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着ぐるみモンスター Another  作者: 内田紀人
ミラーカメレオン編

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最初に買うもの

最初に買うもの


「服だ!」


 朱雀の声が響いた。


「…………」


 周囲が静かになる。


「何だ、その反応は!」


 朱雀は不満そうに一同を見る。


「今回の売上で何を手に入れるかという話であろう! ならば服だ!」


「なぜそうなる」


 青龍が呆れたように言った。


「決まっておろう!」


 朱雀が胸を張る。


「人間どもの服は実に種類が多い! 上着だけでも形が違う。帽子もある! 靴もある! 装飾品もある!」


「それは、お前が欲しいだけだろう」


「欲しくて何が悪い!」


「悪いとは言っていない」


「ならばよいではないか!」


「売上をお前一人のために使う理由がないと言っている」


「理由ならある!」


「何だ」


「この計画を提唱したのは我だ!」


 朱雀は得意そうに自分を指さした。


「我が下界の品を手に入れたいと言い出したからこそ、今回のバザーが――」


「待て」


 青龍が止める。


「下界の品を手に入れたいと言い出したことと、売上がお前のものになることは別だ」


「全部とは言っておらぬ!」


「では、どの程度使うつもりだ」


「…………半分?」


「多い!」


 青龍と白虎の声が重なった。


「なぜ二人で言う!」


「多いからだ」


「当然だろう」


「我が提唱者なのだぞ!」


「だから何だ」


「少しくらい優遇されてもよいであろう!」


「半分は『少し』ではない」


「細かい奴だ!」


「大きな違いだ!」


     ◇


「では、お主は何が欲しいのだ!」


 朱雀が青龍を指さした。


「我か?」


「そうだ! そこまで言うなら、お主は何も欲しくないのであろうな!」


「いや。本は欲しい」


「欲しいのではないか!」


 朱雀が勢いよく言う。


「ほら見ろ! お主も自分の欲しいものを買おうとしておる!」


「希望を聞かれたから答えただけだ」


「我も希望を答えただけだ!」


「お前は売上の半分を要求した」


「そこはもうよい!」


「よくない」


 青龍は構わず続ける。


「人間が現在どのような知識を持っているのか興味がある」


「知識?」


「書物だ。歴史、科学、文化。人間が今どのようなことを考え、何を知っているのか。それを知ることは我らにとっても意味がある」


「難しいものばかりではないか」


「お前の服よりは有用だ」


「何だと!」


「事実だ」


「服も人間の文化であろう!」


「それは否定していない」


「ならば服だ!」


「なぜ戻る」


     ◇


「白虎!」


 朱雀が今度は白虎を見る。


「お主はどうなのだ!」


「我か」


「何も欲しくないとは言わせぬぞ!」


「そうだな……」


 白虎は少し考える。


「格闘技に使うものは見てみたい」


「ほら!」


「何が『ほら』なのだ」


「皆、自分の欲しいものがあるではないか!」


「それと、お前が半分使う話は別だ」


「まだ言うか!」


 白虎は朱雀を無視するように続ける。


「それから、野球というものがあるらしいな」


「野球?」


「人間がやっている競技だ」


「どのようなものだ」


「棒で球を打つらしい」


「…………」


 朱雀が白虎を見る。


「それだけか?」


「我も詳しくは知らぬ」


「知らぬのか!」


「だから興味があると言っている」


「棒と球なら用意すればよいではないか」


「専用のものがあるのではないか?」


「知らぬ」


「我も知らぬ」


 二人が黙る。


「では、本が必要だな」


 青龍が言った。


「なぜお主の話へ戻る!」


「野球について書かれた本を手に入れればよい」


「それは一理ある」


 白虎が頷く。


「ほら見ろ」


「何を得意そうにしておる!」


「知識は役に立つということだ」


「我は服が欲しい!」


「誰も聞いていない」


「さっき聞いただろう!」


     ◇


 少し離れたところでは、配下の妖怪たちが四聖獣の話を聞いていた。


「……なあ」


「何だ」


「我らの分、残ると思うか?」


「…………」


 答えがない。


「朱雀様は服だろう」


「青龍様は本」


「白虎様は格闘技のものと、野球とかいうものだ」


「全部買ったら……」


「なくなるのでは?」


「…………」


 妖怪たちは顔を見合わせた。


 自分たちの作った品が、人間に売れた。


 その報告を聞いたときは、本当に嬉しかった。


 人間が自分たちのものを選んでくれた。


 共存への第一歩になった。


 そして、その結果として人間の世界で使えるお金まで手に入った。


 けれど。


「作ったのは我らなのだが……」


 一人が小さく呟いた。


「運んだ者も我らの中にいる」


「準備もした」


「でも四聖獣様方だけで全部使われたら……」


「我らには何もないな」


 急に不安になってきた。


「我も下界のもの、欲しい」


「何が欲しい?」


「…………分からぬ」


「分からぬのか」


「下界のものをほとんど知らぬからな」


「ああ……」


「でも何か欲しい」


「それは分かる」


「我もだ」


 何があるのかさえ、まだよく知らない。


 だから具体的に欲しいものを挙げることもできない。


 それでも、自分たちだって人間の世界のものに触れてみたい。


「言うか?」


「誰に?」


「四聖獣様方に」


「…………」


「…………」


 二人が朱雀たちを見る。


「無理だな」


「うむ」


     ◇


「そもそも!」


 その朱雀は、まだ主張を続けていた。


「我が最初に下界の品を手に入れる方法を考えたのだ!」


「バザーで売る方法を具体的に進めたのは下界側だろう」


 青龍が返す。


「細かいことを言うな!」


「重要なことだ」


「では、提唱者として少しくらい優遇されても――」


「ならぬ」


 低い声が割って入った。


 朱雀が止まる。


「玄武?」


 それまで静かに話を聞いていた玄武が、ようやく口を開いた。


「今回、皆が動いた」


「それは分かっておる!」


「ならば、最初に手に入れるものは皆が受け取れるものにするべきではないか」


「皆が?」


 青龍が玄武を見る。


「しかし、人数が多いぞ」


「そうだな」


 白虎も周囲を見る。


「服や本では無理だ」


「我の服を勝手に除外するな!」


「全員分の服を買うのか?」


「…………」


「無理だろう」


「では帽子なら――」


「そういう問題ではない」


 朱雀が黙る。


 玄武は少し考えてから、朱雀を見る。


「朱雀」


「何だ」


「以前、下界で食べていたものがあっただろう」


「我はいろいろ食べたぞ」


「菓子だ」


「菓子?」


「クッキー、と言ったか」


 朱雀が少し考える。


「ああ!」


 思い出した途端、顔が明るくなる。


「あれか! 甘くて、さくさくした!」


「そうだ」


「うまかったぞ!」


「それはよかったな」


「また食べたい!」


「だから、その話をしている」


「そうだった!」


 白虎が小さく笑う。


「何がおかしい!」


「別に」


     ◇


「クッキー?」


 配下の妖怪たちも聞き慣れない言葉に反応する。


「何だ、それは」


「人間の食べ物らしい」


「菓子と言っていたぞ」


「甘いのか?」


「朱雀様はそう言っている」


「さくさくとは何だ?」


「分からぬ」


「食べてみたいな」


「我も」


 先ほどまで不安そうだった配下たちの声が、少しずつ変わっていく。


 玄武が続けた。


「比較的、安価だったはずだ」


「そうなのか?」


 朱雀が天女を見る。


 天女は困ったように首を傾げた。


「私には、まだ人間のお金の感覚が……」


「あ、そうだった」


「人間側に確認すればよい」


 青龍が言う。


「ミオさんと咲子さんなら分かると思います」


 天女も頷いた。


 玄武が周囲を見渡す。


「もし今回の売上で十分な数を用意できるのであれば、まずはそれを皆に配ってはどうだ」


 一瞬、静かになった。


「皆に?」


「品を作った者も」


 玄武が続ける。


「運んだ者も、準備した者も。今回のために動いた者たち全員だ」


 少し離れたところにいた配下たちが顔を上げる。


「我らも?」


「当然だ」


 玄武が答えた。


「今回の成果は、誰か一人のものではない」


     ◇


「我らも……」


「クッキーを?」


「人間の菓子を食べられるのか?」


「どんな味なのだろう」


 配下たちがざわめき始める。


 先ほどまでの不安は、もうほとんど消えていた。


「……それだ!」


 突然、朱雀が声を上げた。


「びっくりした」


 白虎が言う。


「クッキーだ!」


「今、玄武が言った」


「分かっておる!」


「では、なぜ自分が思いついたような顔をしている」


「細かいことはよい!」


 朱雀が配下たちを見る。


「まずは全員で食べようではないか!」


「おお……!」


「我らもいいのですか?」


「当然だ!」


「さっきまで売上の半分を服に使おうとしていた者の台詞とは思えぬな」


 青龍が言う。


「それはそれ、これはこれだ!」


「便利な言葉だ」


「うるさい!」


 配下たちから笑いが起こった。


「クッキーというもの、食べてみたい」


「我もだ」


「人間の菓子なのだろう?」


「どんな味なのだ?」


「甘いぞ!」


 朱雀が自信満々に答える。


「さくさくしておる!」


「さくさくが分からぬ」


「食べれば分かる!」


「それはそうだな」


     ◇


「では、まず人間側に確認してみましょう」


 天女が言った。


「今回の売上で、皆さんの分を買えるかどうか」


「頼む!」


 朱雀が答える。


「人数も確認しないといけませんね」


「そうだな」


 青龍が周囲を見る。


「足りなければどうする?」


「その場合は、買える数に合わせて考えればよい」


 玄武が答える。


「皆で分けられるものを選べばいい」


「なるほど」


 配下たちも頷いている。


 まずは、自分たちの品物が売れて手に入ったお金で、人間の世界のものを皆で一緒に味わう。


 それなら誰か一人だけが得をすることもない。


「決まりですね」


 天女が言った。


「最初に買うものは、クッキーです!」


「おお!」


 声が上がった。


「余ったら服だ!」


 朱雀がすかさず続ける。


「まだ言うか」


「希望を言うのは自由であろう!」


「なら我は本だ」


 青龍が言う。


「我は野球というものを調べたい」


 白虎も続く。


「それは次だ!」


「なぜお前が決める」


「提唱者だからだ!」


「その話はもう終わった」


「終わっておらぬ!」


 また四聖獣の言い争いが始まった。


     ◇


 けれど、その周囲では妖怪たちが笑っていた。


 自分たちの作ったものが、人間の手に渡った。


 何も知らない人間が、それを見て、気に入って、自分の意思で選んでくれた。


 その代わりに得た人間のお金で、今度は人間の世界のものが自分たちのところへやってくる。


 妖怪から人間へ。


 そして、人間の世界から妖怪へ。


 まだ互いの姿を当たり前のように見られるわけではない。


 直接言葉を交わせない者も多い。


 それでも、小さなものは行き来し始めた。


「クッキーか」


「楽しみだな」


「どんなものだろう」


「甘いらしいぞ」


「さくさくするらしい」


「だから、さくさくとは何だ?」


「食べれば分かるらしい」


「なら食べてみよう」


 配下たちの会話を聞きながら、玄武は静かに笑った。


 二か月後には、またバザーへ参加する。


 次は何を売るのか。


 その次には、何を買うのか。


 服。


 本。


 格闘技の道具。


 野球という未知の競技。


 欲しいものも、知りたいことも、きっとこれから増えていく。


 けれど、その前に。


 妖怪たちが人間の世界から初めて手に入れるものは――。


 どうやら、みんなで食べるクッキーになりそうだった。

本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。

それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。

一つの作品だけでも楽しめる。

けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。

ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。

【人間×生成AIによる合作作品】

企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才

文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)

本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。

本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。

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