三時の売り場
三時の売り場
「ありがとうございました!」
五百円の商品を買った女の子が、母親と一緒に店を離れていく。
ミオは空いた場所を詰めながら、残っている商品を確認した。
「また五百円の売れた」
「午後になってから早いね」
「朝はあんなに残ってたのに」
咲子も売上の記録を見る。
「三百円のも結構出てるよ」
「百円のも?」
「うん」
「すごいなあ……」
午前中には、千円から二千円台の商品が売り場の中心だった。
午後になると、その流れに低価格の商品が加わっている。
もちろん大人の客がいなくなったわけではないし、中学生くらいの客が千円前後の商品を選ぶこともある。
ただ、机の上から減っていく商品の種類は明らかに変わっていた。
「朝だけ見て決めちゃ駄目なんだね」
「何を?」
「これ人気ないとか、値段変えようとか」
「そうだね」
「覚えとこう」
ミオが頷いた、そのときだった。
「ミオちゃん!」
聞き覚えのある声が人混みの向こうから飛んできた。
◇
「あれ?」
ミオが顔を上げる。
人混みの向こうから、則人と悟がこちらへ歩いてきた。
「則ちゃん! 悟君!」
「こんにちは」
「来たんだ!」
「うん。見に来た」
則人が店の前まで来ると、机の上を見回した。
「結構売れた?」
「売れたよ!」
ミオが嬉しそうに答える。
「朝はどうなるかと思ったけど、今すごいんだから!」
「何が?」
「安いやつ!」
「安いやつって言い方しないの」
咲子が横から突っ込む。
「だって安いやつだもん」
「商品なんだから」
「じゃあ、お手頃なやつ!」
「急に言い方変えたね」
則人が笑う。
「午前中は大人の人が多くて、もう少し高いのがよく売れてたんだけどね」
咲子が説明する。
「午後になったら小学生くらいの子が増えて、百円とか三百円とか五百円くらいのが急に売れ始めたの」
「へえ」
悟が商品を見る。
「これ五百円?」
「そう」
「これなら買える」
「でしょ!」
ミオが嬉しそうにする。
「則ちゃんは?」
「ぼく?」
「何か気になるのない?」
則人は机の上を見回す。
「うーん……」
「売りつけないの」
咲子がすぐに止めた。
「違うよ! 聞いただけ!」
「今の勢いだと怪しい」
「ひどい!」
則人が二人を見て笑った。
◇
悟はしばらく商品を見比べていた。
「これ、いいな」
手に取ったのは五百円の商品だった。
「買う?」
「うん」
「お買い上げありがとうございます!」
「急に店員っぽくなった」
「店員だもん!」
ミオが会計の準備をすると、咲子が横から言う。
「知り合いだからって安くしたら駄目だからね」
「しないよ!」
「念のため」
「信用ないなあ!」
「前に天女へ何か買ってあげようとしてた人だから」
「それとこれとは別!」
悟が笑いながら五百円を出す。
「はい、ちょうど」
「ありがとうございます!」
ミオは商品を袋へ入れて渡した。
「はい!」
「ありがとう」
「大事にしてね!」
「うん」
悟が買った商品を見る横で、則人は百円や三百円の商品を眺めていた。
「則ちゃんも気になる?」
「見てるだけ」
「そっか」
ミオはそれだけ言って、商品の位置を少し整えた。
則人がミオを見る。
「何?」
「いや……何でもない」
「何それ」
「もっと買ってって言われるかと思った」
「言わないよ!」
「さっき悟君にはすぐ『買う?』って聞いてたじゃん」
「あれは悟君が『これいいな』って言ったから!」
「そっか」
則人は笑った。
咲子が横から言う。
「朝だったら、見るだけって言われたらミオは落ち込んでたけどね」
「ちょっと!」
「そうなの?」
則人が聞く。
「だって朝は、見てくれたら買ってくれると思ってたんだもん」
「そんなわけないじゃん」
「今は分かってるよ!」
「やってみて分かったんだよね」
咲子が言う。
「見るだけの人もいるし、一回帰ってから戻ってくる人もいるし」
「かわいいって言っても買わない人もいる!」
「それはまだ気にしてるんだ」
「最初びっくりしたんだもん!」
則人と悟が笑う。
ミオも少し遅れて笑った。
朝の自分なら、則人が何も買わずに帰れば少し気にしていたかもしれない。
今はもう、そんなことはなかった。
◇
そのとき、ミオが少し離れたところへ目を向けた。
カチューシャをつけたままのミオには、午後のバザーを見に来ている妖怪たちの姿も見えている。
もちろん咲子にも、そして則人にも見えていた。
天女は少し離れたところで、子供たちが商品を選ぶ様子を楽しそうに眺めている。
「あ、天女まだいる」
ミオが周囲に聞こえないよう、小さな声で言った。
則人もそちらを見る。
「天女さん、朝からずっといるの?」
「うん。バザーが面白いみたい」
「すごく楽しそうだね」
「でしょ?」
「さっきも別のお店見てたよ」
咲子も声を落として会話に加わる。
「全部見るつもりらしいよ」
「全部?」
「できれば、だって」
則人が天女を見る。
「ほんとに見そう」
「でしょ?」
「何の話?」
悟が聞いた。
三人の動きが止まった。
「…………」
「…………」
「…………」
悟が首を傾げる。
「天女さんって誰?」
「あ」
ミオが声を漏らした。
則人にとって、妖怪が見えることはもう珍しいことではない。
咲子も同じだ。
ミオもカチューシャをつけている今は、天女の姿が普通に見えている。
その三人だけで話していたため、悟には見えていないことを一瞬忘れていた。
「えっと……」
ミオが考える。
「天女さん?」
「うん」
悟が周囲を見る。
「誰かいるの?」
「……いない!」
「今、いるみたいに話してたじゃん」
「気のせい!」
「三人とも?」
「…………」
ミオが咲子を見る。
咲子が則人を見る。
則人が困ったように笑う。
「ミオちゃん」
「何?」
「無理があると思う」
「則ちゃん!」
「だって」
悟がますます不思議そうな顔になる。
咲子が小さく息を吐いた。
「とにかく、ここではその話やめよ」
「あ、うん」
ミオも周囲を見る。
近くには一般の客が何人もいる。
妖怪が見える者同士では普通の会話になっていても、周囲にとってはそうではない。
「ごめん」
ミオが小声で言う。
「私も普通に話しちゃった」
咲子も答える。
則人も頷いた。
「ぼくも」
「だから、何の話?」
悟が聞く。
「あとで!」
ミオが答える。
「絶対?」
「……たぶん!」
「そこは絶対って言ってよ」
◇
則人と悟が店の前にいる間にも、客は何人かやってきた。
「すみません、これください」
「はい!」
ミオが対応する。
今度は三百円の商品だった。
続いて、小学生くらいの男の子が百円の商品を一つ選ぶ。
そのあとには母親と娘が来て、娘が五百円の商品を買った。
「すごい売れるね」
則人が言う。
「でしょ?」
ミオが得意そうに答える。
「午前中は、この辺あんまり売れなかったんだよ」
「そうなの?」
「うん。だから値段変えようかなって思った」
「変えなくてよかったね」
「ほんとに!」
咲子が売上を記録しながら言う。
「午後になってから、こっちの減り方すごいよ」
則人が残っている商品を見る。
「もう少ししかないのもあるね」
「そうなの」
「売り切れそう?」
「このままだとね」
「朝は売れ残る心配してたのに」
咲子が笑う。
「今は売り切れる心配してる」
「忙しいね」
「ほんとだよ!」
◇
その一方で、千円から二千円台の商品も動き続けていた。
午後になったからといって、大人の客がいなくなったわけではない。
「これ、ください」
「ありがとうございます!」
追加した千五百円の商品が一つ売れる。
少しして、女子中学生くらいの客が千円の商品を購入した。
さらに、大人の女性が二千円ほどの商品を手に取る。
「これ、午前中にも見たんですけど」
「はい」
「やっぱり気になって」
女性は少し笑った。
「これください」
「ありがとうございます!」
ミオが商品を受け取る。
朝から見ていた商品が、また一つ机の上からなくなる。
「午後って安いのだけが売れるわけじゃないんだ」
客を見送ったあと、ミオが言った。
「そりゃそうでしょ」
「分かってるけど、朝よりいろんな値段のが一緒に売れてる感じする」
「来てる人も増えてるからね」
「なるほど」
低価格帯が急に動き始めても、それまで売れていた商品が完全に止まるわけではない。
売れる商品の幅そのものが広がったようだった。
◇
「じゃあ、ぼくたちもうちょっと見てくるね」
則人が言った。
「うん!」
「またあとで来るかも」
悟も手を振る。
「待ってる!」
「今度来たら何か買わされそう」
「売りつけないって!」
「悟君はもう買ったじゃん」
咲子が言う。
「あ、そうだった」
「忘れないでよ!」
四人で笑う。
「じゃあまたね、ミオちゃん。咲子ちゃん」
「うん。またね!」
「悟君もありがと!」
「うん」
二人は人混みの中へ歩いていった。
ミオはその後ろ姿を見送る。
「……則ちゃん、ほんとに何も買わなかったね」
「気にしてるじゃん」
「違うよ!」
「ほんと?」
「ほんと!」
ミオは少しだけ笑った。
「でも、それでいいんだよ」
咲子も笑う。
「成長したね」
「でしょ?」
「朝からだけど」
「そこ言わなくていい!」
◇
午後の客は、その後もしばらく続いた。
「これ百円だ!」
「こっち三百円!」
「五百円の、あと何個?」
「待って、今数える!」
午前中には目立って残っていた低価格の商品が、次々と減っていく。
「咲子!」
「何?」
「五百円の、もうこれだけ!」
「ほんとだ」
「三百円も減ってる!」
「百円のも」
「朝と逆!」
ミオが笑う。
売れた場所にできた隙間を詰め、残っている商品を見やすい位置へ動かす。
午前中に追加した千円から二千円台の商品も、かなり減っていた。
机の上は、朝とはまるで違う。
最初は隙間なく並んでいた商品が、今ではところどころ大きく空いている。
「補充してもらってよかったね」
「うん。あれなかったら、千円くらいのもうほとんどなくなってたかも」
「追加したのも売れたし」
「天女にあとで言わないと」
「喜ぶだろうね」
◇
咲子が時間を確認した。
「もう三時過ぎてる」
「えっ、もう?」
「今日それ何回目?」
「だって早いんだもん!」
ミオも時間を見て驚く。
朝から始まったバザーも、いよいよ後半に入っていた。
二人は改めて机の上を見る。
百円から五百円ほどの商品は、午後になって大きく数を減らした。
千円から二千円台も、午前中から引き続き順調に売れている。
三千円前後の商品も、数は多くないがいくつか動いた。
そして――。
「……やっぱり残ってるね」
ミオが言った。
「高いの?」
「うん」
五千円を超える商品。
午前中から何人もの客が手に取った。
きれいだと褒めてもらった。
欲しそうに何度も眺める人もいた。
それでも、ほとんど売れていない。
「これ、ほんとに最後まで残るかも」
「かもね」
「どうする?」
ミオが聞く。
咲子はすぐには答えず、高価格帯の商品を見る。
「まだ三時でしょ」
「うん」
「もう少し待とう」
「夕方まで?」
「うん。そこでまだ残ってたら、そのとき考えようよ」
「値下げするかどうか?」
「それも含めて」
「分かった」
ミオは頷いた。
午前中には売れないと思った低価格の商品が、午後になって一気に動いた。
ならば、高価格帯の商品についても、今すぐ結論を出す必要はない。
「最後まで見ないと分かんないもんね」
「そういうこと」
二人は残っている商品を並べ直す。
空いた場所が増えた分、朝と同じ並べ方ではかえって寂しく見える。
「これ、もう少し真ん中に寄せよう」
「こっちも?」
「うん。高いのも見やすいところに置いてみようよ」
「最後にもう一回勝負?」
「だから商品同士で勝負させないの」
「違うよ。私たちが!」
「何と戦ってるの?」
二人は笑った。
時計は三時を回った。
朝には不安ばかりだった売り場で、今は残った商品をどう見せるかまで二人で考えている。
バザーは、いよいよ終盤へ向かおうとしていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




