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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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第二話「猫がしゃべった」

ある女子中学生の場合

第二話「猫がしゃべった」


「何!? 何なの!?」


 女子中学生は布団を頭までかぶったまま、しばらく動けずにいた。


 さっきの声は夢だった。そう思いたいのに、耳にはあまりにもはっきりと言葉が残っている。


『明日もお願いするだけ?』


 家族の声ではなかった。テレビもついていないし、スマートフォンから流れた音でもない。


 何より、声は枕元のすぐ近くから聞こえた。


「…………」


 布団の端を少しだけ持ち上げて、暗い部屋を覗いてみる。


 机も椅子も、鞄もカーテンも、いつもと変わらない。枕元には、バザーで買ったアクセサリーが置かれているだけだった。


「……やっぱり夢?」


 恐る恐る布団から顔を出してみたが、返事はない。


 眠りに落ちる直前だったのだから、夢と現実が混ざったのだろう。


「そうだよね……」


 そう思うことにして、もう一度横になった。


 けれど、すぐには眠れない。


 枕元のアクセサリーが気になって、何度も目を向けてしまう。


「……お願いするだけじゃ駄目って、何なの」


 小さく呟いてみた。


 今度は何も聞こえなかった。


 少し安心したような、それなのにほんの少しだけ拍子抜けしたような、何とも言えない気持ちになる。


「もう寝よ……」


 布団を鼻のあたりまで引き上げ、女子中学生はそのまま、いつの間にか眠りに落ちていった。


     ◇


 翌朝。


 目覚まし時計が鳴る少し前に目を覚ました。


「ん……」


 まだ眠い。


 身体を起こし、ぼんやりと枕元を見る。


 最初に目に入ったのは、昨夜置いたアクセサリーだった。


 そして、そのすぐそば。


「おはよう」


「…………」


 何かいる。


 女子中学生は瞬きをした。


 まだいる。


「おはよう」


 今度は、その何かが口を動かした。


「…………猫?」


「猫じゃない」


「…………」


 眠気が一瞬で吹き飛んだ。


 猫。


 いや、猫のような何かだった。


 大きさは普通の猫とそれほど変わらない。耳もあるし、尻尾もある。


 けれど、身体の模様もどこか妙で、座り方まで妙に人間臭い。


 何より――しゃべっている。


「猫がしゃべったぁぁぁ!」


「だから猫じゃないって!」


 女子中学生は反射的に枕をつかみ、そのまま猫のようなものへ投げつけた。


「危ない!」


 それは慌てて飛び退く。


 枕はその横を抜け、床へ落ちた。


「何で投げるの!」


「何でしゃべるの!」


「しゃべったら駄目なの?」


「猫はしゃべらない!」


「だから猫じゃないって」


「じゃあ何なの!?」


「何って……」


 猫のようなものは、自分の身体を見下ろした。


「ぼくは、ぼくだけど」


「そういうこと聞いてない!」


 女子中学生はベッドの上から、その姿をまじまじと見る。


 どう見ても猫に近い。


 けれど本人が猫ではないと言うのなら、ほかに思いつくものは――。


「……もしかして、妖怪?」


「妖怪?」


 今度は向こうが首を傾げた。


「違うの?」


「うーん」


 猫のようなものは少し考えてから答えた。


「人間はぼくらを妖怪って呼んでるみたいだから、たぶんそうじゃない?」


「何で疑問形なの?」


「ぼく、自分のこと妖怪って呼ばないから」


「じゃあ何て呼ぶの?」


「ぼく」


「そうじゃなくて!」


 朝から頭が痛くなってきた。


「人間って難しいね」


「こっちの台詞だよ!」


     ◇


 床へ落ちた枕を拾おうとして、女子中学生は手を止めた。


 枕のすぐそばに、猫のようなものがいる。


「……ちょっとどいて」


「何で?」


「枕取れないから」


「取ればいいじゃん」


「そこにいるでしょ!」


「ぼくが?」


「そう!」


「じゃあ、どけばいい?」


「急に動かないで!」


「どっち!?」


「ゆっくり!」


「注文多いなあ……」


 猫のようなものが、そろそろと枕から離れていく。


 女子中学生はそれをじっと見届けてから、ようやく床の枕を拾った。


「もう投げないでよ」


「……たぶん」


「たぶん!?」


 枕を抱えたまま、女子中学生はベッドの端へ座った。


 猫のようなものも少し離れた床へ座る。


 しばらく互いに見つめ合った。


「……ほんとにいる」


「いるよ」


「夢じゃない?」


「ぼくからしたら夢じゃないけど」


「じゃあ夢じゃないって言ってよ!」


「でも、君が夢を見てるかどうかまでは分からないし」


「変なところで理屈っぽい!」


 怖い。


 間違いなく怖いはずなのに、会話を続けていると妙に調子が狂う。


 少なくとも、今すぐ自分を襲おうとしているようには見えなかった。


     ◇


「でもさ」


 少し落ち着いたところで、女子中学生が聞いた。


「妖怪って、みんなあなたみたいなの?」


「知らない」


「知らないの?」


「いろんなのがいるから」


「じゃあ、あなたみたいな猫っぽいのは?」


「猫じゃないって」


「猫っぽいの!」


「それなら、ほかにもいるよ」


「いるんだ……」


 猫のようなものは、何かを思い出したように続けた。


「ぼくの友達なんか、人間から『招き猫』って呼ばれてるみたいだし」


「招き猫?」


「うん」


「それって置物じゃないの?」


「友達は置物じゃないよ」


「そういう意味じゃなくて!」


 女子中学生は額を押さえた。


「何で招き猫って呼ばれてるの?」


「さあ?」


「知らないの?」


「人間が勝手にそう呼んでたみたいだから」


「何かしたんじゃないの?」


「困ってる人に、気づいたことを教えたりしてたんじゃない?」


「例えば?」


「落とし物があったら『そこにあるよ』って教えるとか、会いたそうな人が近くにいたら『今、あそこにいるよ』って教えるとか」


「……それだけ?」


「それだけじゃない?」


 猫のようなものは、本当に不思議そうな顔をしている。


「それで人間が『あの猫がいるといいことが起こる』とか言い始めたんじゃないかな」


「それで招き猫?」


「たぶん」


「また、たぶん」


「ぼくが呼んでたわけじゃないから」


 女子中学生は目の前の猫のようなものを見る。


「あなたも、そういうことしたことある?」


「あるよ」


「あるんだ」


「困ってたら教えるでしょ?」


「普通みたいに言うけど……」


「普通じゃないの?」


「少なくとも、私の普通にはしゃべる猫みたいなのはいなかったよ」


「猫じゃないって」


「そこはもういい!」


 女子中学生は思わず笑いそうになった。


 怖さが消えたわけではない。


 けれど、少なくとも目の前の存在が何か悪いことをしようとしているようには思えなくなってきた。


     ◇


「ちょっと待って」


 女子中学生は、ふと思い出した。


「昨日の声って、あなた?」


「うん」


「じゃあ、その前も?」


「その前?」


「私が……その……」


 言いにくい。


 けれど猫のようなものは、あっさり言った。


「お願いしてたとき?」


「言わないで!」


 女子中学生の顔が一気に熱くなる。


「聞いてたの!?」


「聞こえてたよ」


「いつから!?」


「何回か」


「何回かって何回!?」


「覚えてない」


「最悪!」


 女子中学生は枕へ顔を埋めた。


 よりによって、一番人に聞かれたくないことを聞かれていた。


「忘れて!」


「何で?」


「恥ずかしいから!」


「仲良くなりたいんでしょ?」


「言わないでってば!」


 反射的に枕を持ち上げる。


「投げないで!」


「だったら黙って!」


「分かった!」


 猫のようなものが慌てて前足で口を押さえた。


 女子中学生は枕を抱え直し、そのままじっと相手を睨む。


「誰にも言わないでよ」


「誰に?」


「知らないけど! ほかの……妖怪とか!」


「言わないよ」


「ほんとに?」


「うん」


「絶対?」


「絶対」


「……ならいい」


 ようやく枕から顔を離す。


 すると猫のようなものが、まだ不思議そうにこちらを見ていた。


「何?」


「そんなに恥ずかしいことなの?」


「恥ずかしいよ!」


「好きな人と仲良くなりたいだけでしょ?」


「そういうのを普通に言わないで!」


「人間って難しいね」


「またそれ!」


     ◇


 そのとき、廊下の向こうから母親の声がした。


「起きてるの? 遅れるわよ!」


「あっ!」


 時計を見る。


「やばっ!」


 猫のようなものとの会話に夢中になりすぎていた。


「何が?」


「学校!」


 女子中学生は慌ててベッドから立ち上がる。


「学校?」


「説明してる暇ない!」


 制服を用意しながら、ふと振り返る。


「……あなた、どうするの?」


「どうするって?」


「ここにいるの?」


「そのつもりだったけど」


 少し考える。


 昨夜まで存在すら知らなかったものを、自分の部屋へ残して学校へ行く。


 それも何となく気になる。


「……ついてくる?」


「行っていいの?」


「いいのかどうか私にも分かんないけど」


「じゃあ行く」


「軽いなあ……」


 女子中学生は苦笑しながら、バザーで買ったアクセサリーをいつものように鞄へつけた。


 猫のようなものが、その横へやってくる。


 昨日までなら、何もいないはずの場所だった。


 けれど今日は違う。


 自分には、はっきり見えている。


「ほら、行くよ」


「うん」


 女子中学生は鞄を持ち、猫のようなものと一緒に部屋を出た。


 彼女はまだ知らなかった。


 家の外へ出れば、昨日まで見えていなかったものが、ほかにもいるということを。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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