第1話 クッキーだけじゃ終わらない?
第1話 クッキーだけじゃ終わらない?
最初のバザーが終わってから、もう一か月ほどが経っていた。
あれだけ慌ただしかった準備の日々も、当日の賑わいも、少しずつ思い出になり始めている。
けれど、あのバザーにはまだ一つ、終わっていない話があった。
「それで、皆様へのお礼のことなのですが……」
その日の夕方。
ゴンさんの店での仕事を終えた美緒と咲子が外へ出ると、少し人通りの少ない場所で天女が待っていた。
「あ、お疲れさま!」
「お疲れさまです、美緒様、咲子様」
天女が丁寧に頭を下げる。
美緒は頭につけた猫耳に軽く触れながら、すぐに話の内容を思い出した。
「あ。クッキーのこと?」
「はい」
天女が嬉しそうに頷く。
それは、バザーが終わったあとに玄武から出た案だった。
品物を作った者。
運ぶのを手伝った者。
準備のために動いた者。
今回のバザーに関わった妖怪たち全員へ、安価でも構わないから何かお礼を渡そう。
そういう話になり、候補として決まったのが下界のクッキーだった。
「ようやく決められそうだね」
咲子も頷く。
「人数は分かった?」
「はい。だいたいではありますが、確認して参りました」
天女から聞いた人数をもとに、咲子がスマートフォンを取り出して簡単に計算する。
その横から、美緒が画面を覗き込んだ。
「せっかくだったら、ちゃんと美味しいのがいいよね」
「もちろん。それはそうだけど」
「あと、箱もかわいい方がいいし」
「全員分なんだから、まず値段ね」
「さっちゃん、夢がない」
「夢で予算は増えないから」
「でもさ、妖怪のみんなが楽しみにしてるんだよ?」
「だからこそ、ちゃんと全員に行き渡るようにするの」
美緒は口を尖らせたものの、反論はしなかった。
天女は、そんな二人のやり取りを楽しそうに見ている。
「では、お願いしてもよろしいでしょうか?」
「もちろん!」
美緒が即答した。
「任せて。絶対いいの探すから!」
「美緒が暴走しないように、私も一緒に行くね」
「さっちゃん、それどういう意味?」
「そのままの意味」
こうして二人は、後日クッキーを選びに行くことになった。
◇
「これ!」
菓子売り場へ着くなり、美緒が一箱を持ち上げた。
色とりどりの小さなクッキーが並び、箱にも洒落た模様が描かれている。
「これ絶対いい!」
咲子は箱を見るより先に、値札を見た。
「却下」
「早っ!」
「一箱なら別にいいけど、これを人数分買ったら結構するよ」
「でも箱かわいいよ?」
「箱は食べないから」
「そういう問題じゃないでしょ。もらったときのテンションが違うじゃん」
「だからって、箱代に売上を使いすぎるのも違うでしょ」
美緒は渋々その箱を戻した。
それから二人は、売り場を端から端まで見て回った。
個包装のもの。
一箱にたくさん入っているもの。
数種類の味が楽しめるもの。
見た目は地味だが評判のいいもの。
逆に、美緒が箱を見ただけで飛びつき、咲子が値札を見て戻させたもの。
「これもかわいい!」
「高い」
「こっちは?」
「量が少ない」
「じゃあこれ!」
「美緒、自分が食べたいだけじゃない?」
「それもある」
「認めるんだ」
途中からは、美緒も一枚あたりの値段を見るようになった。
それでも見た目へのこだわりは捨てない。
最終的に二人が選んだのは、個包装で何種類かの味が入り、値段も高すぎず、それなりに見栄えもするものだった。
「これなら、みんなにちゃんと渡せるね」
咲子が必要数を確認する。
「うん。見た目も悪くないし、美味しそう」
美緒も満足そうだった。
「じゃあ、これで決まりかな」
必要な量と金額を確認し、二人は売り場を離れた。
そして。
店を出たところで、美緒がふと足を止めた。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「ちょっと待って」
美緒が売上の記録を確認する。
クッキー代を差し引いてみる。
もう一度見る。
「……やっぱり」
「何?」
「これ、めちゃくちゃ残るんだけど」
咲子も横から覗き込んだ。
「そりゃ残るよ」
「いや、残るとは思ってたけど……こんなに?」
前回のバザーでは、千円前後の小物やアクセサリーがかなり売れた。
二千円を超えるものも予想以上に手に取ってもらえたし、それより高い品が売れた例もある。
すべて完売したわけではない。
それでも、初めて参加したバザーとしては十分すぎるほどの売上だった。
クッキーをまとまった数だけ購入しても、使ったのは全体の一部にすぎない。
美緒は数字を眺めながら首をかしげた。
「じゃあ……残り、どうする?」
「別に無理して全部使わなくてもいいんじゃない?」
「それはそうだけど」
美緒は少し考える。
「でも、みんな欲しいもの言ってたよね」
「言ってたね」
二人は、以前上界で出た話を思い出した。
朱雀は服やファッション関係。
青龍は本。
白虎は格闘技用品や野球関係。
美緒の顔がぱっと明るくなる。
「じゃあ朱雀さんの服買おう!」
咲子がすぐに返した。
「何を?」
「え?」
「どんな服が欲しいの?」
「……かわいいやつ?」
「それ、美緒の好みでしょ」
「かわいいのは正義だよ?」
「朱雀さんが同じものをかわいいと思うとは限らないでしょ。それにサイズは?」
「……知らない」
「でしょ」
美緒は少し考えてから、今度は別の案を出した。
「じゃあ白虎さんのグローブ!」
「サイズ」
「……バット!」
「長さとか重さとか、好みあるんじゃない?」
「めんどくさい!」
「下界の商品をほとんど見たことない相手に、こっちの判断だけで買う方が難しいでしょ」
言われてみれば、その通りだった。
欲しいものの大まかな種類までは分かる。
けれど、実際にどの商品が欲しいのかまでは分からない。
服も、道具も、種類が多すぎる。
美緒は腕を組み、しばらく考えながら歩いた。
そして、ふと手に持っていたクッキーの袋へ目を落とした。
「……でもさ」
「何?」
「これ送るんでしょ?」
「うん」
「向こうで食べたら、『自分たちでも作ってみたい』って言う人、いそうじゃない?」
咲子もクッキーの袋を見る。
少し考えたあと、
「……いそう」
と答えた。
前回のバザーでも、妖怪たちは人間向けの商品を作るためにずいぶん試行錯誤していた。
最初は人間が何を喜ぶのかさえ分からなかったのに、途中からは自分たちなりに工夫し始めた。
人間のものを見て、
「これはどう作るのか」
と興味を持つ者がいても不思議ではない。
「でしょ?」
美緒が嬉しそうに笑う。
「だったら、お菓子の作り方が載ってる本も一緒に送らない?」
「料理本?」
「そうそう。クッキーだけじゃなくて、ケーキとか、ジャムとか、いろいろ載ってるやつ。写真がいっぱいある方が分かりやすそう」
「それなら、食べて終わりじゃなくて、向こうでも楽しめそうだね」
「でしょ!」
美緒は満足そうに頷いた。
そして数歩進んだところで、また急に立ち止まった。
「待って」
「今度は何?」
「本でいいんじゃない?」
咲子が首をかしげる。
「何が?」
「朱雀さんも!」
美緒の中で、何かが一気につながったらしい。
「服そのものをいきなり買わなくても、ファッション誌とか送ればいいじゃん」
「ああ」
「それ見て、『これが欲しい』って選んでもらえば、私たちがこっちで値段調べられるし」
咲子も納得したように頷く。
「確かに。それならサイズとかも、あとで確認できるね」
「白虎さんだって、スポーツの本とか野球の本とか送ればいいよ。どんな道具があるかも載ってるでしょ?」
「ルールも分かるだろうしね」
「青龍さんは、そもそも本が欲しいって言ってたし」
「小説とか、いろんな種類を何冊か入れてもよさそう」
「ほら!」
美緒が得意げに両手を広げた。
「全部、本でいける!」
「全部ではないけど、最初に送るものとしてはいいかもね」
咲子も笑った。
いきなり高価な服や道具を買うのではなく、まず本を送る。
読んでもらう。
下界にどんなものがあるのか知ってもらう。
欲しいものが見つかったら、そこから値段を確認する。
買える範囲なら、残してある売上金から購入すればいい。
本なら何冊か買ったところで、それほど大きな出費にもならない。
「じゃあ決まり!」
美緒はもう次の買い物のことを考え始めていた。
「ファッション誌でしょ。アクセサリーの本、お菓子の本、料理本。あと野球と格闘技、それから小説も何冊か――」
「美緒」
「何?」
咲子の声が少し変わった。
美緒が振り向く。
咲子は何かを思い出したような顔をしていた。
「そういえば、次のバザーっていつだっけ?」
「え?」
「二か月後だったよね」
「うん」
「前のバザーから、もう一か月くらい経ってるよ」
美緒の動きが止まった。
「……」
「つまり」
咲子が続ける。
「次のバザーまで、あと一か月くらい」
数秒の沈黙。
美緒が、ゆっくりと咲子を見る。
「……え?」
「あと一か月」
「待って」
「うん」
「本選んでる場合でもあるけど」
「あるけど?」
「次に売るものも決めなきゃじゃん!」
「そういうこと」
「忙しくない!?」
美緒の声が夕方の道に響いた。
咲子は苦笑する。
「前回よりは慣れてるでしょ」
「でも今回は、まだ何売るかも決まってないよ!」
「だから、これから考えるんでしょ」
「一か月で!?」
美緒はクッキーの袋を抱えたまま、空を仰いだ。
妖怪たちへのお礼を考えていただけだったはずなのに、話はいつの間にか次のバザーまで転がり始めている。
そして、このときの二人はまだ知らなかった。
これから上界へ送る数冊の本が、料理にも、服にも、遊びにまで広がって。
次のバザーの商品どころか、妖怪たちの間に思いがけない流行まで生み出すことを。
――つづく。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
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企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




