第2話 本をカタログにしよう
第2話 本をカタログにしよう
「……いっぱいある」
休日の昼過ぎ。
大きな書店へ入った美緒は、入口近くに高く積まれた新刊や、その奥までずらりと続く本棚を眺めて、思わず足を止めた。
妖怪たちへ送る本を選ぶ。
そう決めたときには簡単そうに思えたのだが、いざ何千、何万という本を前にすると、どこから手をつければいいのか分からなくなる。
「そりゃ、本屋なんだからいっぱいあるでしょ」
隣で咲子が笑う。
「分かってるけどさ。『何でも選んでいいよ』ってなると、逆に難しくない?」
「美緒が好きな本を選ぶわけじゃないからね」
「分かってるって」
そう言った直後、美緒の目が一点で止まった。
ファッション誌が並んでいる。
「あ、朱雀さん!」
迷っていたのが嘘のように、美緒はそちらへ歩き出した。
「結局そこからなんだ」
咲子も苦笑しながら後を追った。
◇
「これ絶対好き!」
美緒は一冊目を手に取った。
少し派手な服を着たモデルが、鮮やかな表紙いっぱいに写っている。
「あと、こっちもいいな。これもかわいいし……あ、これも!」
一冊。
二冊。
三冊。
咲子が横で眺めている間にも、美緒の腕の中へ雑誌が増えていく。
「美緒」
「ん?」
「何冊買うつもり?」
言われて初めて、美緒は自分の腕の中を見た。
「……五冊」
「しかも似た感じのが多くない?」
「だって、かわいいじゃん」
「美緒が読む本じゃないよ」
「朱雀さんも好きそうだもん」
「そうかもしれないけど、違うのが好きかもしれないでしょ」
美緒は、もう一度表紙を見比べた。
言われてみれば、自分が普段見ている服に近いものばかり選んでいた。
朱雀は下界の服そのものを、まだほとんど知らない。
なら、最初から一つの系統だけを見せるより、いろいろ見てもらった方がいい。
「じゃあ、種類変えようか」
一度ほとんどを棚へ戻し、改めて探し始める。
普段着に近い服。
少し大人っぽい服。
色の組み合わせが多く載っているもの。
和風の要素を取り入れたもの。
服だけでなく、バッグや靴、小物まで一緒に紹介しているもの。
「こういう方がいいかも」
美緒はページをめくりながら頷いた。
「朱雀さんが見て、『これ!』って言えるし」
「カタログ代わりなら、いろんな種類があった方がいいね」
「よし。じゃあ、こっち」
今度は咲子も一緒に選び、数冊まで絞り込む。
その途中、美緒がアクセサリーの本を見つけた。
髪飾りやネックレス、ブレスレット。布小物やバッグまで、写真付きでいろいろ紹介されている。
「あ、これ天女さんにもよくない?」
「天女さんも見るだろうね」
「絶対好きそう。こういう髪飾りとか」
咲子も中を覗き込む。
「でも、向こうに同じ材料があるとは限らないよ」
「別に作らなくてもいいじゃん」
美緒はページをめくりながら、何気なく言った。
「見るだけでも楽しいし。欲しいのがあったら教えてもらえばいいしさ」
「それもそうだね」
二人は、それ以上深く考えなかった。
まさか、その本を見た天女たちが「作れないなら、こちらにあるもので作ればよい」と考え始めることになるとは、まだ知るはずもなかった。
◇
次に向かったのは、小説や一般書の棚だった。
ところが、こちらはファッション誌よりも難しかった。
「……青龍さん、一番困るかも」
美緒が棚を見上げる。
「なんで?」
「だって、『本ならいろいろ読みたい』って言われても、いろいろありすぎるじゃん」
「確かに」
目の前には、小説だけでも数え切れないほどの作品が並んでいる。
恋愛。
ミステリー。
歴史。
冒険。
日常もの。
そこから少し離れれば、写真集や雑学本、実用書まである。
美緒は適当に一冊手に取った。
「恋愛小説とか読むかな?」
「青龍さんが?」
「意外と好きかもしれないよ」
「分からなくはないけど……」
「じゃあミステリー?」
「それだけ送って、全然興味なかったら困るでしょ」
また別の本を取る。
そして戻す。
二人でしばらく棚の前を行き来した末に、美緒が先に諦めた。
「もう、いろいろにしよう」
「いろいろ?」
「小説も何種類か。あと写真が多いやつとか、今の暮らしが分かりそうなのとか。雑学の本とか」
咲子も納得する。
「最初なんだし、その方がいいかもね」
「それで青龍さんが『これが面白かった』って言ったら、次は似た本を選べばいいし」
「うん。最初から好みを当てようとしなくていいんだね」
「そういうこと」
美緒は得意げに胸を張った。
咲子がちらりと見る。
「今のはいい考えかも」
「もっと褒めていいよ」
「調子に乗りそうだからやめとく」
「なんで!」
小声で言い合いながらも、二人は楽しそうに数冊を選んだ。
◇
白虎向けの本を探すため、スポーツコーナーへ移る。
ここでは、美緒より咲子の方が明らかに動きが早かった。
「野球なら、これじゃない?」
美緒が有名選手の大きな写真が載った雑誌を手に取る。
咲子は中身を確認して、首を振った。
「これは選手の記事が中心かな」
「野球の本じゃん」
「そうだけど、白虎さんって野球そのものをほとんど知らないでしょ?」
「ああ。そっか」
「だったら、先に基本が分かる方がいいと思う」
咲子が初心者向けの棚を探す。
しばらくして見つけたのは、写真や図をたくさん使って野球を説明している本だった。
バット。
ボール。
グローブ。
塁。
守備位置。
打ち方や投げ方だけでなく、試合の流れや基本的なルールも紹介されている。
「こっちの方がいい」
「おお……」
美緒が感心したように覗き込む。
「さっちゃん、スポーツになると急に先生っぽい」
「急にって何」
「でも、これ白虎さんに見せたら絶対やりたがるよ」
咲子も、本の中のバットやグローブを見る。
そして、少しだけ想像した。
「……やりそう」
「でしょ?」
「たぶん、本を読むだけでは終わらないね」
その一言に、美緒が笑った。
「周りの妖怪まで巻き込みそう」
「それもありそう」
二人は野球の本に加えて、格闘技についても一冊選ぶことにした。
こちらも、有名選手の紹介ではなく、構えや基本動作などが写真で分かる初心者向けのもの。
白虎が喜ぶ顔は簡単に想像できた。
その先で何が始まるのかまでは、まだ想像できなかったけれど。
◇
そして最後に向かったのが、料理とお菓子のコーナーだった。
「ここ大事!」
美緒が急に元気になる。
「クッキーの本!」
「美緒、自分が食べたいだけじゃない?」
「それもあるけど、ちゃんと向こうに送るためだから」
表紙にたくさんのクッキーが並んだ本を見つけ、美緒はすぐに手に取った。
ページを開くと、同じクッキーでも驚くほど種類がある。
丸いもの。
四角いもの。
木の実を混ぜたもの。
果物を使ったもの。
間にジャムを挟んだもの。
「クッキーって、こんな種類あるんだ」
「買うときはあんまり意識しないもんね」
「これとか美味しそう」
美緒が指したのは、赤いジャムを挟んだ焼き菓子だった。
「向こうで作ってくれないかな」
「やっぱり食べたいだけじゃん」
「食べてみたいじゃん」
クッキーだけではなく、いろいろな菓子が載っている本も探す。
ケーキ。
パン。
焼き菓子。
果物を煮たジャム。
さらに、普段の料理まで幅広く載っている本も一冊選んだ。
咲子が材料のページを見ながら、ふと呟く。
「でも、向こうに同じ材料ってあるのかな」
「似たようなの使えば何とかなるんじゃない?」
美緒は軽く答えた。
「そんな簡単?」
「料理って、ちょっと材料違っても何とかなるでしょ」
「美緒、普段料理する?」
「……そこは今関係ない」
「あると思うけどな」
ページをめくっていく。
小麦粉。
砂糖。
バター。
卵。
そして調理手順には、
『予熱したオーブンで焼く』
と書かれている。
二人の目も一度その文字の上を通った。
けれど、それ以上の意味は持たなかった。
オーブン。
下界で暮らしていれば、珍しくもない言葉だ。
それが上界では、一つ目の大きな壁になることなど、二人には想像もつかなかった。
「写真多いし、これなら分かりやすそう」
「うん。これにしよう」
本が一冊、また買い物かごへ加わった。
◇
ひと通り選び終える頃には、かごの中はかなり重くなっていた。
ファッション誌。
アクセサリーや小物の本。
小説や読み物。
野球と格闘技。
料理とお菓子。
美緒は並んだ本を見て、少し不安そうな顔をした。
「……これ、買いすぎた?」
「一回計算してみようか」
咲子がスマートフォンを取り出し、おおよその合計を出す。
冊数だけを見れば、それなりの量だ。
だが、前回のバザーで得た売上金から考えれば、ほんの一部でしかなかった。
「大丈夫。これくらいなら全然余裕あるよ」
「こんなに買っても?」
「うん。クッキー代と合わせても、まだかなり残る」
「……バザーってすごいね」
美緒は少し驚いたように言った。
最初は、妖怪たちが作ったものを本当に人間が買ってくれるのかさえ分からなかった。
値段を決めるときも、売れ残ったらどうするのかと心配していた。
それが今は、その売上でこうして下界のものを上界へ届けようとしている。
咲子も同じことを思ったのか、積まれた本を眺めて少し笑った。
「前回、みんな頑張って作ってたからね」
「じゃあ、服も買えるじゃん」
「だから、それはいったん本を見てもらってから」
「あ、そうだった」
「欲しいものを選んでもらう。値段を調べる。それから考える」
「朱雀さんが十万円の服選んだら?」
「買わない」
即答だった。
美緒が吹き出す。
「早い!」
「当たり前でしょ」
「でも朱雀さん、普通に『これがよい』って言いそう」
「だから最初に予算のことも説明しないとね」
「夢がないなあ」
「夢だけでお金は増えません」
どこかで聞いたような言葉に、美緒は笑った。
◇
会計を済ませて外へ出る頃には、午後の日差しも少し傾き始めていた。
二人の手には、ずっしりと本の入った紙袋。
美緒はその重さを確かめるように持ち直した。
「これだけあれば、しばらく楽しめるよね」
「うん。読むだけでも結構かかりそう」
「クッキーもあるし。かなり豪華じゃない?」
「最初に送るものとしては十分だと思う」
咲子の言葉に、美緒も頷いた。
けれど、しばらく歩いてから、もう一度紙袋を見下ろした。
「……でもさ」
「今度は何?」
「本ばっかりなんだよね」
咲子も自分の持っている袋を見る。
確かに、いろいろなジャンルを選んだ。
写真も多い。
下界の服や食べ物、遊び方まで知ることができる。
それでも、全部「読むもの」には違いない。
美緒は少し首を傾げた。
「せっかく下界から送るなら、もっと違うものが一個二個あっても面白くない?」
「例えば?」
「それが思いつかないんだけど」
「思いついてないんだ」
「だからさ」
美緒は少し考えてから顔を上げた。
「ゴンさんたちにも聞いてみない?」
「ゴンさんたち?」
「うん。ゴンさんとか、奥さんとか。則ちゃんとか、さとる君とか」
咲子がなるほど、と頷いた。
「私たちだけで考えると、服と本と食べ物に偏ってるもんね」
「でしょ? 男の人とか、小学生とかだったら、全然違うの思いつくかもしれないし」
「それはありそう」
「じゃあ決まり!」
美緒の足取りが少し軽くなった。
「このまま店寄ろうよ」
「今日はバイトじゃないけどね」
「いいじゃん。相談するだけだし」
紙袋の中では、これから上界へ向かう本たちが揺れていた。
ファッション。
物語。
料理。
スポーツ。
二人が選んだだけでも、下界にはこれだけ違うものがある。
そして、その箱にはまだ少しだけ空きがあった。
次にそこへ何が入るのか。
それを決めるのは、美緒と咲子だけではない。
二人はそのまま、ゴンさんの店へ向かった。
――つづく。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




