最後のお客さん
最後のお客さん
三時を過ぎてからも、客は途切れながら店を訪れていた。
午後になって一気に動き始めた百円から五百円ほどの商品は、もう残りわずかになっている。
午前中からよく売れていた千円から二千円台の商品も、追加してもらった分を含めてかなり減った。
一方で、机の一角には朝からあまり変わらない場所がある。
「……やっぱり残ってるね」
ミオが言った。
「高いの?」
「うん」
五千円を超える商品だった。
誰にも見てもらえなかったわけではない。むしろ、何人もの客が足を止め、手に取ってくれた。
「きれいですね」
「すごく細かい」
「これ、かわいいなあ」
そんな言葉も何度も聞いた。
けれど値札を見ると、客の反応が変わる。
「五千円かあ……」
「ちょっと考えます」
「もう少し安かったらなあ」
気に入ってもらえても、購入まではなかなかつながらない。
朝から何度も繰り返された光景だった。
「どうする?」
ミオが咲子を見る。
「どうするって?」
「少し下げる?」
咲子も残っている商品を見る。
「うーん……」
「このままだと残るかも」
「そうだね」
「じゃあ――」
「でもさ」
咲子が言った。
「これ、気に入ってくれた人は結構いたよね」
「うん」
「だったら、無理に全部売らなくてもいいんじゃない?」
「え?」
「売れ残ったら駄目ってわけじゃないでしょ」
ミオは少し考える。
朝なら、全部売れなければ失敗だと思ったかもしれない。
けれど一日店に立って、いろいろな客を見た。
安い商品がほとんど動かない時間もあった。それが午後になると、子供たちが次々に買っていった。
千円から二千円ほどの商品は朝からよく売れた。
三千円くらいになると迷う人が増えた。
高い商品も、値段を見て戻されることは多かったが、気に入ってくれる人そのものが少ないわけではない。
一度店を離れたあと、また戻ってきた人もいた。
「……そっか」
「それに、次があるなら考えればいいし」
「値段?」
「値段も。ほかにも見せ方とか」
「じゃあ、今日はこのまま?」
「私はそれでいいと思う」
「うん」
ミオも頷いた。
全部を売り切ることだけが、今日の目的ではなくなっていた。
◇
「まだあります?」
「え?」
声をかけられ、二人が顔を上げた。
「あ」
ミオが気づく。
午前中に、高価格の商品を長い時間見ていた女性だった。
その女性は店の前まで来ると、まっすぐ一つの商品を見る。
「これ、まだあります?」
「あります!」
ミオが答えた。
「よかった」
女性は商品を手に取る。
朝と同じように、角度を変えながら眺める。
「朝、見てくれてましたよね?」
「覚えてたんですか?」
「はい」
女性は少し恥ずかしそうに笑った。
「ずっと気になってたんです。でも、ちょっと高いから迷ってて」
「そうだったんですね」
「ほかもいろいろ見たんですけど……」
女性はもう一度、手の中の商品を見る。
「やっぱり、これが一番気になって」
ミオと咲子は何も言わずに待った。
午前中なら、ここで何か言わなければと思ったかもしれない。
けれど今は、迷っている時間も客にとって必要なのだと分かっている。
女性が値札を見る。
朝と同じ値段だった。
二人は値下げしていない。
「……これ、ください」
「ありがとうございます!」
二人の声が重なった。
◇
会計を済ませる。
ミオが商品を袋へ入れ、女性へ渡した。
「ありがとうございました!」
「こちらこそ」
女性は袋を受け取ると、少し笑った。
「買えてよかったです」
その言葉を残して、女性は人混みの中へ歩いていった。
ミオと咲子は、その後ろ姿を見送る。
「売れた」
「売れたね」
「値段変えなかったのに」
「うん」
ミオは商品があった場所を見る。
「じゃあ、値段合ってたのかな」
「それもまだ分かんないんじゃない?」
「え?」
「この値段でも欲しいって思ってくれた人がいたってことは分かった。でも、ほかの高いのはまだ残ってるでしょ」
「ああ……」
「だから、次に考えればいいんじゃない?」
「なるほど」
ミオが頷く。
「難しいね」
「朝からずっとそれ言ってるよ」
「だって難しいんだもん」
二人は笑った。
今日一日で分かったことはたくさんある。
それでも、分からないことはまだ同じくらい残っていた。
◇
終了時刻が近づくにつれて、客足も少しずつ落ち着いてきた。
それでも、最後まで何人かの客が店を覗いていく。
「これ、まだあります?」
「はい!」
百円の商品が一つ売れた。
「こっち二つください」
「ありがとうございます!」
三百円の商品が二つ減った。
千円台の商品を手に取った女性は少し迷ったあと、
「最後だし、買っていこうかな」
と笑って購入した。
「ありがとうございました!」
客を見送るたびに、机の上へ新しい隙間ができていく。
そして。
『まもなく、本日のバザーを終了いたします――』
会場に案内が流れた。
「あ」
ミオが顔を上げる。
「終わるんだ」
「うん」
咲子も会場を見る。
朝からずっと立ち続けていた。
最初の頃は、客が店の前で足を止めるだけで緊張した。
商品を手に取られれば期待し、戻されれば落ち込んだ。
一つ目が売れたときには、二人で大騒ぎした。
それが今では、会計も商品の説明もずいぶん自然にできるようになっている。
「なんか早かったね」
ミオが言った。
「朝からずっといたのにね」
「もっと長いと思ってた」
「忙しかったからじゃない?」
「かも」
終了を知らせる案内が流れると、それまで気づかなかった疲れまで一気に戻ってきたようだった。
「……疲れた」
「私も」
「足痛い」
「私も」
「お腹すいた」
「それはさっき食べたでしょ」
「もうお腹すいたの!」
「早いよ!」
最後まで二人の会話は変わらなかった。
◇
終了時刻を迎えた。
二人は残った商品を確認する。
「結構減ったね」
「うん」
朝には机いっぱいに並んでいた商品。
今は、空いた場所の方が目立っている。
百円から五百円ほどの商品は、午後になって一気に減った。
千円から二千円台は、追加してもらった分まで含めてよく売れた。
三千円前後も、それなりに動いた。
高価格の商品は、やはりいくつか残っている。
「全部は売れなかったね」
ミオが言った。
「うん」
「でも……」
朝とはまるで違う机を見る。
「こんなに売れると思ってなかった」
「私も」
「最初、一個も売れなかったらどうしようって思ってた」
「ミオ、ほんとに心配してたもんね」
「咲子もでしょ?」
「ちょっとだけ」
「またそれ!」
二人が笑う。
売れ残った商品もある。
それでも、不思議と失敗したとは思わなかった。
むしろ残った商品を見ると、次にどうすればいいのかを考えたくなる。
「次やるなら、高いのどうする?」
「もう次の話?」
「もしやるなら!」
「そうだね……値段を少し考えてもいいかも」
「並べる場所も」
「安いのは午後に前へ出してもいいかもね」
「朝は大人向けを多め?」
「そういうのもありかも」
今日一日で、次に試してみたいことがいくつもできていた。
◇
「お疲れさん」
ゴンさん夫妻がやってきた。
「どうだった?」
奥さんに聞かれ、ミオが笑う。
「疲れました!」
「最初にそれ?」
「でも、楽しかった!」
咲子も頷く。
「大変だったけど、やってみてよかったです」
「そう」
奥さんが笑った。
「じゃあ、片付けましょうか」
「はい!」
四人で残った商品を箱へ戻していく。
朝には箱から一つずつ出して並べた。
今度は、残ったものだけを戻していく。
「これ、朝はもっとあったよな」
ゴンさんが箱を見る。
「いっぱい売れたんだよ!」
「見れば分かる」
「午前と午後で全然違ったんです」
咲子が言った。
「午前中は千円とか二千円くらいのがよく売れて、午後になったら子供が増えて、安い方も一気に売れたんですよ」
「へえ。そんなに変わるものなのね」
奥さんが感心したように言う。
「私たちもびっくりしました」
「やってみないと分からないものね」
「ほんとにそうでした」
値札を外し、余った袋をまとめる。
売上の記録も確認する。
机の上から商品がなくなるにつれて、一日の終わりが少しずつ実感できるようになってきた。
◇
最後に売上を確認する。
ミオが数字を見て目を丸くした。
「え、こんなに?」
「商品売ったんだから、それくらいになるでしょ」
「でも、数字で見るとすごい!」
「何回も会計したじゃん」
「一回ずつだと分かんないんだよ!」
奥さんが笑う。
「初めてにしては、よく頑張ったんじゃない?」
「ほんと?」
「ええ」
「やった!」
「ミオ、片付け終わってから一番元気じゃん」
「褒められたから!」
ゴンさんが荷物を持ち上げる。
「じゃあ、こっちは先に戻るぞ」
「はい!」
「忘れ物するなよ」
「分かってる!」
「ミオに言ってるからな」
「何で私だけ!」
「咲子、頼んだぞ」
「任せてください」
「咲子まで!」
奥さんが笑いながらゴンさんのあとを追う。
「じゃあ、またね。二人ともお疲れさま」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
二人は揃って頭を下げた。
ゴン夫妻が人混みの向こうへ離れていく。
ミオは片付いた机を見る。
「……終わったね」
「うん」
「ほんとに終わった」
「明日も店出すわけじゃないんだから」
「分かってるよ」
ミオは少し笑った。
朝には商品でいっぱいだった机には、もう何も並んでいない。
初めてのバザーは、無事に終わった。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
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ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




