第4話 開かない!
第4話 開かない!
「皆様、お待たせいたしました」
天女が下界から持ち帰った荷物を並べ終える頃には、その周囲にずいぶん大きな輪ができていた。
前回のバザーに参加した者だけではない。
下界から何かが届いたらしい――そんな話を聞きつけ、何が始まるのかと様子を見に来た妖怪たちまで混じっている。
もちろん、その輪の一番前にいるのは朱雀だった。
「天女よ、ずいぶんたくさんあるではないか!」
積み上がった袋や本を見て、朱雀の目が輝く。
「はい。美緒様と咲子様が、皆様に楽しんでいただけそうなものをいろいろ選んでくださいました」
「美緒が選んだのか!」
それだけで朱雀の期待は一段上がったらしい。
その隣では、白虎が早くも袋の中を覗き込もうとしていた。
「で、食い物はどれだ?」
「白虎、おぬしはまずそこなのか」
青龍が呆れた声を出す。
「下界から食い物が来てるなら気になるだろ」
「まだ説明も終わっておらぬ」
「食いながら聞きゃいい」
「そういうところを言っている」
二人がいつものように言い合っていると、玄武がゆっくり前へ出た。
「まずは、以前より決めておったものからにしよう」
天女も頷き、一つの大きな箱を開ける。
中には、一つずつ包装されたクッキーがぎっしりと詰まっていた。
「あっ!」
朱雀が身を乗り出した。
「くっきーではないか! また食べられるのか!」
その喜び方に、天女が笑う。
「はい。今回は皆様へのお礼として、美緒様と咲子様が人数分を選んでくださいました」
朱雀にとってクッキーは、もう知らない下界の菓子ではなかった。
以前に食べて、その甘さと軽い食感を気に入っている。
だからこそ、箱いっぱいに並んだ包みを見たときの反応も早かった。
前回のバザーが終わったあと、玄武が提案した。
品物を作った者。
運んだ者。
準備を手伝った者。
そのほか、バザーのために動いた者たちへ、全員に何かお礼をしよう。
誰か一人だけに豪華なものを贈るのではなく、みんなに行き渡るものを。
そのために選ばれたのが、このクッキーだった。
「では、一人ずつ受け取るがよい」
玄武が声をかけると、集まっていた妖怪たちが一気にざわめいた。
「わらわからでよいぞ!」
真っ先に手を上げた朱雀へ、天女が苦笑する。
「朱雀様。皆様に順番がございます」
「わらわは一番前におるぞ?」
「一番前にいらっしゃることと、最初に受け取ることは別です」
「なぜじゃ!」
周囲から笑い声が起こった。
結局、朱雀もほかの者たちと同じように一つ受け取る。
包みを開けると、慣れた様子で一口。
さくっ、と小さな音がした。
「うむ。やはりうまいのう!」
満足そうに頷く。
白虎もすでに一枚を口へ放り込んでいた。
「これ、確かにうまいな」
一方の青龍は、半分に割った断面を眺めている。
「軽いな。かなり水分を飛ばしてある」
「おぬし、食べ物まで調べながら食べるのか」
白虎が呆れる。
「何で出来ているのか、気にならぬのか?」
「うまけりゃいい」
「おぬしに聞いた私が悪かった」
玄武も一枚をゆっくり味わいながら、集まった妖怪たちを見渡した。
「皆で同じものをいただくというのも、悪くないものだな」
一枚目を食べ終えた朱雀は、その言葉を聞きながら、もう箱へ手を伸ばしていた。
玄武が静かにその手を押さえる。
「まだだ」
「何がじゃ?」
「まだ全員に行き渡っておらぬ」
「もう一枚くらいよかろう」
「待て」
反対側から、今度は白虎の手も伸びてきた。
玄武はそちらも止める。
「おぬしもだ」
「俺は何も言ってねえだろ」
「手が言っておる」
今度はさらに大きな笑いが起きた。
結局、全員に一枚ずつ行き渡るまで二枚目は禁止。
余りがあることを確認してから、ようやく追加分が配られることになった。
◇
クッキーをめぐる騒ぎが一段落したところで、天女が次の袋を前へ出した。
「こちらも、下界からのお品です」
ごろごろ、と中から転がり出てきたのは、いくつもの透明なカプセルだった。
朱雀が一つ持ち上げる。
「……何じゃ、これは」
丸い容器の向こうに、色のついた小さな何かが見える。
「中に、小さな人形などが入っているそうです」
「人形?」
白虎も一つ手に取った。
人形そのものなら、上界にもある。
木を彫ったものもあれば、焼き物で作られたものもある。布を縫い合わせたものだって珍しくはない。
だから、その言葉だけで驚く者はいなかった。
「小さな人形くらい、こっちにもあるだろ」
白虎が言う。
「そうじゃな」
朱雀も頷き、カプセルを両手で持った。
「では、見てみようではないか」
ひねる。
「……」
もう一度ひねる。
「……む?」
さらに力を込める。
「開かぬ」
白虎が笑った。
「貸してみろ」
「嫌じゃ。わらわが開ける」
「開いてねえじゃねえか」
「今、開けるところじゃ!」
朱雀は今度は上下から引っ張った。
びくともしない。
天女が隣から覗き込む。
「どこかに留める仕組みがあるのでしょうか」
青龍も別のカプセルを手に取り、合わせ目をじっと観察する。
「二つの部品をはめ合わせているようには見えるが」
「だったら引っ張りゃいいんだろ」
白虎が自分のカプセルを両手でつかんだ。
ぐっ、と力を込める。
「待て」
玄武の声が飛ぶ。
「何だよ」
「力任せに割るな」
「割らねえよ」
「おぬしが言うと信用できぬ」
「何でだよ!」
その横では、朱雀がまだ自分のカプセルと格闘していた。
「ぐぬぬぬ……!」
「朱雀様、少しお貸しください」
天女が受け取る。
押してみる。
ひねってみる。
引っ張ってみる。
「……あら?」
天女まで首を傾げた。
いつの間にか、周囲の妖怪たちも集まってきている。
「何をしておる?」
「下界の容れ物が開かぬらしい」
「そんなに難しいのか?」
「ちょっと見せてくれ」
一つの小さなカプセルを、大勢の妖怪が真剣な顔で囲み始めた。
「ここを押すのでは?」
「いや、こちらを回すのだろう」
「逆ではないか?」
「もう割った方が早い」
「それは先ほど止められた」
たかが小さな容器一つ。
それなのに、いつしか大仕事のようになっている。
青龍がしばらく合わせ目を確かめたあと、一か所を指で押さえながらゆっくりひねった。
ぱかっ。
「……開いた」
全員が黙る。
次の瞬間、
「おおっ!」
なぜか歓声が上がった。
朱雀だけが少し不満そうだ。
「なぜおぬしが先に開けるのじゃ」
「開け方を調べていただけだ」
「では、わらわのも開けよ」
「今見ただろう。自分でやれ」
「見ても開かぬから頼んでおる!」
◇
ようやく取り出された中身を見たとき。
今度は、別の意味で場が静かになった。
小さな動物の人形だった。
朱雀が掌に乗せる。
「……小さいのう」
近くにいた細工物を作る妖怪が、それを見て身を乗り出した。
「少し貸してくれ」
受け取ると、目を細めながらじっくり眺める。
「毛まで形になっておる」
「本当じゃ」
「目も鼻もあるぞ」
朱雀が首を傾げた。
「人形なのだから、そのくらいあるのではないか?」
職人の妖怪は首を振る。
「この大きさで、だ」
そう言われて、周りも改めて見る。
掌にすっぽり収まるほど小さい。
それなのに、耳の形がはっきりしている。
鼻先もある。
足先も分かれている。
毛並みまで細かく表現され、表情すら付いている。
上界の木彫りや焼き物の人形にも、細かなものはある。
だが、この小ささでここまで均一に細工されたものは、そう簡単には見ない。
しかも表面は滑らかで、細かな部分まで色がきれいに分かれている。
「これを、一つずつ作っておるのか?」
誰かが尋ねた。
青龍は人形を受け取りながら考える。
「いや。同じ形を数多く作る方法があるのかもしれぬ」
「同じものを?」
「下界では、そのような技術があるのだろう」
白虎が次のカプセルから出てきた、小さな戦士のような人形を持ち上げた。
「こいつ、指まであるぞ」
朱雀も覗き込む。
「衣のしわまでついておる!」
人形だから珍しいのではない。
この小ささで、これほど細かく作られている。
そこに気づいた途端、妖怪たちの目つきが変わった。
「次も開けよう」
「今度はわしがやる」
「待て、開け方はこうだったはずだ」
ぱかっ。
「開いた!」
一度仕組みが分かると、少しずつ早くなっていく。
もっとも、すべてが同じように簡単に開くわけではなく、また固いものに当たって数人がかりになることもあった。
それすら、いつの間にか遊びのようになっていた。
◇
そんな中。
白虎が開けたカプセルの中を見て、眉をひそめた。
「……壊れてるぞ」
「何がじゃ?」
朱雀が覗き込む。
袋の中に入っていたのは、頭。
胴体。
左右の腕。
そして小さな台座。
ばらばらだった。
「本当じゃ。壊れておる」
「運んでくる間に割れたのか?」
「だが、切れ目が妙にきれいだぞ」
青龍が一つずつ確認する。
天女は一緒に入っていた小さな紙を広げた。
「あ」
「どうした?」
「こちら、壊れているのではないようです」
「では、何なのじゃ」
天女は紙に描かれた図を見る。
「自分で組み立てるもののようです」
その一言で、空気が変わった。
「俺がやる」
白虎が即座に手を伸ばす。
「わらわもやる!」
朱雀も同時に手を出した。
「俺が開けたやつだぞ」
「そのような決まりはない!」
「じゃあ早い者勝ちだ」
「待て」
青龍が二人の間から部品を回収した。
「まず説明を読む」
「これくらい見りゃ分かるだろ」
白虎がすぐに腕の部品を一つ取る。
「ここに差して――」
かちっ。
全員が見る。
朱雀が首を傾げる。
天女も同じ方向へ首を傾ける。
青龍だけが無言だった。
腕が後ろ向きについていた。
「白虎」
「何だ」
「逆だ」
「……」
「やはり先に説明をご覧になった方がよろしいのでは?」
天女が穏やかに言う。
周囲から笑い声が上がった。
「分かったよ!」
白虎が腕を外す。
すると今度は朱雀が頭を取った。
「ならば次はわらわじゃ!」
「朱雀様、そちらは前後が――」
「……こちらか?」
「はい」
「最初から分かっておった!」
「今、反対につけようとしておりました」
「天女!」
そうして、いつの間にか周りからも、
「次はわしにやらせろ」
「足はないのか?」
「台座は最後では?」
と手や口が出る。
わいわい言いながら、少しずつ形が出来上がっていく。
最後に台座へ立たせる。
完成した。
さっきまで袋の中でばらばらだったものが、一つの小さな人形になっている。
「おお……」
誰からともなく声が漏れた。
朱雀は満足そうに頷いた。
「よいではないか!」
白虎も腕を組む。
「俺がほとんど作ったな」
「何を言う。わらわも作ったぞ」
「腕は俺だ」
「頭はわらわじゃ」
青龍が淡々と言う。
「私は説明を読んだ」
天女が笑った。
「では、皆様で作ったということで」
すると朱雀は完成した人形へ手を伸ばす。
「では、これはわらわがもらおう」
「何でだよ!」
「わらわも作ったからじゃ」
「俺も作っただろ!」
また最初から言い合いが始まった。
◇
その騒ぎの横では、細工物を作る妖怪たちが、人形そのものを別の目で見ていた。
「ここの継ぎ目を見よ」
「差し込むだけで固定されておる」
「この大きさで、よく外れぬものだ」
「色はどうつけている?」
「同じ形をいくつも作れるというなら、どのように揃える?」
かわいい人形として見る者。
遊び道具として見る者。
自分で組み立てる面白さに夢中になる者。
どう作られているのかを考える者。
一つの小さな品物なのに、それぞれ違うところへ興味を持っていた。
そして。
天女が、空になったカプセルを一か所へまとめようとしたときだった。
「それはどうする?」
一人の妖怪が声をかける。
「こちらですか?」
「捨てるのか?」
透明な半球を一つ手に取る。
「これも面白いぞ」
「容れ物ですよ?」
「だからよいのだ」
軽い。
中が見える。
二つに分かれる。
また閉じることもできる。
「小さな飾りを入れておける」
「種を分けておくのにもよさそうだ」
「細い糸や、小さな玉を入れておけるぞ」
「穴を開けて吊るせぬか?」
また次々に意見が出始める。
朱雀まで一つを掌に乗せた。
「確かに、丸くてかわいいのう」
白虎は呆れたように見る。
「中身だけじゃなく、入れ物まで気に入ったのかよ」
朱雀がすぐに振り返る。
「おぬしは先ほど、人形の腕を逆につけておったではないか」
「それは関係ねえだろ!」
天女は、捨てるつもりだったカプセルの山を見直した。
「では……こちらも取っておきましょうか」
「そうしよう」
玄武が静かに笑った。
「下界ではただの容れ物でも、こちらでは別の使い道を思いつく者がいるかもしれぬ」
結局。
小さな人形だけではなく。
それを包んでいたカプセルまで、一つも捨てられなくなった。
◇
しばらくして、ようやくガチャポンをめぐる騒ぎが落ち着いた。
机の上には、小さな動物。
戦士。
食べ物のミニチュア。
皆で組み立てた人形。
そして、きれいにまとめられた空のカプセル。
朱雀は完成した人形をまだ眺めている。
白虎は、ほかに組み立て式がないか探している。
青龍は、人形そのものよりも、その作り方の方が気になっているらしかった。
そんな三人の様子を見ていた天女が、ふと残りの荷物へ目を向ける。
「……皆様」
「何じゃ?」
「まだ、ほかにもございます」
全員の視線が動いた。
そこには、本。
漫画。
絵本。
カード。
料理の本。
ファッション誌。
スポーツの本。
まだ、ほとんど手をつけていない荷物が残っている。
朱雀が目を丸くした。
「まだあるのか?」
白虎も積み上がった本を見る。
「これ、今日中に全部見られるのか?」
その横で、青龍だけは少し嬉しそうだった。
下界から届いた荷物は、まだほんの一部を開けただけ。
それなのに、上界ではもう小さな騒ぎが始まっていた。
――つづく。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




