閑話 第一話「お願いごと」
ある女子中学生の場合
第一話「お願いごと」
「それ、ほんとにつけてるんだ」
「何が?」
「この前のバザーで買ったやつ」
放課後。
教室を出たところで友達に言われ、女子中学生は自分の鞄へ目を落とした。
「ああ、これ?」
鞄には、小さなアクセサリーがついている。
数日前、友達と一緒に行ったバザーで見つけたものだった。
少し変わった形をしていて、どこかお守りのようにも見える。
値段は千円。
買うときには少し迷った。
このあともバザーを見て回るつもりだったし、中学生にとって千円は何も考えずに出せる金額でもない。
それでも、どうしても気になった。
ほかの店を見てから戻ってくることも考えたけれど、誰かに買われてしまったら嫌だと思って、その場で買ったのだ。
「気に入ってるんだ?」
「うん。結構」
「へえ」
「何、その反応」
「だってあのとき言ってたじゃん」
「何を?」
友達が笑う。
「『身につけてたら願い事とか叶いそう』って」
「ちょっ!」
女子中学生が慌てて周囲を見る。
「声大きい!」
「別にいいじゃん」
「よくない!」
「じゃあ、願い事した?」
「してない!」
即答した。
「ほんと?」
「ほんと!」
「怪しい」
「してないって!」
友達は楽しそうに笑っている。
「まあ、かわいいからいいけどね」
「でしょ?」
「千円出しただけある?」
「ある!」
「即答なんだ」
二人は話しながら廊下を歩いていった。
女子中学生は、もう一度鞄についたアクセサリーを見る。
歩くたび、小さく揺れている。
願い事なんてしていない。
少なくとも――友達には、そういうことにしていた。
◇
その日の夜。
机の上には、鞄から外したアクセサリーが置いてあった。
学校から帰れば机の上へ。
朝になれば、また鞄へ。
買ってから数日しか経っていないのに、それがすっかり習慣になっていた。
女子中学生は勉強を終えると、椅子の背にもたれた。
「疲れた……」
時計を見る。
そろそろ寝なければならない。
教科書やノートを片付けている途中で、机の上のアクセサリーが目に入った。
「…………」
手に取る。
別に、本当に願いが叶うと思っているわけではない。
バザーで友達と話していたときも、半分は冗談だった。
ただ。
「……もうちょっと」
小さな声で呟く。
少し恥ずかしくなって、部屋の扉が閉まっていることを確認した。
家族に聞かれたら、しばらく顔を合わせられない気がする。
「もうちょっと、仲良くなれますように」
言ってから、自分で顔が熱くなる。
「何やってんだろ、私……」
ベッドへ倒れ込んだ。
気になっている男子がいる。
同じ学校の男子。
まったく話したことがないわけではない。
朝に会えば挨拶くらいはする。
授業や学校行事で、何度か話したこともある。
でも、それだけ。
友達というほど近くはない。
相手が自分をどう思っているのかなんて、もちろん分からない。
「仲良くなれますようにって……」
自分で言葉にすると、ますます恥ずかしい。
「小学生じゃないんだから」
そう言いながらも、アクセサリーは投げたりせず、丁寧に机の上へ戻した。
◇
翌日。
「おはよう」
「おはよ」
友達と教室へ向かう途中だった。
「あ」
前から、気になっている男子が歩いてくる。
女子中学生は一瞬だけ足を止めそうになった。
普段なら、そのまますれ違う。
こちらから話しかける理由もない。
ところが。
「あ、おはよう」
向こうから声をかけられた。
「えっ?」
思わず変な声が出る。
「……おはよう」
「うん」
それだけ。
男子はそのまま友達のところへ行った。
「…………」
女子中学生が止まる。
一緒に歩いていた友達が振り返った。
「何してんの?」
「今……」
「何?」
「向こうから、おはようって」
「挨拶でしょ?」
「そうだけど!」
「前も挨拶くらいしてたじゃん」
「そうだけど、今日は向こうからだったの!」
「だから?」
「……何でもない!」
慌てて歩き出す。
鞄についたアクセサリーが、小さく揺れた。
ほんの少しだけ。
昨日より軽く感じた。
◇
その日の昼休み。
「ねえ」
友達が言った。
「これ知ってる?」
見せられたのは、一冊の本だった。
「あ、それ……」
「知ってる?」
「読んだことある」
「ほんと?」
「うん。結構好き」
「じゃあさ」
友達が何気なく言う。
「あの子も好きらしいよ」
「え?」
「ほら、朝挨拶してた子」
「何で知ってるの?」
「さっき話してるの聞こえた」
「…………」
「何、その顔」
「別に」
「もしかして嬉しい?」
「何で!」
「顔」
「普通だから!」
「赤いけど」
「暑いの!」
「今日そんな暑くないよ」
「うるさい!」
女子中学生は本へ視線を落とす。
同じものが好き。
それだけのことだ。
同じ学校にいて、同じくらいの年齢なのだから、好きなものが一つくらい同じでも何も不思議ではない。
それだけなのに。
少し嬉しい。
話しかける理由が、一つ増えたような気がした。
◇
その夜。
「…………」
アクセサリーを手に取る。
「いや、違うから」
誰もいない部屋で、一人で言い訳をする。
「朝のはただの挨拶だし」
当然だ。
「本のことも偶然だし」
それも当然だ。
「だから、別にこれのおかげじゃない」
アクセサリーを見る。
「…………」
返事なんてあるはずもない。
それでも、少しだけ考える。
「でも……」
また扉を見る。
誰も来ない。
「もうちょっとだけ、仲良くなれますように」
小さな声でお願いした。
昨日より、ほんの少しだけ欲張った。
そしてすぐに布団へ入る。
「ほんと何やってんだろ……」
顔まで布団をかぶった。
恥ずかしい。
けれど、嫌な気分ではなかった。
◇
それから数日。
何か大きな出来事が起きたわけではなかった。
突然告白されたわけでもない。
急に二人きりで出かけることになったわけでもない。
ただ、小さな偶然が少しずつ重なった。
移動教室へ向かう途中。
「これ、先生のところ持ってくんだよね?」
気になっている男子から声をかけられた。
「あ、うん」
「じゃあ一緒に持ってく?」
「え?」
「俺も頼まれてるから」
「あ……うん」
二人で教材を運んだ。
ほんの数分。
最初は何を話せばいいのか分からず、少し気まずかった。
けれど男子の方から、
「これ結構重いな」
と言われて、
「半分持ってる私の前で言う?」
「いや、だから二人でよかったって意味」
「それならいいけど」
そんな会話をした。
それだけ。
でも、以前より長く話した。
別れるときには、
「ありがと」
と向こうから言われた。
「うん」
それだけなのに、そのあとしばらく顔が緩みそうになるのを我慢しなければならなかった。
◇
別の日。
友達数人で話しているところへ、その男子が加わった。
例の本の話になった。
女子中学生は迷った。
聞いてみたい。
でも、急に話しかけたら変に思われるかもしれない。
鞄についたアクセサリーへ、無意識に指が触れた。
「あ、それ読んだ?」
気づけば聞いていた。
「読んだよ」
「面白かった?」
「うん。俺、あの辺好きだった」
「あ、分かる!」
「ほんと?」
「うん。私もそこ好き」
話が続いた。
ほんの少しだけ。
でも、今までよりずっと自然に。
友達が横でこちらを見て、にやりと笑っている。
女子中学生は気づかないふりをした。
◇
帰宅した女子中学生は、自分の部屋へ入ると鞄を置いた。
アクセサリーを見る。
「…………」
手に取る。
「もしかして」
じっと見る。
「ほんとに効いてる?」
もちろん返事はない。
「いやいや」
自分で首を振る。
「そんなわけないって」
偶然だ。
全部、普通に起こり得ることだ。
挨拶された。
共通の好きな本が分かった。
一緒に教材を運んだ。
少し会話が増えた。
どれも、それだけなら何も不思議ではない。
それに、本の話をしたとき。
最後に声をかけたのは自分だ。
アクセサリーが代わりに話しかけてくれたわけではない。
「でも……」
偶然にしては、少しだけタイミングがよすぎる気もする。
「……ちょっとくらい期待してもいいよね」
アクセサリーを両手で包む。
「もっと仲良くなれますように」
今度は前より少しだけ素直に言えた。
◇
その夜。
女子中学生はベッドへ入った。
枕元には、いつものようにアクセサリーを置いてある。
買ったばかりの頃は机に置いていた。
いつからか、寝る前にお願いをするようになって。
今では、そのまま枕元へ置くのが当たり前になっていた。
「おやすみ」
誰に言ったわけでもなく呟いて、目を閉じる。
しばらくして。
「…………」
眠りに落ちる直前だった。
「それだけ?」
「…………?」
女子中学生が薄く目を開ける。
静かな部屋。
誰もいない。
「……何?」
耳を澄ます。
返事はない。
「気のせい……?」
眠い。
夢と現実の境目だったのかもしれない。
そのまま、もう一度目を閉じる。
「お願いするだけでいいの?」
「……え?」
今度は、はっきり聞こえた。
女子中学生が勢いよく起き上がる。
「誰!?」
部屋を見回す。
誰もいない。
扉も閉まっている。
「…………」
心臓が速くなる。
「お母さん?」
返事はない。
廊下から聞こえた声でもない。
もっと近かった。
すぐそばから聞こえたような――。
女子中学生は、ゆっくり枕元を見る。
そこにあるのは、バザーで買ったアクセサリーだけ。
「…………まさか」
手を伸ばす。
その瞬間。
「明日もお願いするだけ?」
「ひっ!」
女子中学生は布団を頭までかぶった。
「何!? 何なの!?」
返事はない。
布団の中で、しばらく動けなかった。
数日前までなら。
ただの気のせいだと思ったかもしれない。
けれど今の声は、あまりにもはっきり聞こえた。
アクセサリーを買ってから、ほんの少しだけ増え始めた幸運。
そして今度は――声。
彼女はまだ知らない。
自分が大切にしてきたその小さな品物によって、今まで認識できなかったものとの距離が、ほんの少しだけ縮まり始めていることを。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




