


 「一流レストランってなんだっけ…って思うレベル…」


シオリも驚嘆。


 「いや…この味なら、皇の本家でも十二分に通用しますよ…!」


美鶴自身、これほどの腕の料理人を見るのは初めてに近い。


 「最近ね…橘さんの料理を知ってしまって…食堂や妻の味じゃ物足りないんだよね…」


宮日がサラッととんでもない事を言った。


 「カナの腕前って誰かに仕込まれたんだろ?」


お茶を飲みながら、翔が話を振る。


 「お母さんに和食を、お父さんに洋食を習ったのよっ」


笑顔で答える。カナは両親が大好きだ。


 「確か…父親がサラリーマンで母親が専業主婦って言ってたよな?」


 「そうよー?」


 「ここに居る皆に問おう。カナを仕込んだご両親の料理となれば…食べずとも涎が出るよな!?」


 「「「「異議なし!」」」」


カナの腕を考えれば、それを仕込んだ両親の腕前はあまりにも未知数である。


 「どう考えても母君は高級料亭の女将、父君は高級ホテルの総料理長クラスだと思うが、どうか!?」


 「「「「異議なし!」」」」


全員の息が合う。カナはポカンとした顔で見つめている。


 「一応、やんごとなき家の執事殿に聞こう…三条さんよ…」


 「なんでしょうか…?」


2人共、涎が出そうなのを堪える。


 「カナのご両親、皇基準で言えばどれくらいだと思うよ!?」


 「正直に申しましょう…」


その言葉に全員が視線を美鶴に向ける。


 「この三条美鶴、嫉妬しております!!想像するに、皇家が経営するホテルでトップを務めるに足る器かと…!!!」


魂の叫びである。カナの腕前から想像される親の腕は皇の執事を屈服させてしまった。勿論、一口も口に入れていないし、見てもいない。それ位、カナの料理は旨いのだ。


 「マジかよ…大絶賛だな…な?カナの料理はこんなに皆に喜ばれるんだぜ?この腕前は、金でどうこうできるもんじゃない。カナならではの才能なんだ。だから、自分を要らないなんて思わないでいいからな?それにここにいるメンツの舌を唸らせてる時点で、一級の料理人だぞ」


改めて、カナを励ます。それに、銀行の本店長に名家の執事、大企業の娘といった大物を納得させている。これはカナの自信に繋がると翔は直感していた。


 「あ…ありがとっ!」


 (翔…私のこと、ちゃんと気にかけてくれてるんだ…すごく…うれしい…!)


 「でもさ…翔の料理も美味しかったよ?お母さんと同じくらい」


そう続けたカナの言葉に全員が翔を見る。


 「俺は単に、見て覚えただけだからな。創意工夫とかは一切ない。だからこれ以上発展しない。それに俺自身、腕を磨くよかFXが好きだしな。だったら、カナの料理を味わいたい。それにカナもご両親も料理が大好きだろ?だから、まだまだ腕も上がると思うんだ。俺もここに居る皆もそれを楽しみにしてるぜ?」


全員が頷いた。


 「橘さんの料理が味わえるなら、本店長としてどんな協力でもしてあげたい!」


 「これほどの才能を埋もれさせてはいけません!」


宮日と美鶴はもはや感涙を流している。


 「…私、カナの部屋に住もうかしら」


 「あ、だったらCATで使う夜営装備で私も行くわ!」


レイカとシオリ、カナが大好きである。


 「でもな、才能もそうなんだけど、やっぱカナの笑顔とか優しさもあるよな…」


気恥ずかしそうに翔が付け加えた。再び、全員が頷く。


 「さらっと恥ずかしくなること言わにゃいで…!」


カナの猫声、全員が悶えまわってしまったにゃ。


 (カナの猫声…破壊力が…やべぇ…この世の全てを萌えさせるんじゃねーのか…)


鼻血を拭きながら翔が冷静さを取り戻す。


 (これで明日は心置きなくミッションを実行できるな)


その日は、全員がよく眠れた。



 翌朝、支度を済ませた全員が集まる。


 「さてさて…銀行に缶詰も正直、疲れてくるが…今日が正念場だ!」


翔のセリフに皆、聞き入る。


 「今日は天満さんが連絡役、三条さんはハッキング、レイカは2人のサポート。シオリがスナイパー、俺は単独で学園へ向かう。カナは飯の仕込みを頼むぜ。」


役割を分担する。


 「「「「「了解!」」」」」


このメンバーでの行動にも既に慣れていた。


 「じゃあ作戦開始だ。」


その言葉を合図に、各自動き始める。翔、シオリは地下駐車場へ向かい車に乗り込む。


 「狙撃の順番は三島サキからで頼むぞ」


 「分かってるわ。それ以外は素人だろうしね」


 「まぁな。データベースで照合したが、三島サキ以外はただの一般人だ。」


 「これで上手く解決できても、これから先はどうする気…?学園とかCATの事とか…」


シオリとしては先行きが不安だ。


 「ま、任せとけって」


話をしていると、車はとあるビルの前で止まった。


 「じゃあ、頼むぜ」


 「わかってるわ」


シオリはガンケースを持って降りる。車が走り去るのを確認してビルへ入る。ヘッドセットからコールした。


 『こちらシオリ。ビルへ入ったわ。ハッキングどう?』


 『こちら三条です。既にハッキングは完了。ルート上の全ての電子ロックは解除してあります。』


 『了解』


シオリは急いで屋上へ向かった。


 (ここからなら、確かに生徒会室を狙えるわね…)


スコープで生徒会室方面を覗く。次に、狙撃ポイントを決める。


 (ここにしようかな)


場所を決め、M82A1を設置する。マウントレールにスコープを取り付け、調整する。


 (よく考えたら…これ実戦よね…実弾使うわけだし…)


実弾訓練は当然やっているが、今回は狙うものが相手の武器である。間接的ではあるが対人狙撃だ。


 (大丈夫…!私ならできるんだから…!翔も頑張ってくれるんだし、私は私のやる事やらなきゃ!)


自分を奮い立たせながら、マガジンを取り出す。12.7mm×99mm NATO弾が鈍く輝いてる。弾を確認して銃にセットする。チャージングハンドルを引く。


ガシャッ…


乾いた金属音と共に、初弾が装填された。シオリはヘッドセットから翔へコールする。


 『こちら、シオリ。狙撃準備できたわ』


 『了解。これから生徒会室へ向かう。狙撃開始はこちらから指示する』


 『了解。』


通話を終え、シオリはスコープを覗く。生徒会室内部が見える。ハルカ達は確認できないが、サキとその他数名の教師が確認できた。


 (M4ね…)


装備しているアサルトライフルを判別する。いよいよ、教師連合と決着をつける時だ。



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