↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/84

第四話「ちょっとだけ手伝う」

ある女子中学生の場合

第四話「ちょっとだけ手伝う」


「今」


「無理!」


「何で?」


「心の準備ができてない!」


「昨日、やるって言ったよね?」


「言ったけど!」


 朝の昇降口。


 女子中学生は靴を履き替えながら、足元にいる猫のようなものと言い争っていた。


 少し先には、気になっている男子が一人で立っている。どうやら友達を待っているらしく、今なら確かに話しかけやすそうだった。


「ほら、今なら一人だよ」


「見れば分かる!」


「じゃあ行けば?」


「簡単に言わないでよ……」


 女子中学生は靴箱の陰から男子を見る。


 昨日、自分で頼んだのだ。話しかけやすいときがあったら教えてほしい、と。


 猫は約束どおり、その機会を教えてくれた。


 あとは自分が動くだけなのだが、それが一番難しい。


「何を話せばいいの?」


「おはよう、でいいんじゃない?」


「それだけ?」


「朝だから」


「そうだけど……」


 このまま迷っているうちに、男子の友達が来てしまうかもしれない。


 女子中学生は一度だけ深く息を吸った。


「……分かった」


 靴箱の陰から出る。


「あ、あの!」


 男子が振り返った。


「ん?」


「……おはよう」


「おはよう」


「…………」


「…………」


 終わった。


 何も続かない。


「じゃ、じゃあね!」


「うん。また教室で」


 女子中学生は逃げるようにその場を離れた。


 角を曲がったところで壁に背中をつけ、大きく息を吐く。


「無理……」


「できたじゃん」


「挨拶だけ!」


「でも話しかけたよ」


「もっと普通に話したかったの!」


「普通だったよ」


「私の中では普通じゃないの!」


 猫のようなものは、本気で不思議そうに首を傾げた。


「人間って難しいね」


「あなたは簡単そうでいいよね!」


「ぼく、別に好きな人いないから」


「それ今言う!?」


     ◇


 昼休み。


 気になっている男子が数人の友人と教室を出ていく。


「行かないの?」


 足元から猫の声がした。


「どこに?」


「あの子のところ」


「友達と一緒じゃん」


「じゃあ今はやめれば?」


「…………」


「何?」


 女子中学生は少し意外に思って猫を見る。


「止めることもあるんだ」


「だって、今は話しかけにくそうだから」


 てっきり男子を見つけるたびに「行け」と言われるのだと思っていた。


「何でも話しかければいいってわけじゃないんだ」


「嫌がられたら仲良くなれないでしょ」


「……意外とちゃんと考えてる」


「失礼だなあ」


「ごめん」


 猫は人間の恋愛に詳しいわけではない。


 相手の心が読めるわけでもなければ、誰かの気持ちを変える力があるわけでもない。


 ただ、周囲を見ている。


 一人なのか。忙しそうなのか。今なら話しかけても大丈夫そうなのか。


 緊張していると女子中学生自身が見落としてしまう、そんな小さなことを横から教えてくれる。


 それだけだった。


 けれど彼女には、その「それだけ」がありがたかった。


     ◇


 次の機会が来たのは放課後だった。


「今ならいいんじゃない?」


「え?」


 教室にはまだ何人か残っている。


 気になっている男子は、自分の席で鞄へ教科書を入れていた。


「一人だよ」


「見れば分かる」


「じゃあ行けば?」


「簡単に言わないでよ……」


「朝もできたよ」


「おはようって言っただけ!」


「でもできた」


 女子中学生は少し黙った。


 確かにそうだ。


 昨日までなら、それすら迷っていたかもしれない。


「……何話そう」


「ぼくに聞かれても」


「手伝うって言ったじゃん」


「話すことまでは考えてないよ」


「役に立たない!」


「ひどい」


 そのとき、男子の鞄から一冊の本が見えた。


「あ」


 見覚えがある。


 以前、二人とも好きだと分かった本だった。


「……あれなら」


 今度は猫に教えてもらったわけではない。


 自分で見つけた。


 女子中学生は少し迷ってから、男子の席へ向かった。


「あのさ」


「ん?」


「それ、この前言ってた本?」


「ああ、これ?」


 男子が鞄から本を出す。


「そう。読み直してる」


「やっぱり好きなんだ」


「うん。そっちも好きって言ってたよね?」


「覚えてたの?」


「この前話したじゃん」


「あ……うん」


 自分との会話を覚えていてくれた。


 それだけで嬉しくなる。


「続きも読んだ?」


「読んだよ」


「どうだった?」


「私は――」


 そこからは、自然に話が続いた。


 好きな場面や気になった登場人物、続きについての感想。最初は何を話せばいいのか分からなかったのに、共通の話題が一つあるだけで言葉は思った以上に出てくる。


 気づけば数分が過ぎていた。


「じゃあ、また明日」


 男子が言う。


「うん。また明日」


 女子中学生は教室を出た。


 廊下では、猫のようなものが待っている。


「いっぱい話せたね」


「……うん」


「よかったじゃん」


「うん!」


 今度は素直に頷けた。


     ◇


 それから何日か。


 猫のようなものは、約束どおり小さなきっかけを教えてくれた。


「今、一人だよ」


「今日は無理!」


「じゃあやめる?」


「……やっぱり行く」


 そんな日もあれば、


「今日は急いでるみたい」


「じゃあ話しかけない」


「うん」


 と、何もしない日もある。


 何でもかんでも背中を押すわけではない。


 話しかけやすそうなら教える。難しそうなら、それも教える。


 そして最後にどうするかを決めるのは、いつも女子中学生自身だった。


 勇気が出ずに行けない日もある。


 声をかけても、ほとんど話が続かない日もある。


 逆に、何気なく話しかけただけなのに、思った以上に会話が弾むこともあった。


 そんな日々を繰り返しているうちに、いつしか猫に教えてもらわなくても、自分から声をかけられることが増えていた。


     ◇


「ねえ」


 ある日の帰り道。


 猫のようなものが声をかけてきた。


「何?」


「あそこ」


 少し先を、気になっている男子が一人で歩いている。


「今なら話せるよ」


「…………」


「行かないの?」


 女子中学生は男子の後ろ姿を見る。


 以前なら、ここで何度も迷っただろう。


 何を話そう。


 迷惑ではないか。


 変に思われないか。


 そんなことばかり考えて、結局何もしないまま終わっていたかもしれない。


「……行ってくる」


「うん」


 女子中学生は足を速めた。


「あの!」


 男子が振り返る。


「あれ? 今帰り?」


「うん」


「俺も」


「……途中まで一緒に帰っていい?」


 言った。


 言ってしまった。


 心臓が一気に速くなる。


「いいよ」


「……ほんと?」


「帰る方向、途中まで同じでしょ?」


「う、うん!」


 二人で並んで歩き始める。


 何を話したのか、あとになったら半分くらいしか覚えていなかった。


 学校のこと。


 例の本のこと。


 先生のこと。


 どれも特別な話ではない。


 それでも、二人で帰ったということだけは、たぶんしばらく忘れない。


 途中で一度だけ後ろを見る。


 猫のようなものが少し離れたところから、こちらを見ていた。


 何かをしたわけではない。


 ただ、小さく前足を上げる。


 女子中学生も男子に気づかれないよう、ほんの少し手を振り返した。


     ◇


「ただいま」


 家へ帰り、自分の部屋へ入る。


 鞄を置いた瞬間、女子中学生はベッドへ倒れ込んだ。


「疲れたぁ……」


「楽しかった?」


「……うん」


「ならよかった」


 猫のようなものが床へ座る。


 女子中学生はしばらく枕へ顔を埋めていたが、やがて身体を起こし、鞄についているアクセサリーを見た。


「ねえ」


「何?」


「これ……ほんとに願い叶えてるのかな」


「何で?」


「だって、これ買ってからちょっとずつ仲良くなってるし」


「でも、まだ付き合ってないよ」


「そこまでは言ってない!」


「仲良くなりたいってお願いだったでしょ?」


「……そうだけど」


「じゃあ、少し叶ってる?」


「だから聞いてるの!」


 猫のようなものは首を傾げた。


「ぼくには分からないよ」


「あなた、こういう不思議なものに詳しくないの?」


「ぼくが作ったんじゃないし」


「またそれ!」


 二人で笑う。


 少しして、猫のようなものが言った。


「でも、今日、一緒に帰ろうって言ったのは君だよ」


「……うん」


「本の話をしたのも君」


「うん」


「朝、挨拶したのも君」


「それはあなたが教えてくれたからでしょ」


「ぼくは『今なら話せそう』って教えただけ。話したのは君だよ」


「…………」


 女子中学生はアクセサリーを見る。


 確かにそうだった。


 これを買ってから、少しだけタイミングのいい偶然が増えたような気はする。


 猫に教えてもらったこともたくさんある。


 けれど、最後に声を出したのは自分だった。


「じゃあ、これのおかげじゃない?」


「知らない」


「もう!」


「でも、きっかけは増えたんじゃない?」


「きっかけ?」


「前より、あの子と一緒になること多いでしょ」


「……うん」


「ちょっと運がいいのかもね」


「あなたが何かしてるんじゃないの?」


「ぼく?」


「招き猫っぽいし」


「ぼく、何もしてないよ。話しかけやすそうなとき教えてるだけ」


「そっか……」


 それなら、猫が奇跡を起こしているわけではない。


 アクセサリーが男子の気持ちを変えているわけでもない。


 ただ以前よりほんの少し、都合のいい偶然が重なっている。


 猫はその中にある小さな機会を見つけて教えてくれる。


 そして、それをつかむかどうかは自分で決める。


 きっと、それくらいなのだ。


     ◇


 その夜。


 いつものようにアクセサリーを枕元へ置く。


「今日はお願いしないの?」


 猫のようなものが聞いた。


「うん」


「もう仲良くならなくていいの?」


「そうじゃなくて」


 女子中学生は少し考えてから答えた。


「明日、自分で話しかけてみる」


「そっか」


「でも、チャンスあったら教えてね」


「結局ぼくも手伝うんだ」


「いいじゃん」


「いいけど」


 二人で笑った。


 女子中学生は布団へ入り、目を閉じる。


 願い事が叶ったのかどうかは、まだ分からない。


 アクセサリーのおかげなのか。


 偶然なのか。


 猫の助言なのか。


 それとも、自分が少しだけ勇気を出せるようになったからなのか。


 きっと、一つだけではない。


 ただ一つ確かなのは、願いを口にするだけだった彼女が、今では自分から一歩を踏み出し始めていることだった。


 そして枕元には、明日もまた小さなきっかけを教えてくれるかもしれない、猫のような友達がいた。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。