第3話 本じゃないものも入れよう
第3話 本じゃないものも入れよう
休日の夕方。
夜の営業が始まるには、まだ少し早い。
ゴンさんの店では、厨房から仕込みの音が聞こえていた。ゴンさんと奥さんがそれぞれ手を動かし、店の隅では則人と悟が並んで座っている。
そこへ、紙袋を両手に提げた美緒と咲子が入ってきた。
「重かったー……!」
美緒は空いているテーブルまで来ると、紙袋をどさりと置いた。
「お前ら、今日はバイトじゃないだろ」
厨房からゴンさんが顔を出す。
「その荷物、何だ?」
「本です」
咲子も自分の紙袋をテーブルへ置いた。
「ずいぶん買ったな」
「それで、ちょっと相談があるんだけど」
美緒が言うと、ゴンさんの奥さんも手を拭きながら近づいてきた。
「相談?」
「うん。えっとね――」
そこで美緒は一度、咲子と顔を見合わせた。
則人と悟なら事情を知っている。
けれど、ゴンさんたちへ同じ説明をするわけにはいかない。
「遠い外国にいる友達に、こっちのものを送ろうと思ってて」
「外国?」
奥さんが少し驚いた顔をする。
「そう。日本のものをあんまり知らない人たちで。でも日本語は読めるから、本とかならいいかなって」
咲子が紙袋の中から数冊を取り出して、テーブルへ並べた。
ファッション誌。
アクセサリーの本。
小説。
料理やお菓子の本。
野球や格闘技の入門書。
「向こうで何に興味を持つか分からないので、いろんな種類を少しずつ選んでみたんです」
「なるほどねえ」
奥さんが本を手に取る。
ゴンさんも厨房から出てきて、並んだ本を眺めた。
「で、何を相談したいんだ?」
「これ」
美緒はテーブルいっぱいの本を指した。
「本ばっかりじゃん?」
「本屋へ行ったんだから当たり前だろ」
「そうなんだけど!」
美緒は頬を膨らませた。
「せっかく日本から送るんだったら、本じゃないものも何か一緒に入れたいなって。でも私とさっちゃんだけで考えてたら、服と食べ物と本ばっかりになっちゃって」
「それで、みんなだったら何を入れるか聞いてみようと思って」
咲子が補足する。
「ふうん」
ゴンさんが腕を組む。
少し考えたあと、何気なく店内の棚へ目を向けた。
そこには、ゴンさんが集めている特撮関係のフィギュアが並んでいる。
「人形なんかはどうだ?」
「フィギュア?」
美緒も棚を見る。
「ああいうの? でも結構高くない?」
「こんなのを送れとは言ってない」
ゴンさんは自分のコレクションを指してから、
「もっと安いのでいいだろ。ガチャポンとか」
と言った。
「ガチャポン!」
美緒が声を上げる。
「そういや、あれなら安いね」
「最近のは種類も多いぞ」
急にゴンさんの説明が少し熱を帯びた。
「ヒーローや怪獣だけじゃない。動物もあるし、食い物のミニチュアもある。かわいいキャラクターもあるし、何に使うんだっていう妙なのまである」
咲子が笑う。
「詳しいですね」
「そりゃ見るからな」
「回してもいるでしょ、あんた」
奥さんから飛んできた一言に、ゴンさんが少し黙った。
美緒の目が店内のフィギュアへ向く。
「……ゴンさんが欲しいだけだったりして」
「違う」
「今ちょっと間があったよ」
「それより、向こうの相手の好みが分からないなら、ちょうどいいだろ」
ゴンさんは話を戻した。
「かっこいいのも、かわいいのも、動物みたいなのも、二つ三つずつ混ぜればいい。高いものを一個送るより、いろいろ見られる」
「それ、いいかも!」
美緒が手を叩く。
「男の子が好きそうなのも、女の子が好きそうなのもあるし」
すると奥さんが、
「男の子用、女の子用って最初から決めなくていいんじゃない?」
と口を挟んだ。
「向こうで誰が何を気に入るか分からないんでしょ?」
「ああ、そっか」
「かわいいのが好きな男の人だっているだろうしね」
咲子も頷く。
「じゃあ、種類をばらばらにして少しずつですね」
「それがいい」
話がまとまったところで、美緒は今度は則人へ向いた。
「則ちゃんは?」
「ぼく?」
「うん。何送ったら面白いと思う?」
則人はしばらく考えた。
テーブルの上には、料理本やファッション誌が並んでいる。
どれも悪くはないけれど、自分なら別のものを選ぶ。
やがて顔を上げた。
「カード」
「カード?」
「ヒーローのカードとか」
答えた途端、美緒がにやりとする。
「則ちゃんが欲しいだけじゃない?」
「違うよ!」
少し強めに否定してから、則人は続けた。
「絵も描いてあるし、集めたりできるし。ゲームできるカードだったら、遊ぶこともできるでしょ」
「なるほど」
咲子は素直に感心した。
「それに薄いから、荷物にも入れやすいね」
「でしょ?」
則人の声が少し得意げになる。
「最初から遊べるセットみたいなのもあるよ」
「スターターセット?」
「そういうの」
美緒が笑いを堪えながら則人を見る。
「ずいぶん詳しいねえ」
「だってヒーロー好きだもん」
「やっぱり自分が欲しいんじゃん」
「送るやつはちゃんと送るよ!」
「じゃあ、同じの自分用にも欲しい?」
則人は一瞬考えた。
「……ちょっと欲しい」
「正直だ」
その横で、ゴンさんが小さく頷いた。
「ヒーローのカードは分かる」
「あなたまで一緒にならないの」
奥さんに言われ、ゴンさんは黙って厨房へ戻った。
◇
「さとる君は?」
今度は咲子が聞いた。
悟はテーブルに並んだ本を眺めていた。
小説を一冊手に取り、表紙を見てから、
「漫画は?」
と言う。
「漫画?」
「うん。文字だけじゃなくて、絵で話が分かるし」
美緒の顔が明るくなる。
「あ、それいい!」
悟は絵を描くのが好きだった。
だからなのか、文字だけを読む本とは別のところへ自然と目が向くらしい。
「一冊か二冊くらいなら、そんなに高くないし」
「それにしよう!」
「あと……」
悟が少し考える。
「絵本もいいと思う」
「絵本?」
「絵が大きいやつ」
悟は紙袋の中の本をちらりと見る。
「外国の人なんでしょ? 町とか家とか、食べ物とか、服とかがいっぱい描いてあるやつなら、見てるだけでも面白いんじゃない?」
事情を知っている悟も、ゴンさんたちの前では美緒たちの説明に合わせている。
「確かに」
咲子が頷いた。
「文章を全部読まなくても、絵なら分かること多いよね」
「日本の昔話とかでも面白そう」
美緒も乗ってくる。
「今の町の絵本でもいいし。あ、乗り物とかもいいかも」
「また増やし始めた」
咲子が言う。
「まだ二個しか言ってないよ!」
「美緒の場合、ここから増えるから」
悟が小さく笑った。
「増えそう」
「さとる君まで!」
◇
案が出始めると、美緒の勢いは止まらなかった。
「じゃあ、折り紙とかもよくない?」
「増えた」
「文房具とか!」
「増えたね」
「シール!」
「まだ増えるの?」
「日本のお菓子も――あ、クッキーはもう買ったんだった」
そこまで聞いていた奥さんが、ぱん、と手を叩いた。
「はい、そこまで」
美緒の口が止まった。
「えー」
「最初から何でもかんでも入れたら、きりがないでしょ」
奥さんはテーブルに並んでいる本を指した。
「何が好きか分からないんだったら、いろんなものを少しずつ。それで十分よ」
「でも……」
「気に入ったものがあったら、今度また似たものを送ればいいじゃない」
咲子がすぐに頷く。
「そうですね。その方が、何が好きだったかも分かりますし」
「でしょ?」
「お金も全部使う必要ないしね」
美緒も少し考えて、ようやく頷いた。
「……確かに」
結局、追加するものは絞ることになった。
漫画。
絵本。
ヒーローのカード。
そしてガチャポンの小さなフィギュアを何種類か。
あくまで、少しずつ。
◇
「じゃあ、ガチャポン見に行こうよ」
美緒が言った。
「今から?」
「まだ時間あるし」
近くの商業施設には、ガチャポンがまとまって置かれている場所があるらしい。
言い出したゴンさん本人はというと、厨房へ戻って仕込みを続けている。
「ゴンさんも行かない?」
「店がある」
「一回くらい回したそうだったのに」
「仕事だ」
すると奥さんが、
「場所だけ教えてもらいなさい」
と言った。
ゴンさんは少し残念そうな顔をした――ようにも見えたが、すぐに厨房の奥を指した。
「あそこの商業施設。上の階にかなり並んでる」
「詳しい」
「たまたま知ってるだけだ」
「はいはい」
奥さんは笑っていた。
◇
美緒、咲子、則人、悟の四人で商業施設へ向かった。
そして、目的の場所まで来たところで足が止まる。
「……多くない?」
咲子が呟いた。
壁一面どころではない。
通路の両側に、ずらりとガチャポンが並んでいる。
ヒーロー。
怪獣。
動物。
かわいいキャラクター。
食べ物のミニチュア。
小さな家具。
昔の道具。
正体のよく分からない生き物まである。
「ゴンさんが詳しいわけだ」
美緒が笑った。
「どれにする?」
これだけあると、今度は選ぶ方が難しい。
しばらく四人で見て回り、結局、一つの種類に統一するのはやめた。
かっこいいもの。
かわいいもの。
動物。
少し変わったミニチュア。
それぞれ一、二回ずつ回してみる。
美緒が最初のハンドルを回す。
ガコン。
カプセルが落ちてきた。
「出た!」
開けてみると、中から小さな動物のフィギュアが出てくる。
「かわいい!」
美緒はすぐ気に入ったらしい。
「美緒、それ自分のにしないでよ」
咲子に言われる。
「分かってるって。ちゃんと送るから」
咲子が回したものからは、小さな食べ物のミニチュアが出た。
「細かい……」
「本物みたい」
悟が興味深そうに覗き込む。
悟のカプセルからは、少し変わった動物。
そして則人は迷うことなく、ヒーロー系の機械の前へ向かった。
「やっぱりそれなんだ」
美緒が言う。
「いいじゃん」
則人がハンドルを回す。
ガコン。
カプセルを開く。
中身を見た瞬間、則人の顔が輝いた。
「やった!」
小さなヒーローのフィギュア。
ポーズもしっかり決まっている。
美緒が覗き込む。
「則ちゃん、これ欲しくなってない?」
「……」
則人はフィギュアを見る。
少し間を置いて、
「ちょっと」
と答えた。
全員が笑った。
「でも、これは送る」
則人は名残惜しそうにカプセルへ戻した。
「自分のはまた今度回すから」
「えらいえらい」
「子ども扱いしないでよ」
こうして、形も色もまるで違う小さなフィギュアがいくつか集まった。
誰がどれを気に入るかは、分からない。
むしろ、分からない方が少し面白かった。
◇
そのあと、則人がヒーロー系のカードを選び、悟が漫画と絵本を何冊か候補に選んだ。
高価なものはない。
全部合わせても、前のバザーで残っているお金からすれば大きな負担にはならなかった。
店へ戻り、買ってきたものをテーブルへ並べる。
最初は本だけだった。
そこへ漫画と絵本が加わった。
ヒーローのカード。
そして、色も形もばらばらなガチャポンの小さなフィギュア。
美緒はそれらを眺めて、思わず笑った。
「なんか、福袋みたいになったね」
「最初の予定よりかなり増えたけどね」
咲子も苦笑する。
奥さんが一つずつ確認してから言った。
「はい。これで本当に終わり」
「えー、あと一個くらい――」
「終わり」
「はい」
美緒は今度こそ諦めた。
則人はカードの箱を手に取った。
「これ、ちゃんと遊び方分かるかな」
悟が隣から覗く。
「分からなかったら、絵だけ見てもいいんじゃない?」
「そっか」
「最初はそれでいいんだよ」
美緒も言った。
「何が好きなのか、まだ分かんないんだから」
咲子は、テーブルの上に並んだものをゆっくり眺めた。
下界では、どれも特別なものではない。
本屋へ行けば本がある。
漫画も絵本も、珍しくない。
カードで遊ぶ子どももいる。
商業施設へ行けば、数百円でガチャポンを回せる。
けれど、それをほとんど知らない人たちへ見せたら、どう見えるのだろう。
何を面白がるのだろう。
何を気に入るのだろう。
「ちょっと楽しみになってきた」
咲子が言うと、美緒もすぐ笑った。
「でしょ?」
本だけだった荷物は、いつの間にかずいぶん賑やかになっていた。
あとはクッキーと一緒にまとめて、届けるだけ。
そして、その中の何が誰の目に留まるのか。
それは、まだ誰にも分からなかった。
――つづく。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




