第四話 暴走の巨大パフェと、甘い共同作業(マリアージュ)
「ゴゴゴゴゴ……モフッ!?」
マカロンの短い悲鳴が、カラメリアの広場に響き渡った。
砂糖の税金が元に戻り、お祭り騒ぎに沸いていた街の広場。
その中央にある巨大な石造りの噴水から、いま、異様なものが噴き出していた。
水ではない。
それは、純白の「生クリーム」と、色鮮やかな「イチゴソース」、そして魔王の残滓の黒い霧だった。
「コ、コーン!? 噴水が巨大なパフェの器に変形していくモフ!」
マカロンが叫んだ通り、噴水から溢れ出た生クリームとカラメル、そして周囲の露店から吸い寄せられたフルーツやウエハースが、黒い霧の力で融合していく。
またたく間に誕生したのは、全高十メートルを超える、そびえ立つ山のような『巨大パフェ・ゴーレム』だった。
「ギ、ギガ・パフェェェェーーー!」
ゴーレムが重低音の、しかし間抜けな咆哮を上げ、ウエハースの腕を振り回す。
「ひえええっ!? 美味しそうだけど、質量が洒落になってないわよ!」
シャルロッテはエルマの手を引いて後ろに飛び退いた。
「フッ、私の出番だな。美しいお菓子は、胃袋に収まるのが宿命だ!」
ガレットが格好よく長剣を抜き放ち、鋭い踏み込みでゴーレムの足元(バニラアイス部分)を斬りつける。
ザシュッ!という心地よい手応えと共にアイスが削れるが——。
「む? 剣が抜けん!」
「ギガ・パフェェ!」
冷気でガチガチに固まったアイスに剣を挟まれ、ガレットはあえなく身動きが取れなくなった。
「まずい、このままでは私が最初のトッピング(踏み潰され役)になってしまう!」
「ガレット、何やってんのよ! お菓子魔法・第四形態——『シロップ・グラップル』!」
シャルロッテが木べらを振るうと、彼女の袖口から粘着性の高い「メープルシロップのロープ」が伸び、ガレットの胴体を絡め取ってグイッと手元に引き寄せた。
間一髪、ゴーレムのウエハースパンチが地面を叩き割る。
「助かった、シャロ。……だが、あの硬さは尋常ではない。私の剣技でも、ただ削るだけでは再生されてしまうぞ」
ガレットが悔しそうに言う。
「フッ、どんなお菓子にも『美味しく食べるためのレシピ』があるモフ!」
シャロの頭の上で、マカロンがチョビ髭をピンと立てた。
「シャルロッテ! あ奴の核は、胸の奥にある特大の『魔力メロン』モフ! あれを完全に包み込んで、呪いを浄化するほど『圧倒的に甘いお菓子』をぶつけるしかないモフ!」
「圧倒的に甘いお菓子……? そんなの、今の私の魔力じゃ、一人で作るには時間が足りないわよ!」
シャロが焦りを見せる。
ゴーレムはさらに生クリームの触手を伸ばし、街を甘泥で飲み込もうとしていた。
「一人じゃないよ、シャロ」
そのとき、シャルロッテの手が、きゅっと握られた。
エルマだった。
彼女の亜麻色の髪が、激しい風に揺れている。
「エルマ……?」
「シャロのお菓子魔法は、私の大好きな魔法。……私も、シャロの力になりたい。私にできることなら、なんでも言って!」
エルマの瞳には、一切の迷いがなかった。
シャロを守りたい、隣に立ちたいという強い意志が、その小さな体に満ちていた。
「エルマ……うん、分かった! 二人で最高のデザートを完成させよう!」
シャルロッテは顔を上気させ、エルマの手を強く握り返した。
二人の距離がゼロになる。
「マカロン、ガレット、三十秒だけ時間を稼いで!」
「御意モフ! 我のモフモフ・バリアを見せるモフ!」
「私も、剣がなければ拳で語るまでだ!」
マカロンが巨大化(綿あめ的な意味で)してクッションとなり、ガレットが体術でゴーレムの注意を引く。
その隙に、シャルロッテとエルマはしっかりと両手を繋ぎ、一本の木べらを二人で握りしめた。
「エルマ、私の魔力に合わせて、心の中で『一番甘い思い出』を想像して!」
「一番甘い思い出……。それなら、毎日シャロと一緒にいる時間だよ」
「えっ、あ、う、うん!?」
思わぬ不意打ちに、シャルロッテの声が裏返る。
「シャロ、あれ……冷たいアイスが体の土台になってるんだよね?」
「そうだけど?」
「だったら、熱いお菓子をぶつければいいんじゃない? 宿屋でも、アイスに温かいソースをかけると、すぐ柔らかくなるもの」
「それよ、エルマ! だったら最高に熱くて甘いお菓子を作る!」
シャロがドギマギしながらも魔力を練り上げると、二人の繋いだ手から、今までにないほど黄金色に輝く、圧倒的な熱量の魔力が溢れ出した。
お菓子魔法と、エルマの純粋な想い(特大の好意)が混ざり合い、奇跡の化学反応を起こす。
「いくよ、エルマ!」
「うん、シャロ!」
二人が同時に木べらを天空へと突き上げた。
「二人で作る恋の味——『超新星・フォンダンショコラ』!!」
二人の魔力が、カラメリアの上空に巨大な「チョコレートの太陽」を出現させた。
それは外側がサクサクの焼きチョコ、内側にはドロドロに溶けた、火山マグマのような超高温のビターチョコレートを蓄えた、直径二十メートルを超える究極の温製スイーツ。
「いっけええええーーー!!」
二人が木べらを振り下ろすと、チョコレートの太陽がゴーレムの脳めがけて直撃した。
ドガァァァン!!
激しい衝撃と共に、フォンダンショコラが文字通り「爆発」した。
中から溢れ出た超高温の濃厚チョコレートソースが、ゴーレムのバニラアイスを瞬時にドロドロに溶かし、生クリームを極上のチョコクリームへと変えていく。
「ギ、ギガ・パフェェェ……!?(何これ超うまい)」
ゴーレムの動きが完全に止まった。
温かいチョコと冷たいアイスの完璧なマリアージュが、魔物の体を至福の味で満たしていく。
そして、ソースが胸の「魔力メロン」に到達した瞬間、ドロリとした黒い霧が、チョコレートの甘い香りに包まれて、完全に白く浄化されて消え去った。
「やった……?」
エルマが息を弾ませながら呟く。
直後、巨大パフェ・ゴーレムは、キラキラとした光の粒子(とお砂糖の粉)になって霧散し、カラメリアの広場には、元の静けさと、信じられないほど良いチョコレートの香りが残されたのだった。
「ふぅ……! 大・成・功!」
シャルロッテは、隣のエルマを勢いよく抱きしめた。
「ありがとうエルマ! エルマのおかげで、今までで一番のお菓子が作れたわ!」
「ひゃっ!? シャ、シャロ、みんな見てるよぉ……!」
エルマは顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうにシャロの背中に手を回すのだった。
「ふむ……。あの温冷の組み合わせ、まさに至高。このガレット、一生ついていく所存だ」
「どさくさに紛れて、我が特等席(シャロの頭)を奪おうとするなモフ!」
こうして、カラメリアの街を揺るがした巨大パフェ騒動は、二人の愛の共同作業によって美味しく解決した。
だが、この大騒ぎの様子を、広場の片隅でじっと見つめる、フードを深く被った「謎の人物」がいることに、シャロたちはまだ気づいていなかった。




