第19話 潜入任務、再び!
カナの作ったカツカレーを食べ終わった後、翔は皆に明日の作戦概要を説明した。
「というわけで、明日は俺とシオリで学園地下に潜る。サポート頼むぜ」
翔はそれだけ言うと、自分のノートパソコンで中断していた作業を再開した。
(翔…絶対気づいてるよね…)
シオリはまったく落ち着けていない。焦燥感ばかりが襲う。
「シオリっ!お風呂一緒にいこっ」
カナが声を掛けてきた。
「うん…」
その場を離れたいという思いもあり付いていく。お風呂場は高級ホテル並みに豪華なものだった。その豪華さにもシオリはあまり感動する余裕がない。
「ふわぁ~…すごく広いし気持いいにゃぁ~」
カナは湯船で寛いでいる。
「そうね…」
シオリも一応、相槌を打つ。
「シオリさ、何か私たちに隠してるよね」
カナのその言葉にシオリの猫耳がぴくっと反応する。
「そんな…」
「言わなくていいよっ」
「え…?」
カナの笑顔とその言葉に驚く。
「私が気づくって事はさ、翔はとっくに気づいてる筈でしょ?でも何も言わないし何もしないからさ、きっと何か意味があるんだと思うの」
翔を信頼しているからこそ言えるセリフ。
「カナは翔を信じてるのね…」
「そりゃ…好きな人信じなきゃダメじゃないっ」
少し頬を赤くしながら答えるカナ。
「そっか…少し気が楽になったわ…ありがとう」
「気にしないでっ」
肩の荷が少し降りたシオリはお風呂を上がるとそのまま床に就いた。
「やっとハックできたが…やっぱりか…」
皆が寝静まった頃、翔はとある機密データへアクセスしていた。そしてある確証を得ていた。
翌朝、全員が会議室へ集まる。
「よし、それじゃあシオリ。行くぞ。」
「うん!」
2人はまず秋葉原へ向かった。
「さてと…必要な物は…」
「赤外線可視ゴーグルと反射用の鏡ね」
必要な物を揃えて、電車に乗り込む。
「アキバはホント便利だな」
「…なんていうか、何でもあるわね…」
シオリの中で秋葉原へのイメージが変化した。
そして学園の最寄り駅で降りる。
「そう言えば、どこから地下へ入るのか聞いてないけど」
「ついて来れば分かるさ。」
2人は公園に入った。奥へ進むと階段の入り口らしき扉が見えた。
「ここから入る。」
「いや…これ電子ロックよ…?」
「むしろ好都合。」
そう言って、ヘッドセットから通話を掛ける。
『ドアの前に来た。ロック外してくれ』
『分かりました。』
美鶴が会議室のパソコンからハッキングする。
ピピッ…カチャッ…
電子音と開錠音がした。翔はそのままドアを開けて中へ入る。地下へ続く階段をしばらく進むと、
「ここが共同溝ね」
シオリが見渡しながら言った。電線や水道管、ガス管が通っている。
「そうだ。この先が生徒会ビルへ続いてる」
2人はなるべく音を立てずに目的地に到着する。
「場所は知ってたけど…こんなに厳重なロック掛けてるのね…」
生徒会ビル地下の共同溝からの入り口は厳重に施錠されている。
「まぁ…いくら厳重でも、電子ロックだけっていうのは危険なんだぜ?」
翔はタブレットをケーブルで電子錠の整備端子に接続する。そのまま、何やらコマンドを打ち始めた。
「そんなタブレットじゃ開錠に時間かかるわよ…」
シオリが焦る。
「大丈夫だ。計算自体は寮の俺の部屋にあるマシンでやらせてるからな」
「でも…電源は…?まだ太陽光発電パネル稼働してないでしょ?」
「UPSを設置してるから、多少なら動かせる。オンラインから起動コマンドを打って、後はタスクを送信っと…」
しばらく待っていると、計算結果を受信した。その通りに、入力パネルから開錠コマンドを打ち込む。
ピーーッ…ガチャン…
ロックが外れる。
「翔って只者じゃないわね…」
手際の良さに驚く。
「そう言うシオリも只者じゃないだろ?」
「…私のこと気づいてたんだ」
「そりゃな?でも俺はそれを受け入れるつもりだ。だから今、ツーマンセルしてるんだしな」
「三島先生の事も気づいてる?」
「ああ、もう掴んでる。」
「そっか…」
「任せとけって。悪いようにはしないし」
「うん…やっぱり翔は只者じゃないね…」
「それはそうと…今日はやけに素直だな」
「う…うっさい!!任務だからよ!!」
「その調子の方がシオリらしいぜ?」
少し茶化したが、空気はよくなった。
「さっさといくわよ!」
「分かってるさ」
2人はビルの地下へ入る。
「なるほど…ここに配電盤や、非常用発電機、蓄電装置、ガス系の配管、水道ポンプ…おっと、あっちはサーバールームか…」
「ここはまさに学園の心臓部よ…」
「さてさて…ちょっくら覗いてみるか」
翔が赤外線可視ゴーグルを着ける。シオリもすぐに着けた。
「赤外線センサーだらけね…」
覗くと赤外線網が張り巡らされている。
「ここは地道にやるしかないな…」
匍匐しながら反射鏡を1つずつ慎重に設置していく。シオリも手伝う。
「なんかこういうのって楽しくない?」
ふとシオリが話しかける。
「確かにな。赤いジャケット着てくるべきだったか?」
「それ言うなら緑のジャケットでしょ?」
呑気に話しながら、赤外線網を突破した。
「さてと…爆弾とか仕掛けるならどこら辺だろうな」
「緊張感ないわね…全く…」
「緊張して冷静さを無くしたら莫迦らしいだろ?」
「そうだけど…って静かにして」
シオリが猫耳を動かす。静寂の中で集中する。
「微かに動作音聞こえるわ」
「さすが猫耳だな。可愛い上に、実用性までキッチリ備えてるとはな」
「う…うっさい…!」
さりげなく可愛いと言われ恥ずかしがる。
「これか…」
シオリが探し当てた場所には爆弾が仕掛けられている。
「C4ね…」
「だな…」
そう言いながらニッパーを取り出し、手早く解体する。
「…なんで解体の仕方知ってるのよ」
「ネットで調べたからな。言っとくがC4しか解体できないぞ」
「そ…そう…」
その後も数個のC4を探し出して解体した。
「さて…これで後は、サーバールームで作業だな」
「そうね」
2人はサーバールームへ向かう。
「ここも電子錠か…」
「当然でしょ…」
「といっても…カード式だから簡単だな」
「え?」
翔が1枚のカードを取り出し、リーダに通す。
ピピッ…
あっさり開錠した。
「アキバで手に入る、ハックカードさ」
「何それ!?」
「このメーカーのカードリーダはバグがあって、特定のコマンドを書き込んだカードを通すとマスターカードと誤認して開錠できるんだよ。」
「もし…違うメーカーだったらどうしたの…」
「それはその時だろ」
意外と場当たり的である。
「案外適当なところあるのね…」
「気張っても仕方ないからな」
サーバールームへ入り、タブレットを接続する。そして通話を掛ける。
『サーバールームへ入った。侵入できるか?』
『お任せを。』
美鶴がハックし始める。しばらくして、
『侵入できました。アドミニストレータ権限奪取します』
『よし、こっちは撤収する。』
『了解。』
通話を終え、すぐにタブレットを接続解除する。
「これでやる事は終わった。撤収だ。」
「ねえ…翔」
「なんだ?」
「私の事気づいてるなら、ちょっと手伝ってくれない?」
「内容によるな」
「風紀委員会の装備品庫に私の相棒が置いてあるの。回収したいわ」
「それは今回の作戦に必要か?」
「多分、要になると思う」
シオリの目は真剣だ。
「分かった。付き合う。」
「帰ったら、皆に私の事とか話すんでしょ?」
「まぁな。」
「だったら、尚の事回収しなきゃね」
「そうか。で、装備品庫にはどう行く?」
地上に出る訳にもいかない。
「通風孔しかないわね。監視カメラの映像をダミーにすり替えたのってここだけでしょ?」
「そうだな。最小限しかやってない。」
「案内するわ」
シオリはそう言いながら、通風孔の網を外す。
「まさか高校生活送りながら、学園に潜入なんて真似する日が来るとはな…」
匍匐しながら翔がぼやく。
「仕方ないわ…って前見んな!!」
シオリがスカートを押さえながら、尻尾を振り回す。
「あ…すまない」
2人は装備品庫へ到達した。
「よいしょ…ここよ」
網を外して中へ入る。
「監視カメラあるのか?」
「ここは死角だから大丈夫」
「で、回収するのは…?」
「あの黒いバッグよ」
指さしたのは1m以上もある長いバッグだ。
「さて…どうするかな…普通に行ったらバレるしな…」
「チャフ使う…?ここの監視カメラは無線式だし」
「女子高生がなんでチャフなんか知ってるのかは置いておいて、映像途切れたらバレるだろ」
「じゃあ…」
「無線なんだろ?やりようはある」
タブレットを取り出す。ポートにアンテナのようなドングルを取り付けた。
「…これは?」
「まずは周波数解析だ。どの帯域で通信するかを調べないと話にならん」
「ふむ…」
シオリは潜入任務などの体を使う任務は得意だが、電子戦は苦手だ。
「なるほど…WiMAX規格か…」
「高速通信の規格ね…」
「ざっくりし過ぎだろ…暗号化形式がAESだから、俺のマシンにやらせるか…」
「大変なの?」
「複合鍵探しは強力なマシンでやるに限る。」
翔はリモートで自室のパソコンにタスクを送る。
「翔ってさ…自分でお金稼いでるじゃん…?」
処理待ちの間が暇なので話しかける。
「まぁな」
「学園に来た当初は、色々あったけど…今は皆、翔の事凄いって思ってる」
「そうか…?」
「そうよ!それに、普通の高校生じゃ出来ない事をやってる。今もそうだし。こんな凄い翔ってこの学園来る前はどうしてたのかなって思って」
「殆ど学校行かずに引きこもって稼いでたのは知ってるだろ?」
「それはね?でも学校でさ、なんか尊敬されたりしなかった?」
「いやむしろ、教師、生徒全員から嫌われてたぞ」
「え…」
「滅多に来ない癖に成績は首席だったからな」
「首席なのに…?」
「ああ。クラスの奴らは俺の事冷やかしたり、陰口叩いたり、やりたい放題だった。教師もそれに便乗して俺に嫌がらせしてたぞ。内申わざと下げたり、試験で全問正解でも、樟葉だけ減点な!とか言ってな」
「最低ね…最低…」
「ま、気にしてなかったけどな。どうせ出席も最低限だし。金自体は溜まってたから。」
「今はどう…?ここに来て…」
「周りはアストレアしかいないし、正直戸惑ってた。今もまだ迷ってるんだ。この先、俺がどういう道を進むかは」
「そっか…」
「でも、楽しいから楽しみながら考えるさ。こんな可愛い子もいることだしな」
「う…うっさいわよ…!でも…楽しいなら良かったわ。学園の生徒なら楽しく過ごして欲しいし」
「そういうシオリは変わったよな。最初見たときは鬼の委員長って感じだったが。」
「…翔のせいなんだからね!」
「今のほうが可愛いからいいだろ」
「うっさい…!!バカ…!」
楽しく会話をしている内に処理が終わる。
「よし、データ改竄してっと…これで好きに歩いてもバレないぜ」
「ありがと…取ってくるわね」
「ああ」
シオリがバッグを運んでくる。
「…あれ?」
異常に気付いた。
「どうした?」
「いや…ジッパーにつけた覚えのない鍵がついてて…」
「ほう…こいつは最新式の電子南京錠か…」
「もしかして…」
「ん?」
「この前、夜に装備品庫の明かりが付けっぱなしだから見に来たら三島先生が居てね…」
「なるほど…ま、開錠は後だ。今は撤収急ぐぞ」
「うん!」
2人は来たルートを引き返す。公園の入り口まで戻って、迎えを呼ぶ。
「やっと第一段階終了だな」
「そうね」
疲れが出ていたせいか、帰りの車中では寝てしまった。
「さてと…色々話す前にシオリのバッグの開錠だな…」
銀行の会議室へ戻るなり、電子南京錠に挑む。
レイカが錠前を見るなり、
「あら?それうちの子会社が作ったやつじゃない!」
「え?じゃあ開け方知ってるのか?」
翔が期待の眼差しで尋ねる。
「任せて。」
レイカの手によりあっさり開錠してしまった。
「ありがとう、レイカ…」
シオリが複雑な表情で礼を言う。
「気にしないで」
レイカは敢えて気にしていないように振る舞った。
「じゃあ…開けるわね…」
シオリがバッグを開け放った。




