選ぶ理由
選ぶ理由
「来た!」
ミオが思わず声を上げた。
「声大きいって」
「だって、ほんとに来たんだもん!」
昼を過ぎてしばらくした頃。
天女が頼んでいた追加の商品が、無事に店へ届いた。
午前中によく売れたものと同じくらいの大きさで、作りの細かさも似ている小物がいくつか追加されている。
「これ、近いね」
咲子が一つ手に取った。
「うん。こっちも売れそう」
「その前に値段決めないと」
「あ、そっか」
妖怪たちには、人間のお金がどのくらいの価値を持つのか分からない。
そのため、追加の商品には当然まだ値札がついていなかった。
二人は午前中に売った商品と並べて見比べる。
「これは……こっちと同じくらいかな」
「大きさも作りも近いね」
「じゃあ同じ値段?」
「それでいいんじゃない?」
「こっちは少し細かいよ」
「ほんとだ」
「じゃあ、こっちより少し上?」
「うーん……」
二人は商品を並べ、しばらく考える。
最初に値段を決めたときとは少し違った。
あのときは、自分たちで商品を見比べながら「このくらいかな」と考えるしかなかった。
けれど今は、午前中に実際の客の反応を見ている。
千円台なら比較的手に取ってもらいやすかった。
二千円前後でも、気に入った人は買ってくれた。
三千円を超えるあたりから、値札を見て考え込む人が増えた。
五千円を超えるものは、気に入ってもらえてもなかなか購入にはつながらない。
「これは千円くらいでいいかな」
「うん」
「こっちはもう少し細かいから……千五百円?」
「それくらいかな」
「じゃあ、これは?」
朝よりも少しだけ、自分たちなりの基準ができていた。
もちろん、それが正しいのかはまだ分からない。
それでも、何も知らずに値段を決めていた朝とは違う。
「よし!」
値札をつけ終えた商品を、ミオが机へ並べる。
「これで午後も大丈夫!」
「たぶんね」
「そこは大丈夫って言ってよ!」
◇
午後になると、会場の雰囲気が少しずつ変わってきた。
「あれ?」
ミオが通路を見る。
「子供、増えてない?」
「増えたね」
午前中は大人の客が目立っていた。
ところが昼を過ぎると、家族連れに加えて、小学生や中学生くらいの子供たちの姿も増えてきた。
ほどなく、数人の小学生が店の前で足を止める。
「これかわいい!」
「ほんとだ!」
「これいくら?」
一人の子が値札を見る。
「五百円!」
「こっちは三百円だよ!」
「百円のもある!」
ミオと咲子が顔を見合わせた。
午前中には、あまり動かなかった商品だった。
「これください!」
「私これ!」
「えっ、あ、はい!」
急に何人も声をかけてきて、ミオが慌てる。
「順番にね!」
咲子がすぐに声をかけた。
「私は五百円の!」
「はい。ちょっと待ってね」
「こっちは三百円?」
「そうだよ」
「じゃあ、これ!」
一人がお金を出している間にも、別の子は隣の商品を見比べている。
「こっちも三百円?」
「それは二百円」
「じゃあ、これも買える!」
「私、あと百円しかない」
「百円のはこっちにあるよ!」
午前中とはまるで違う。
大人の客は、色や形を比べたり、自分が使うところを想像したりしながら選ぶことが多かった。
子供たちは、まず自分の持っているお金で何が買えるのかを確かめ、その範囲の中から気に入ったものを選んでいる。
「ありがとうございました!」
子供たちを見送る。
ミオが机を見る。
「……減った」
「一気に減ったね」
「朝、全然売れなかったのに!」
「やっぱり来る人で変わるんだ」
「すごい!」
朝にはほとんど形が変わらなかった低価格帯の一角に、目に見える隙間ができていた。
◇
しばらくすると、今度は二人の小学生くらいの女の子が店の前へやってきた。
「あ、これ三百円だ」
一人が商品を手に取る。
「かわいいじゃん」
「うん。でも……」
女の子は小さな財布を開いた。
中身を確かめる。
「あと四百円ある」
「じゃあ買えるじゃん」
「でも、あっちのお店でも欲しいのあるんだよね」
「ああ、さっきの?」
「うん」
女の子は商品を手にしたまま考える。
その隣には百円の商品も並んでいた。
「こっちなら百円だよ」
友達が言う。
「そしたら、あと三百円残るじゃん」
「うーん……」
女の子は三百円の商品を見る。
次に百円の商品を見る。
また三百円の商品へ視線を戻す。
ミオは何も言わずに待っていた。
午前中なら、安い方を選ぶのだろうと思っていたかもしれない。
「……やっぱり、こっちにする」
女の子が選んだのは三百円の商品だった。
「いいの?」
「うん。こっちの方が好きだから」
「そっか」
「これください」
「ありがとうございます」
ミオが商品を受け取る。
会計を済ませ、女の子たちを見送った。
「……そっか」
ミオが小さく呟く。
「何?」
咲子が聞く。
「子供だから、一番安いの選ぶってわけじゃないんだね」
「そりゃそうでしょ」
「でも、お金あんまり持ってなかったよ?」
「だから、その中で一番欲しいのを選んだんじゃない?」
「ああ……」
ミオは百円の商品と三百円の商品を見る。
「買えるものの中から選ぶんだ」
「大人だって同じじゃない?」
「そっか」
使える金額は違う。
けれど、その中で何を選ぶのかは値段だけでは決まらない。
午前中に大人たちを見ていたときと、少しだけ似ていた。
◇
「これ、三百円?」
今度は少し大人びた小学生くらいの女の子が商品を手に取った。
「はい」
「こっちの五百円のと何が違うんですか?」
「こっちは少し作りが細かくて――」
ミオが二つを並べながら説明する。
午前中に何度も商品について聞かれた経験が、少しずつ役に立っていた。
「へえ……」
女の子は二つを見比べる。
「じゃあ、こっちにしようかな」
選んだのは五百円の商品だった。
「ありがとうございます!」
その隣では、別の子が百円の商品を二つ手に取っている。
「二つ買っても二百円だよね?」
「うん」
「じゃあ二つにする!」
「ありがとうございます」
咲子が会計する。
客が途切れたところで、ミオが改めて机を見る。
「午前中と全然違う」
「うん」
「五百円の、急に売れ始めた」
「百円とか三百円もね」
「値段変えなくてよかった!」
「ほんとにね」
もし午前中だけを見て、売れない商品だと決めていたら、この変化は分からなかった。
安いから売れる、高いから売れないというだけでもない。
誰が店に来て、その人がいくら使えて、その中で何を気に入るのか。
それによって選ばれる商品が変わる。
「誰が来るかって大事なんだ」
「時間もね」
「覚えとこう」
「うん」
◇
しばらくすると、今度は二人組の女子中学生らしい女の子たちが店の前で足を止めた。
「あ、これかわいくない?」
「どれ?」
「これ」
一人が手に取ったのは、千円ほどの商品だった。
午前中にも大人の客が何度か選んでいた、少し作りの細かい小物だ。
「ほんとだ。なんかちょっと変わってる」
「でしょ?」
手のひらに載せ、角度を変えながら眺める。
「こういうの、カバンとかにつけてもよさそう」
「いいかも」
もう一人も隣の商品を手に取った。
「なんかさ」
「何?」
「これ身につけてたら、願い事とか叶いそうじゃない?」
「何それ」
「分かんないけど。お守りっぽいっていうか」
「あー、ちょっと分かるかも」
ミオと咲子が思わず顔を見合わせた。
二人の女の子は、この品物がどこから来たものなのか知らない。
妖怪のことも、天女のことも知らない。
ただ見た目から、何となくそう感じただけなのだろう。
「千円かあ」
一人が値札を見る。
「今日、まだそんな使ってないでしょ?」
「そうだけど、このあとも見るしなあ」
「じゃあ、やめとく?」
「うーん……」
商品を手にしたまま、少し考える。
その様子を見て、ミオは午前中の客たちを思い出した。
年齢は違っても、迷うときの様子はよく似ている。
値札を見る。
商品を見る。
ほかに使うお金のことを考える。
それでも、もう一度商品を見る。
「……買ってこうかな」
「ほんとに?」
「うん」
女の子は手の中の商品を見た。
「なんか気に入った」
「願い事も叶うかもしれないし?」
「それは知らないけど」
二人が笑う。
「これください」
「ありがとうございます!」
ミオが答えた。
会計を済ませ、商品を袋へ入れる。
「願い事、叶うといいね」
友達がまた笑う。
「だから、そういう商品じゃないって」
「でも分かんないじゃん」
二人は楽しそうに話しながら、人混みの中へ歩いていった。
ミオはその後ろ姿を見送る。
「……願い事、か」
「たまたまでしょ」
咲子が小さな声で言った。
「うん」
「何も知らないんだから」
「分かってる」
それでもミオは、少しだけ不思議そうに机の上の商品を見た。
何も知らない人間が、妖怪たちに由来する品を見て「お守りみたい」と感じた。
それだけのことだ。
それ以上の意味があるのかどうかは、今の二人には分からない。
◇
また新しい客が店の前へやってきた。
今度は母親らしい女性と、小学生くらいの女の子だった。
「これ欲しい」
「自分のお小遣いで買える?」
「うん。五百円ある」
「じゃあ、自分で決めなさい」
女の子は真剣な顔で商品を見始める。
ミオはその様子を眺めながら、少し笑った。
午前中とは、売れる商品が違う。
使える金額も違う。
迷い方も少し違う。
それでも、自分が持っているお金の中で、一番欲しいものを選ぼうとするところは、大人も子供もそれほど変わらないのかもしれない。
「これにする!」
女の子が五百円の商品を一つ選んだ。
「ありがとうございます!」
ミオは笑顔で受け取った。
午後のバザーは、午前中とは違う顔を見せ始めていた。
本作品を含む、凛監修×生成AI合作作品は、同じ世界観の中でつながるシリーズ作品です。
それぞれ単独でもお楽しみいただけますが、同じ出来事が別作品では異なる視点から描かれたり、一方で起きた出来事が、もう一方の物語へつながったりすることがあります。
一つの作品だけでも楽しめる。
けれど、複数の作品を読むことで、初めて見えてくるものもある。
ぜひ、それぞれの物語をあわせてお楽しみください。
【人間×生成AIによる合作作品】
企画・原案・設定・ストーリー構成:時根脱才
文章制作・構成補助:ChatGPT(OpenAI)
本作品の世界観、キャラクター、各エピソードの原案・展開は作者が制作し、それをもとにAIと相談・推敲を重ねながら、小説として文章化しています。
本作品は「小説家になろう」「カクヨム」の両サイトに掲載しています。




